雨は上がる
「泣かないでシイ君」
「真理花」
「ちゃんと結婚して殺され…」
「好きなんだ」
好きだ大好き
どんどんバカみたいに好きになって
言われれば言われるほど
言い出せなくなるのに
どうしても早く自分のものに縛りたくて
夢でも現実でも
「シイ君」
「死なせない!」
「シイ君…シイ君…!」
「絶対死なせない死なないで欲しいずっと」
ずっと一緒に―――いたい
もうどっちが言ったのかわからない
なんで私達は抱き合ってるんだろう
なんでお互いきつく抱き締めながら泣いてるんだろう
どうしてこんなにわんわん泣いてるのに
空は明るくなっているんだろう
「…雨が…シイ君」
外に出てないのにめっちゃびしょ濡れな私は
窓の景色に気付いてシイ君を―――恋人を呼んだ
シイ君も泣いた顔のまま
ボンヤリと窓を見て――私の意図する事に気付いた
窓の向こうの遠くの空はまさに豪雨状態だろう厚くどす黒い雲に覆われてる
そして反対側からは眩しい夏の日差しが惜しみ無く注いでくる
相性が悪いであろう太陽と雨は時に絶妙な美を創造する
まさに今、天空に巨大な橋が現れ始めたのだ
空からの雨を背に
大地に巨大な七色が流れてくる
淡く煌めく巨大な帯は
鮮やかな彩りを増しながら弛く弧を描き
彼方の地へと幻の橋を架けていく
「ああ…」
大好きなシイ君の瞳の色だ
うっとりと眺める私をシイ君は静かに見つめる
「…今の真理花の瞳も七色だよ」
驚く私にシイ君は優しく笑う
瞳は日本人らしい黒に戻ったのにその端が七色に揺れる
見つめていたら近づいて、思わず目を閉じたら
唇に柔らかい何かが触れる
驚いて見上げたらやっぱり瞳の端に虹を瞬かせながら
「やっぱり今から役所行こう。やっぱり今日がいい。真理花とココで魔法を掛けたい」
何言ってんだコノヤロウ
眩し過ぎて顔が熱い
あんまり恥ずかしいから、微笑む私の虹をグイと引っ張り
お役所へ婚姻届を出しに雨上がりの光の中へ飛び出す
ああ
今や全てが七色に輝いていた




