Ⅶ~限りなく近く、極めて遠い世界~
今回のタイトルは某ロボットゲームのパロディですww
翌日、誓約の泉の族長会議の場に今回はアイリスもいた。
「アイリス、頼まれていた物を手に入れてきたぞ」
そう言って取り出したのは壁に貼れそうな大きいサイズの世界地図だった。
「ありがとうございます。こんなに大きな物を……助かります」
「向こうに話の合う者がいるのでな、その者に頼んだら快く用意してくれた。……あとこれを」
シェンが差し出したのは一通の封筒だった。
突き返されたのかと思ったが、アイリスが送ったのとは別の封筒で裏を見ると……。
「っ!?これは……?」
「先方もちょうど手紙を持ってきていてな。其方の手紙の内容を聞いているのでどうしたものかと思ったが、内容も説明した上で先方に渡しておいた」
「ありがとうございます」
手紙の内容は気になるが、一先ずポケットに入れて本題を始める。
「エノさん、彼方の世界地図を」
「アア」
中央のテーブルに地図を広げ、エノは電子モニターで元居た世界の世界地図を表示する。
「……やはり、こうなりましたか」
予想していたアイリスはポツリと呟き、予め聞いていたシェン・エノはため息を吐き、シャーリー・メグ・セレス・カレンは地図を何度か見比べていく内に驚きを顕わにする。
「エノさん、どうですか?」
「照合完了。90%以上同ジ世界ダ」
「アイリス、これは……」
「彼方の世界と此方の世界は元を同じとする世界、つまり並行世界という事です」
「アッチノ世界ノ地図ハ第三次世界大戦ガ起コル前ノマダ平和ダッタ時ノ物ダカラ、モシカシタラ今ハモウ少シ地形ガ変ワッテル可能性ハアルガ」
「偶然、という事は……?」
「可能性ハアルガ、全ク未知ノ異世界ノ地質マデ検討シダシテモ答エナンテ出ルワケガナイ。ソレニココマデ酷似シテイルノナラ、並行世界ノ方ガ納得ハデキル」
「あと、これは紅の世界で此方の世界の住人と話していた時から感じていた事なのですが、文化や文明で何処か似ている点が数々見受けられたのです」
「会談でも度々そういった共通点をよく聞くな」
「そうなると、ここまで証拠が揃っているのに全くの未知の異世界でただの偶然と断じるのは無理があるね」
とりあえずは並行世界であるという前提で一同は改めて世界地図を見比べる。
大きな違いは3つほどある。
「共存誓約地が一部であった大陸、ここでは太平洋と呼ばれる大海にあるけど、この世界には全くないんだね」
「一説によると、ここは大昔の超大型神獣の亡骸が土に還ってできた、地属性魔法で海底を隆起させて作った、といった話がある。つまりはこの世界と同じで元々は何もなかったという事になるな」
「人工島に近いという事ですか?」
「うむ、一つの島を創るほどに海底を引っ張り上げるとなると、天変地異が起こるやもしれんがな」
「規模が違い過ぎるよ」
苦笑しつつカレンは太平洋から今度は西、大西洋の方を指差す。
「ここはあっちでは確か浮島だったね。まさに人工島だ」
「此方の世界にないのも当たり前ではありますね」
そして最後に南を指差す。
「こっちではオーストラリアと呼ばれる小さい大陸の東に隣接する様に並ぶ縦長の大陸、これもないね」
「そこについて彼方ではタスマンティス大陸と呼ばれているな。他二つと違って、これはちゃんと地質的に存在する大陸だ」
「でもそれなら何故こっちにはないんだい?」
「文明の違いかもしれません」
「文明?」
「彼方の世界は魔法が発達した文明です。しかし此方は主に科学と呼ばれる技術により発展してきた文明です」
「文明の違いは分かったけど、それで大陸一つの有無が変わる?」
「魔法文明は自然との共存を絶対条件としていますが、科学文明はそうではありません」
「悪く言うと二の次、または軽視している……という事ね。これは前にそういう話を聞いたわ」
「なるほど、だから地の力……地質にも影響して彼方だけに存在する大陸があると」
「可能性としては有力かと思います」
種族の中で一番自然との繋がりが強い精霊族として、自然を蔑ろにされる事にはあまり良い気はしないものの、それはそれとして改めてセレスは自然の力に感心する。
それを横目に地図から指を離して背筋を伸ばしたカレンは「で?」と切り出す。
「多少の違いはあれど、あっちの世界とこっちの世界が並行世界だという事はほぼ確定したと言っていい。それはそれとして、今それを突き止めた理由は?」
「先日襲撃してきた少女は、何故か天凶を持っていました」
「ああ、それは聞いてるよ。それが並行世界と何の関係、が……」
言っている内にカレンは血の気が引いていく。
「って、まさか」
