第1話 好きな人に恋人ができたので、勇者パーティーを抜けることにした
「私、セインと付き合うことになったの」
異世界に落ちて126日目、僕の三年半に及ぶ片思いは、僕の能力で作った台所の丸テーブルを挟み、驚くほど静かな声で終わった。
青い魔石を仕込んだ湯沸かし器が、しゅうしゅうと細い音を立てている。さっきまで二人分の茶を淹れるつもりだった僕は、火力調整のつまみに手を伸ばし、必要もないのに一段弱くした。
「そっか」
ほかに言うべきことがある気はしたけれど、最初に出てきたのはそれだけだった。
向かいに座る水野香澄は、両手で包んだ木のカップへ視線を落としていた。肩まである髪を左側でひとつに結んでいる。こちらへ来た日に使っていた黒いゴムはとっくに切れ、今はこの国で買った深緑の紐を使っていた。
高校では同じクラスでも、毎日話すほど親しいわけではなかった。ところが放課後の教室から二人揃って異世界へ落とされ、黒い牙を持つ獣に追い回され、セインたちに助けられてからは、嫌でも顔を合わせることになった。日本へ帰る方法が見つからないまま四か月を生き延びた僕らは、もう同級生というより、同じ事故から生還した仲間に近い。
だから香澄が、僕へ最初に話しておこうと考えた理由は分かる。
分かるのと、平気でいられるのは別の話だった。
「いつから?」
「付き合い始めたのは三日前。北砦から戻った夜に、セインが言ってくれたから。でも、私のほうは……もう少し前からだと思う」
香澄は言葉を選びながら答え、僕の顔を窺うように目を上げた。嘘をつくのが苦手な彼女らしく、頬だけでなく耳まで赤くなっている。
「北砦から戻った夜って、香澄が治癒魔法を使いすぎて倒れた日?」
「うん。起きたらセインが廊下で寝ていて、私より先に神官長さんから怒られてた」
「あの人、勇者なのに石の床で寝るんだな」
「毛布は掛けてたよ?」
問題はそこではない気がする。けれど、香澄が少しだけ笑ったので、僕も口元を緩めた。
セインが香澄を抱えて砦へ駆け込んできた時点で、こうなる予感はあった。普段は魔物の返り血を浴びても眉ひとつ動かさない男が、香澄の顔を何度も確かめながら、僕に湯を用意してくれ、何か食べさせられないかと同じ質問を三度もしたのだ。
香澄のほうも、意識を取り戻して最初に呼んだ名前は僕ではなかった。
それでも、実際に言葉として聞くまでは、どこかで都合のいい可能性を残していたらしい。胸の真ん中へ鈍いものが落ちたまま、うまく息が入ってこなかった。
「おめでとう」
今度は、きちんと言えた。
香澄は眉尻を下げた。喜んでいいのか、それとも僕の様子を気にするべきなのか決められないらしい。
「悠真は、どう思う?」
「セインなら安心だと思う。無茶はするけど、自分が怪我するより仲間が怪我した時のほうが慌てる人だし、香澄のことを大事にするよ」
「そうじゃなくて……」
言いかけた香澄の指先が、カップの縁で止まった。
僕の名前は佐原悠真という。セインは最初から僕をユウマと呼んだが、香澄が下の名前で呼ぶようになったのは、こちらへ来てひと月ほど経ってからだった。それだけのことを、当時の僕は一日中思い出していられた。
片思いを始めたきっかけも、香澄はたぶん覚えていない。
一年生の校外学習で、僕がバスに酔った時だった。窓側の席を楽しみにしていたはずなのに、香澄は「通路側のほうが友達と話しやすいから」と、誰にも気を遣わせない言い訳をして席を替わってくれた。あの頃から彼女は、親切にした相手へ借りを作らせないのが上手だった。
