第29話「名前呼び」
なんかソワソワして眠れないよ。なんで?
お姉ちゃんが作った家にいれば安心だとは思うけど、このままじゃ落ち着いて眠れない。そーと外に出てみよう。
「……わたしの気のせいであって」
玄関の扉をそーっと開けてキョロキョロ。
森は静かで真っ暗。月明かりで照らされていても不気味だよ。
「大丈夫みたいだし寝よう。うん、寝よう」
ちゃんと戸締まりすれば大丈夫大丈夫。お姉ちゃんの魔法を信じないでどうするわたし!
「どうかして? そんなにそーっと動いて」
「きゃあ!?」
つい反射的に声を出しちゃったよ。驚いちゃった。
「人を幽霊か何かと一緒にしないでくださる。意外と傷つきやすいの、ワタシ」
よくよく冷静に見るとヴェルさんだ。わたしと同じで眠れないのかな?
「ごめんなさい。えーと。ヴェルさんはどうして起きているの?」
「理由なんかないわ。ただただ眠れないだけ」
「なんだか嬉しいよ。わたしだけが眠れないわけじゃなくって」
「そんなことで嬉しくなるだなんて単純だわ」
「それがわたしだよ」
「そういうことにしといてあげるわ。しかし困ったものね。寝ようと思えば思うほど眠れなくなるわ」
「ヴェルさんは牛乳飲める?」
「飲めるわ。飲んでいるのに大きくならないけれど」
もしかしてヴェルさん、胸の大きさを気にしているの?
お姉ちゃんから、リンさんと同い年だと知ったときは驚いちゃった。けど不思議。ヴェルさんがリンさんと同い年だと知っても、なんだか妹みたいな感じなんだよね。
「ヴェルさんは充分にかわいいよ。胸の大きさだけが女の子の魅力じゃないから安心して。自信を持って」
「嫌みかしら。ワタシを励ましつつ、そんなに胸を強調して」
「強調なんてしてないよ」
「意識せずに揺らすなんて嫌みだわ」
「まあまあ。えーと。温かい牛乳も飲める?」
「さっきからの熱い牛乳推しはなんなのかしら」
「眠れないときは、温かい牛乳を飲むといいの。よくお母さんに作ってもらったんだよ」
「ふーん。ワタシにも効果ある?」
「きっとあるよ。待ってて」
ヴェルさんと話していたら、さっきまでの不安が消えちゃったよ。一緒に起きている人がいるだけで安心したからかな。
思い出すよ。お母さんに作ってもらったときのことを。なんでかは分からないけど、いつも飲む牛乳とは違って感じたっけ。
「こうして誰かと一緒に寝食を共にするなんて久しぶりだわ。この半年ずっと1人だったから」
「じゃあもう寂しくないね。はい、どうぞ」
「べっ、別に寂しくなんてなかったわっ。……甘いわ」
「砂糖を入れたの。入れない方がよかった?」
「ううん。これはこれでいけるわ」
「よかった!」
わたしも飲もう。いただきます。うん、美味しい。飲むと安心するよ。甘さもちょうどいい。
「……ねえ、なんて呼べばいい? 呼べないと不便だわ」
「ヴェルさんの好きに呼んでいいよ」
「そう。ならそうさせてもらうわ。……ありがとう、ユキちゃん」
「どういたしまして」
ヴェルさんに名前で呼んでもらえたよ。嬉しい!
今日の牛乳の味も忘れられないね。