「そのまさかです。並行世界の存在がほぼ確定した今、あの少女は第三の並行世界から来た汀さんと予想しています」
「………………」
突拍子もない様でしっくりくる話に話を聞いていた一同は反論もなくただただ息を呑む。
「そして、亘さんにお願いしたのは現在の汀さんの状況です」
「それは……この世界のナギサが何か関与してるという事か?」
汀とアリアを妹の様に可愛がっているアイリスにとってその判断は苦しいだろうと思ったのだが……。
「いいえ逆です」
「逆?」
「汀さんに関与していないかを確かめたいのです。万が一にも汀さんに手を出しているのなら、例え並行世界の汀さんであろうと然るべき対処をさせていただきます」
「……そうか」
淡々と話す言葉の裏で背筋が凍る様な圧を感じる中、シェンは思うところがあるのか平然と返す。
「以上から調査班として、現状の急務は汀さんの現状確認、そしてあの少女が持つ天凶の回収または破壊です」
「そうか、あの少女が並行世界のナギサと言うなら、持っている天凶もまた並行世界の物である可能性が極めて高い」
「それなら紅の世界にある筈の物を持っている理由にもなります。……ですが、回収または破壊というのは?確かに危険物ではありますけど」
セリスの問いにシャーリーは横目でメグを見る。
メグは項垂れつつそっとため息を吐いている。
「昨日判明したのですが、天凶には簡易的にリッチに成れる事が判明しました」
「! リッチだと?その話、もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」
リッチの名を聞いた途端、シェンは眉間に皺を寄せる。
「リッチ?なんだいそれは?」
どんな存在なのか知っているのか、エノとセレスにも緊迫した雰囲気が漂う中、ただ一人知らないカレンにアイリスは説明。
その流れで零夜からの知識や経験の引き出し、そこから天凶による魂の分化と危惧も説明する。
「はぁ~そんな奴までいるんだねぇ。……え、セレスさんにエノも知ってたの?」
「かつて猛威を振るった禁忌の存在として言い伝えられています」
「右ニ同ジク」
「無理もない。リッチが最後に確認されたのは第三次世界大戦、ワシがまだ若かった頃、アイリスが眠りにつく前の話だ。経験や知識を蓄える傾向のある精霊族や機人族はともかく、あんなものは進んで口にしようとは思わん」
「そんなヤバい奴等を、魂を分けて更に他者に自分のものを与える事ができる天凶で、複雑な術式無しでできると」
「零夜さんを基準とするなら、その腕前まで使いこなす事が代わりの条件となりますが……」
「魔法の代わりに武の腕前か、とはいえまだ一刻を争うほどでないのは唯一の救いだね」
「だが、この時点で既に問題が一つ発生している」
「え?」
シェンがギロリとメグに視線を向ける。
それにシャーリーはあからさまにため息を吐く。
「メグ、それはトレーサーを通じて一部始終を見ていたお前達天使族ならわかっていたと思うが、何故今の今まで報告しなかった?」
「どういうことだい?」
「調査班は零夜殿の知識や経験を受け継ぎ、リッチを知る事で天凶の危険性に辿り着いた。だが天使族は違う」
「確かに天使族は昔っからアンデッド系の不死者を目の敵にはしていたけど」
「そうだが今回は違う。……我等の世界で最初に出現したリッチ、つまりリッチの術式を構築し実践したのが天使族なのだ」
「……………………え?」
これは知らなかったのか、カレンだけでなくエノとセレスまで唖然とする。
「責任があるのは当時の天使族であって今の天使族にその是非を問うつもりはない。だがだからこそ共有すべきではないのか?」
再度問うシェンに対してメグはそれでも何も言わずに俯いたまま。
明らかに様子が違うメグに族長達は只ならぬ雰囲気を感じ取る。
「……レイヤ様が天凶を使い魂を分けたという事は報告を受けておりました」
「あの時、その場に居合わせなかったのね。でも魂を分けたと聞いた時点で、想像つかなかったの?」
天使族とリッチについて察しはついていても敢えて口にはしなかったものの、まさか全く共有していなかった事に少なからず驚いているシャーリーが追及する。
「実は、天使族の間で内部分裂が深刻化していて……」
「理由は?」
「共存賛成派と至上主義派の衝突です」
「またわかりやすい……」
カレンが頭を抱えて呆れる。
「クルスさんの様に共存に前向きな人と、ロフォみたいな天使族の事しか考えてないのが対立しているというわけね」
そう相槌を打ちつつ、シャーリーも腑に落ちない様子。
前から話は聞いていたが、そこまで深刻になっていたのだろうか?