異世界でも、その部分は変わらなかった。治療を待つのが平民の兵士でも、貴族でも、血だらけの魔物狩りでも、香澄は同じように膝をついた。そんな彼女が好きで、だからこそ勇者として先頭に立ち続けるセインを放っておけなかったのだろう。
「僕は、明日ここを出ようと思ってる」
香澄の手から力が抜け、木のカップが卓上で小さく鳴った。
「ここって、《旅人の家》から?」
「勇者パーティーから。セインには今夜話すつもりだった」
「待って。急にどうして? 北砦の仕事が終わったら、みんなで王都へ戻るはずだったよね?」
「王都へ戻るのは、みんなだ。僕は南へ行く」
口に出してみると、胸の奥に落ちていた重さがほんの少し動いた。
この城塞都市から南へ向かえば、二つの領地を越えた先に海がある。市場へ来ていた商人によれば、夏の海は青緑色で、陽が沈む頃には岸辺の砂まで赤く染まるらしい。
理由としては頼りない。それでも、魔王軍がいる北ではなく、王都のある東でもなく、自分で地図を見て行きたいと思った最初の場所だった。
「私たちのことが原因なの?」
まっすぐに問われ、ここで違うと言えば、香澄はたぶん信じない。信じたふりをしても、後から自分を責めるだろう。
「きっかけではあるよ」
僕が答えると、香澄の唇がわずかに開いた。
「僕は香澄が好きだった。正確には、今もまだ好きなんだと思う」
言った途端に心臓が速くなった。もっと早く伝えておけばよかったという後悔も、今さら何をしているのだという恥ずかしさもあったが、言葉を引っ込めることはできない。
「だから、二人のことを祝いたい気持ちと、近くで見たくない気持ちが両方ある。何もなかった顔で今まで通りにするのは、たぶん無理だ」
「私、気づかなくて……」
「気づかれないようにしてたんだから、香澄が悪いわけじゃないよ。断られるのが怖くて何も言わなかったのは僕だし、セインを選んだことまで謝られたら、かえって困る」
香澄はすぐには答えなかった。湯沸かし器から上がる音だけが、妙に大きく聞こえる。
やがて彼女は目元を指で押さえ、困った時にするように一度だけ鼻から息を吐いた。
「悠真は、ずるいね」
「うん。自分でも、今言うのはずるいと思う」
「そうじゃない。そんなふうに全部自分のせいにされたら、私、何も言えないじゃない」
「じゃあ、ひとつ頼んでもいい?」
「何?」
「日本へ帰る手掛かりが見つかったら、必ず知らせる。香澄のほうで見つけた時も、僕に教えてほしい」
僕らを調べた王都の神官によれば、異世界から人が迷い込む例は数十年に一度あるものの、帰還に成功した記録は残っていない。それでも、家族を忘れたわけではないし、帰ることを諦めたわけでもなかった。
王都の書庫だけを探すより、自分の足で各地の遺跡や伝承を訪ねたほうが、僕の能力にも合っている。これは昨夜から何度も自分へ言い聞かせた理屈だったが、嘘ではない。
「分かった。約束する」
香澄は頷き、首から下げていた細い鎖を外した。鎖の先には、親指の爪ほどの銅色の鍵が付いている。
僕が《旅人の家》への出入りを許した相手にだけ渡せる、客用の鍵だった。
「これは、返したほうがいいよね」
「そうだね」
非常時のために持っていてもいい、と言いかけてやめた。受け取った鍵には、彼女の体温が残っていた。
「今までありがとう、悠真。私、この家がなかったら、最初のひと月で駄目になってたと思う」
「僕も一人だったら、とっくに駄目になってたよ」
それは慰めではなく、本当のことだった。
香澄が椅子を引いて立ち上がる。出口へ向かいかけた彼女は、扉の前で足を止めた。
「南の海、綺麗だといいね」
「魚も美味しいと助かる」
「そういうところ、変わらないね」
今度の笑顔は、泣き出しそうには見えなかった。