「つまり、そんな状況でリッチと天凶の事を知れ渡れば……という事か」
「しかしそれと報告しないは繋がらなくないか?」
「自分達ですら信じられない状況で不確かな情報を出すわけにはいきません」
「あくまでトレーサー越しに見た情報は確たる証拠はない、そう言いたいのだな」
しかし経験に基づく情報はその通りでなくてもやはり言うべきでは?という疑念が広まりつつあるが、それをシェンが深いため息一つで流す。
「……民達の派閥抗争に苦心している気持ちはわかっているつもりだ。もうよい、この件についてこれ以上は不問とする」
「申し訳ありません……」
その後、とりあえず謎の少女へ警戒しつつ紅の世界の定期調査は変更なく継続という方針に定まり、何ともすっきりしないまま解散となった。
◆
解散となった後、その場にはシャーリーとアイリス、メグにエノがその場に残った。
この4人が同世代である事は周知されているからか、他の族長は気を利かせてさっさと帰ったようだ。
「メグ、いったい何時からそんな事になったの?」
今この地に入る種族の中で精霊族、獣人族、機人族は元より共存に前向き。
プライドが高い魔人族も一見共存に乗り気ではない様に見えて、実力を示せば受け入れてくれる(個人差あり)。
プライドが高いのは龍人族も同じで他種族を見下す傾向もあるが、特にその傾向が強い者を族長であるシェンが睨みを効かす事で辛うじて均衡を保っているのだが……。
「元々至上主義派はこの世界に来る前から共存には否定的だった。それでもどうにか抑えてきたんだけど、ここ最近勢いが強くなってきていざこざが絶えなくなってきたの」
「具体的にはいつから?」
「あの少女の襲撃の後、貴女達から話を聞いた直後から。あの少女が天凶を持っている事と、トレーサーの件が漏れたようなの」
「と言う事は」
「ええ、トレーサーの維持をしていた部屋は外に声が漏れる事はない隔離された場所だから外に漏れない。よってその場にいた者の誰かが至上主義派と繋がっていた可能性が高い。今、その者の洗い出しをしているところ」
「でもそれをしたところで根本的解決にはならなくない?」
外にいるからか、機械の身体を開いた状態で中にいるままのエノが追及するもメグは首を横に振る。
「この際だから敵味方をはっきりしておきたいの」
「敵味方って……内紛を起こすつもり?」
「今はまだ心構えだけで、最悪そうなってもおかしくないと思ってる」
「そうなると一度エレリルを戻した方がよくない?そんな状況だと貴女の身も決して安全ではないでしょう?」
「いや、あの子は天使族から一度離したままの方が良い。最悪の事態まで発展した場合、彼女は同族であっても躊躇いなく武器を振るうでしょうけど、生真面目であるが故に箍が外れて一生心を病むでしょうね。自分だけ除外されるのもそれはそれで気にするでしょうけどずっとマシよ」
「貴女はいいのですか?」
「こんな状況で族長を引き継いだ時点で覚悟はしてるわ。多少の考え方の相違は受け入れられても、自分本位で他者を犠牲・虐げる考え方は断じて受け入れられない。それだけ」
「……そう、そこまで覚悟決めてるのなら何も言わないわ。あとは……そうね、保険としてあたしの名前を貸してあげるわ」
「? 何故シャーリーさんの名前を?」
「魔人族族長の名を出す事は、下手に手出しすると魔人族を敵に回す事になるのよ。幸い魔人族と天使族は犬猿の仲、その時は文句も言わずについてきてくれるでしょう」
「あったら困るんだよその時は」
本格的な種族間抗争への発展にエノがツッコミを入れる。
「でも確かに、シャーリーは代行者でもあるし、牽制するというならありかもね。私の名前も出していいよ。魔人と機人にもケンカ売る事になるねぇ」
ニヤリとエノが少し意地悪く笑みを浮かべる。
「代行者なら私も――」
「あー……」
アイリスも名乗りをあげるが、シャーリーとエノは揃って複雑な表情で首を傾げた。
「アイリスの存在は至上主義派からしてみると目の敵なのよね。逆に刺激する可能性もなくはないのよね……」
「アイリスの人柄から名乗り出ても嘗められて相手にされない可能性もあるね」
「そ、そんなぁ……」
1人ハブられる形となったアイリスがしょぼくれていると、ふいにメグが吹き出した。
「メグさん?」
「ご、ごめん、つい……。でもおかげで余計な力が抜けて、リラックスできたわ」
「むー……それはそれでいいのですが」
ずっと張り詰めていた様子のメグがいつもの和やかな雰囲気を取り戻しつつあるのを、アイリスは少々納得できないものの一安心する。
「でも、本当に心配なのです……」
「……ありがとね」
先程凛として会議を進めていた姿はどこへやら、いつもの様子で心配そうにしているアイリスをメグはハグする。
「もし何か進展あったら教えるから。場合によっては調査班に依頼するかもだからその時はお願いね?」
アイリスをそっと離しながら話すメグはすっかりいつもの調子に戻ったようだ。
◇
屋敷に戻った後、調査班の面々は屋敷の裏庭の一角に集まっていた。
屋敷の裏庭にはアイリスが趣味で始めたハーブ園もあるのだが、全く手つかずの区画をガロンとティーバが何やら広くやや深めに掘っており、クララが図面と見比べながら修正している。
それを見守りながらテラス席に座っているシャーリーとアイリスは作業に加えず傍に座らせたエレリルに先程の話をした。
「……そうですか、天使族はそんな事に」
「一応戻るべきか聞いたけど、現状のままと。強くは言ってなかったけど、あれは厳命ね」
「付き合いの長いシャーリー様がそう言うのであれば間違いありません」
「大丈夫ですか?」
「全く気にしていないと言えば嘘になりますが、メグ様の意図は察しているつもりです」
「そう、なら何も言わないわ」
特に憂いのある様子もないエレリルにシャーリーはふと笑みを浮かべる。
「ところで、アリアちゃんから手紙が来たと言っていましたが?」
「ええそうね…………アリア『ちゃん』?」
「あ、いえ、その……」
しまったとばかりに露骨に視線を逸らしたエレリルだが、ふとシャーリーは以前メグとした世間話を思い出した。
汀とアリアが滞在していた時、天使族の里にいた時二人は特にエレリルに懐いていたとか。
ならエレリルも好意的に思っていてもおかしくはない、と思ったが思った以上に可愛がっていた様だ。
「……え、ここで開けていいのですか?部屋とか落ち着いた所の方がよろしいのでは?」
徐に封筒を開けようとするアイリスにエレリルが聞くも、アイリスは首を「いえ」と横に振る。
「内容によっては意見を求めるかもしれないので今ここで」
構わずアイリスは封筒を開封し便箋を取り出す。
席を立ち、シャーリーとエレリルも左右から覗き込む。
『シャーリー姉さん、アイリス姉さんへ
お元気でしょうか?