彼女が扉を開けると、その先には勇者一行へ貸し出された砦の一室がある。香澄が出て扉を閉めた途端、木製の扉は薄い光へ変わり、壁へ吸い込まれるように消えた。
一人になった台所で、僕は二つのカップへ茶を注いだ。片方を流しへ捨てる気にはなれず、結局どちらも自分で飲んだので、その夜はなかなか眠れなかった。
◇
「殴られる覚悟はしてきた」
夜もだいぶ更けてから《旅人の家》へ入ってきたセインは、椅子へ座る前にそう言った。
腰の聖剣を外し、廊下側へ置いてきている。赤茶色の髪はまだ濡れており、鍛錬場から水だけ浴びて来たらしい。覚悟のわりに防具まで脱いでいるあたり、本気で僕と争うつもりがないことだけは分かった。
「どうして僕が殴るの?」
「友の想い人を奪った男は、ユウマの故郷では殴られないのか?」
「人を荷物みたいに奪ったことにするなよ。香澄が自分で選んだんだ」
セインは一瞬目を丸くしたあと、肩から力を抜いた。
「カスミにも似たようなことを言われた。私は聖剣ではないから、勝手に所有者を決めるな、と」
「本人に叱られてるじゃないか」
「ああ。付き合い始めて三日だが、既に二度叱られた」
少し誇らしそうなのが腹立たしい。殴りはしなかったものの、薬草茶ではなく、砦の兵士から貰った一番苦い茶を出してやった。
セインは眉ひとつ動かさず飲み込んだ。北部の貴族家に生まれ、十八歳で聖剣に選ばれた勇者は、味覚まで鍛えられているらしい。
「パーティーを抜けると聞いた」
「早いな」
「カスミからではない。ガド爺が、お前が荷物を分けているのを見たそうだ」
うちの槍使いは五十歳を過ぎているのに、そういうことへ気づくのだけは妙に早い。昼のうちに共同装備と自分の私物を分けておいたのは、やはり失敗だった。
「北砦までの道は確保したし、補給隊も来た。僕が抜けても、すぐ誰かが困ることはないと思う」
「困らないと言えば嘘になる。《旅人の家》へ食糧も寝床も収められるお前がいたから、俺たちは普通の隊の倍の距離を進めた」
「だから、今にしたんだ。これから北へ入れば、抜ける時期を失う」
セインは僕の顔をしばらく見てから、苦い茶をもう一口飲んだ。
「俺とカスミのせいか?」
「同じ質問をされたよ。答えも同じで、きっかけではある」
「なら、俺が待てば――」
「何を待つんだ? 僕が香澄に告白して振られるまで?」
「それは……」
「セインが遠慮したところで、香澄が僕を好きになるわけじゃない。それに、僕が出ていくのは二人を困らせるためじゃないよ」
言いながら、自分でも確かめる。悔しくないわけではない。これから先、二人が並んで笑う姿を想像すれば、今でも胃のあたりが縮んだ。
けれど、セインに負けたから逃げる、というのも少し違う。
この世界へ来てから、僕はずっと帰ることと香澄を守ることばかり考えていた。行き先はセインたちが決め、必要な物を揃え、夜になれば皆を《旅人の家》へ入れる。役に立てるのは嬉しかったし、仲間として過ごした日々を嫌だったとは思わない。
ただ、一度くらいは、自分が見たいものを見に行ってもいい。
「僕の特典は《旅人の家》だ。神殿の鑑定文には、『主が自ら選んだ旅路によって成長する』と書いてあった。でも僕は、まだ一度も行き先を選んでないんだよ」
僕らが転移した直後、姿の見えない何者かから与えられた能力を、この世界では《渡界特典》と呼んでいる。香澄が得たのは、ほとんどの傷と病を治せる《白陽の手》。僕の能力は、どんな場所からでも小さな家へ入れるという、戦闘向きではないものだった。
もっとも、雨風を防げて、水と寝床があり、食糧を傷ませずに保管できる。それだけで十分すぎるほど役に立ったので、不満を持ったことはない。