あの結界の調査に来ていると紅の会の亘さんから聞いて、この手紙をお願いしました。
聞いた様子では今も頑張っているんだと思います。
私達はあの後、無事におじいちゃんと再会して新しい場所でまた暮らし始めました。
でも兄さんがいなくて、ショッピングモールの事故後の喪失感をまた感じていましたが、一年経ってようやく慣れてきました。
あ、別に姉さん達を責めているわけではないよ!?』
慌てて手を振っている様子が容易に思い浮かび思わず笑みがこぼれる。
『私達の近況は……手紙を出す以上隠しても仕方ないから言うけど、あまり良くない』
しかし不穏な一節に不安を覚えながら次へ読み進めていく。
『知ってるかもしれないけど、私達含めてあの結界から脱出した人達を他所では紅の生還者と呼んでるの。
でもあの結界の犠牲者の家族の一部から猛烈に攻撃される事が多いんだよね。
おじいちゃんや紅の会の人達が守ってくれたりするんだけど、殆ど外を出歩けない状況。
それだけでもキツイのに、それが関係ない子供にも伝染して学校に行けばイジメの毎日』
正直、危惧していた事ではあった。
基本的に人間というのを信用していないシャーリーにとっては、既に紅の生還者の中に問題のある者がいたのを知っているのだが……。
『私は元々人には期待していないおかげで気にしてないけど、汀がかなり参っているみたいで不登校になってる。
勉強や運動は部屋でやってるからまだいいんだけど、とにかく外に出たがらないの。
私やおじいちゃんの前では外に出なければ何もないんだけど、夜時々部屋で『帰りたい』って呟いてる』
「……これは」
眉間に深い皺を寄せてエレリルは息を呑む。
『半分愚痴の様になってしまってごめんなさい。
ただ汀もこのままではいけないと思っているらしくて、多分読まないと思うから返信は大丈夫。
今まで通り頑張ってくれたら励みになると思うから。
それじゃ、また会える日まで。 アリア・ジアコーサ』
「………………」
色々考える事がある内容にアイリスは考えを巡らせる。
「……とりあえず」
最初に口を開いたのはエレリルだった。
心なしか表情は不自然に晴れやかだ。
「あの子達に害を成す虫共を粛正しに行っていいですか?」
「エレリルさん!?」
ランスを手に飛んでいこうとするエレリルをアイリスが止めていると、シャーリーがため息を吐く。
「待ちなさいエレリル」
「そうです、とにかく落ち着――」
「行くならあたしも連れていきなさい」
「シャーリーさん!?」
「まぁ冗談は置いておいて」
「冗談に聞こえなかったのですが……」
「なんだなんだ?」
一連のやり取りに作業をしていたガロン達が戻ってきたので手紙を見せる。
「ふん……やはりクズはどこにでもいるのか」
この手の話には常に苛立ちを見せるガロンは憎々しげにぼやく。
「ちなみに二人に会った事は?」
「私は遠巻きに見てただけで直接顔を合わせていません」
「僕達は結構話しかけられたよね?」
「話しかけられたというか、絡まれたというか……」
「そんなに?」
「『うわ~リザードマンだぁ』とか『サメだぁ~』とか言って目をキラキラさせてたね」
「同族でも性格云々を置いといて、子供に怖がられると言っていたわね」
「そうそう、だからあんな反応されてびっくりしたよ」
1年と少ししか経っていないのに懐かしそうに笑いながら話すティーバだったが、その表情はすぐに少し曇る。
「しかし、そうか……何とかできたらいいんだけど……」
「自分で前を向いて何とかしようとはしているようですが……」
「助けてくれる大人はいても、この感じだと相手の数が多すぎて埒が明かないな」
「そもそも私達にできる事はそれほど多くはありませんね…………ふぅ」
目を伏せたかと思えばアイリスは一瞬ふらついた。
「アイリス、ちょっと大丈夫?」
「ここのところ精力的に活動してお疲れでしょう。今日のところはこのままお休みになられた方が良いでしょう」
「そうしますね……」
エレリルの手を借りながら部屋に戻っていく。
「……何か嫌な予感がするな」
それを見送りガロンはぽつりと呟く。
「嫌な予感?」
「いや、なんとなく」
「獣人族の勘はバカにできないのよね。アイリスには暫く養生してもらいましょう」
「で、どうするんですか?返事、出しますか?」
「そうね……あの言い方からして、おそらく汀は自分を律して敢えて読まなさそうね。何より下手に返事をすると勝手な事をするなとアリアと喧嘩になる可能性もあるわ。これについては考えがあるから、今度亘さんに会ったら相談しましょう」
「相談といえば、とりあえずアイリスさんの話を基に掘ってみたけど、この後どうすればいい?」
ガロンが指さしたのはさっきまで掘っていた穴だ。
「そうね、それも後で話を通しておくから、ひとまず用意しておいたシートを被せておいて頂戴」
「了解」
言われた通り、ガロンとティーバは穴の傍らに用意されていた穴も覆うほど広いシートを手分けして広げるのだった。