「南へ行って、何をする?」
「まず海を見る。その後は着いてから考える」
「目的が海を見ることだけなのか?」
「悪い?」
「いや」
セインは口元をわずかに上げた。勇者として人前に立つ時の整った笑みではなく、魔物を罠へ追い込んだ時によく見せる顔だった。
「羨ましいと思っただけだ」
「勇者がそんなこと言っていいのかよ」
「勇者だから言う相手を選んでいる。俺には北へ行く理由があり、自分でそれを選んだつもりだが、ときどき何も背負わず南へ行きたくなる日もある」
セインは腰の革袋から、折り畳んだ紙と銀貨の詰まった小袋を取り出した。
「四か月分の報酬と、北砦攻略の褒賞だ。紙のほうは、勇者セイン・アーデルが、お前を正式な同行者として認める身分証明になる。南部では王都の証文より俺の名前が嫌われている場所もあるそうだから、出す相手は選べ」
「役に立つのか立たないのか、どっちなんだ?」
「使い方を考えるのは自由人の仕事だろう」
言い返せず、僕は紙と小袋を受け取った。持った瞬間に分かるほど重い。食事と宿に困らない僕なら、一年は旅ができる額だった。
「王都には、僕が逃げたと言ってもいいよ」
「言わん。そもそも、お前は王国に仕えると誓っていない。陛下には、勇者の命令で南方の転移伝承を調べに行かせたと報告する」
「それ、嘘じゃないか?」
「帰還の手掛かりを探すのだろう? 命令したことにすれば、王国も旅費を出さざるを得ない」
「勇者って、もっと正直な仕事だと思ってた」
「俺も、なる前はそう思っていた」
これでは嫌いになりようがない。香澄が選んだ相手としては申し分なく、片思いの競争相手としては最悪だった。
僕が溜め息をつくと、セインは椅子から立ち上がった。出口の手前まで行ったところで、振り返る。
「ユウマ。旅に飽きたら戻ってこい。俺たちの仲間でなくなっても、俺の友でなくなる理由はない」
「次に会った時、香澄を泣かせてたら殴るよ」
「覚えておく」
セインが出ていったあと、苦い茶の残ったカップを洗いながら、僕は少しだけ笑った。
◇
翌朝、城塞都市リーベルの南門には、香澄とセインだけでなく、勇者一行の全員が揃っていた。
白髭の槍使いガド爺は、携帯食料を詰めすぎて口の閉まらなくなった袋を押しつけてきた。魔術師のリシュラは餞別だと言って、火を点けるだけの魔道具を七つも寄越した。斥候のノノは僕の背嚢へ勝手に酒瓶を入れ、十五歳の従騎士トルクは泣いていないと言い張りながら鼻をすすっている。
「僕、《旅人の家》があるから荷物はいらないって、何度も言ったよね?」
「家に入る前に腹が減るかもしれんじゃろうが」
「火の魔道具は、いくつあっても困らないわ」
「酒は水より大事な土地もあるよ」
三人から別々の理屈で言い返され、結局すべて受け取ることになった。正式に加わって百日余りとはいえ、魔物の巣で背中を預け、同じ鍋から固い豆を食べた仲間である。黙って出発しようかと考えていた昨夜の自分を、少し恥ずかしく思った。
最後に香澄が差し出したのは、油紙で包んだ昼食だった。
「焼いたお肉とチーズをパンに挟んであるから。南の街道なら、夕方までは傷まないって厨房の人が言ってた」
「香澄が作ったの?」
「切って、挟んだところだけ」
「じゃあ安心だ」
「どういう意味?」
香澄が僕の腕を軽く叩いた。たった一日で何もかも元通りになるわけではなく、触れられた場所を意識してしまう。それでも昨日の台所より、ずっと普通に笑えた。
「元気でね、悠真」
「香澄も。治癒魔法を使う時は、倒れる前に止めてもらえよ」
「もう倒れないよ」
「そこは私が見張る、とセインが言うところじゃないの?」
皆の視線を集めた勇者は少し考え、真顔で答えた。
「既に昨日、それを言って三度目に叱られた」
門番まで吹き出し、香澄の顔が赤くなる。僕も笑った。
笑えてよかったと思う。最後に見た二人の顔が、申し訳なさそうなものではなくて、本当によかった。
全員へ手を振り、僕は南門を出た。
街道の先には、朝露に濡れた草原が広がっている。遠くの丘には白い花が群れて咲き、そのさらに向こうで道が緩やかに曲がっていた。北から吹く風はまだ冷たかったが、冬を越したばかりの土と若草の匂いが混じっている。
背後で重い門が閉まり始めた。
振り返ろうとして、やめる。見送る皆を無視したかったわけではない。門が閉じる瞬間を最後の別れにしたくなかった。
代わりに、道の先を見る。
この先の分かれ道を東へ進めば王都、南西へ折れれば海沿いの町セラーデへ至る。僕は腰の地図入れに手を触れ、南西へ延びる細い道を選んだ。
百歩ほど進んだところで、耳の奥に澄んだ音が響いた。
足を止めると、目の前に半透明の文字が浮かぶ。王都の神官に何度見せても読めなかった、日本語の表示だった。
『《旅人の家》が、所有者自身による最初の旅路を確認しました』
「最初?」
思わず声が出た。これまで四つの領地と十以上の町を通ってきたのに、能力にとっては一度も旅をしたことになっていなかったらしい。
『第一段階の制限を解除します』
『新機能――《旅路の記録》《家屋拡張》《道標への帰還》が使用可能になりました』
『最初の目的地を登録してください』
続けて現れた問いの下には、何も書かれていない細長い枠がある。
神殿では、《旅人の家》は安全な寝床と収納を作るだけの能力だと言われた。僕もそれで十分だと思っていたが、どうやら見当違いだったようだ。
指先で枠へ触れると、何を書けばいいのかが自然に分かった。
「海沿いの町、セラーデ」
文字が刻まれ、道の彼方から僕の胸元まで淡い光の線が伸びてくる。それはすぐに消えたものの、進むべき方角だけは、目を閉じても分かった。
『目的地を登録しました。到着時、《旅人の家》へ新たな部屋と、この土地に応じた恩恵が与えられます』
『旅をお楽しみください』
四か月前、この世界へ落ちた直後にも聞いたような気がする、少しだけ楽しそうな文面だった。
僕は街道脇の大きな樫へ手をつき、能力を発動する。樹皮の上を金色の線が四角く走り、取っ手の付いた木の扉へ変わった。
扉の向こうにあるのは、見慣れた小さな家だ。台所と居間、それに二つの寝室しかない。香澄が使っていた部屋の扉は、昨夜から閉じたままになっていた。
ところが、玄関を入ってすぐの壁に、昨日まではなかった大きな地図が掛かっている。城塞都市リーベルから南へ向かう一本の線だけが描かれ、その終点では青い印が明滅していた。
地図の下には三つの空白があり、《工房》《菜園》《浴室》という文字が薄く浮かんでいる。どうやら目的地へ着くたび、家に増やす設備を選べるらしい。
「浴室……」
この四か月、身体を洗う時は大きな桶と布を使ってきた。砦には共同浴場があったものの、湯を張った浴槽へ肩まで浸かる習慣はない。
片思いに破れた翌日でも、風呂への期待は胸を躍らせる。自分の単純さが少し可笑しくなった。
家を出て扉を消すと、春の街道へ明るい陽が差していた。
セラーデまでは徒歩で十二日。途中には葡萄酒で有名な村と、古い水道橋、それから夜になると光る湖があるという。急ぐ必要はないので、気になった場所には寄っていけばいい。
僕は地図に描かれた線からわざと少し外れ、白い花が咲く丘へ向かって歩き出した。
誰かの後ろではなく、自分で決めた道を歩くのは、これが初めてだった。




