ルナの死
イベントまであと1週間のことだった。
私は体調を崩した。
体調を崩したというにはあまりにも言葉が足りない。
ダン!!!
「ルナ!!!」
「ルナさん!!!」
貸しスタジオで踊っていたら倒れた。
私は自分の状態に気付かなかった。
目が覚めたら白い天井。
枕元には何かを押すりょーちゃん。
(ナースコールか・・・・・)
参った。
たぶん持病で倒れたのだろう。
あと1週間持てばよかったのに。
私の寿命が長くないのが、りょーちゃんとエリカにばれた。
りょーちゃんは泣いていた。
エリカは頭を抱えていた。
そりゃそうだ。
イベントがぽしゃるのだ。
ビジネスサイドの人間としたら大赤字だろう。
エリカは私らをプロデュースするために会社を作ったのだから、
目論みが外れたのだ。
(ああ・・・・いろんな人間に恨まれてしまうな・・・・)
りょーちゃんは毎日来てくれた。
毎回、ひどい顔をしていた。
目は虚ろ。
目の下のクマがひどい。
食べていないのか少しやせたように見える。
さすがに罪悪感が心を支配する。
だけどずっとベッドにいる私にしてみたら何もしない日々は
心のもやもやがたまっていく一方で、りょーちゃんをそのはけ口にしていた。
エリカがある日やってきた。
「ルナさん・・・・りょーちゃんを泣かさないでくださいって・・・言ったじゃないですか。」
「ごめん・・・・」
「あーしは許しませんから。こうやってベッドに寝そべっているルナさんが憎いんじゃないんです。」
「え・・・・?」
「あーしらの夢はここで終わりっすから・・・・あとは余命を穏やかに過ごしてほしいっす。」
「イベントは・・・・」
「ルナさん。もう無理っすよ。さすがに会場もキャンセルしましたし・・・チケットも返金済です。」
「ごめん。」
「キャンセルになったことではないんです。もちろんルナさんが病気なのでもないんです。あーしが
怒っているのは。」
「それは・・・・どういう?」
「・・・・・・自分の頭で考えてほしいっすね・・・・」
エリカはつかれたように笑いながら、病室をあとにした。
エリカの言っている意味がよくわからなかった。
翌朝。
今日は診察の日だ。
あとどのくらい生きることができるのだろうか。
先生に率直に聞いてみたいと思う。
あと、何回、りょーちゃんと交われるのか。
私の頭にはもうそのことしかなかった。
♦♦♦♦♦♦
「あっという間でしたね。」
「・・・・そうね・・・・」
花を手向ける。
墓石の前に立つ。
身寄りの少ない踊らないダンサーのお墓の前には
私らの前に誰か来たのか、一凛の花だけが飾られていた。
「誰が手向けたんすかね。」
「どうなんだろうね。」
思案にくれる。
彼女のコミュニティはそんなに広くなかったはずだ。
いや、|一芸入試〈・・・・〉で瑠璃大学ダンス部に入った彼女だ。
それなりに応援してくれる人はいたのだろう。
とにもかくにも彼女は死んだ。
それは私の心に大きな穴をあけることになった。
だって、こうまでして成し遂げたのに、私は何も得ることができなかった。
♦♦♦♦♦♦
彼女らだろうか。
彼女らが来る1時間前からここにいる。
この数日でお姉ちゃんのお墓に訪れた人は4人。
私の先輩だった人、そしてもう1人は誰だろうか。
お姉ちゃんの言っていた、ぽっと出のプロデューサーだろうか。
わからないけど、いつも音響をかけて踊らないただのマネージャーとして
お姉ちゃんと一緒に部活を支えた私としては、お姉ちゃんの死には
大いなる疑問を抱えている。
「帰ろう。」
さすがに疲れた。
家路につく。
私はこの大学に一芸入試や推薦で入ったわけではない。
普通に受験して入学した。
別にダンスの特待生でもなんでもないのだ。
だからこんな生活今すぐにでも放棄して、青春を謳歌してもいいのだと思う。
シャワーを止める。
タオルを取り、カシャカシャときわめて粗暴な感じで髪をふく。
髪は踊りやすいようにショートヘアにしている。
ダンスは振り付けがあるし、
髪を振り乱しながら踊るわけにもいかない。
だから髪を結わうなどの多少の手先の器用さを求められる髪の長さなんかには絶対しない。
ただでさえ、生きるのにすらこうやって不器用なのに。
髪をドライヤーで乾かして、
そのまま私服に着替えて部屋を出る。
今日の私服は、ノースリーブのニットにGパンだ。
胸元はそれなりにあるので行き交う男性によく一瞥されるのではある。
向けられる性的な視線よりも
自分の好きなファッションに身を包む誇りの方を選びたいから、似たような服装にすることが多い。
何よりこの服装が一番涼しいし、
何よりダンス部の一流感を出すためにも
おしゃれには気を使わなくてはならないのだ。
それくらい私はこのダンス部を離れようとなんて思ったことはないのだ。
自転車にまたがる。
うだるような暑さの中、熱気が身体を支配する。
今日はしっかり水分を取らねばならないだろう。
大学の体育館を使って練習をしているので
クーラーはしっかり効いてはいるが、この暑さだ。
塩分濃度の濃い清涼飲料水を用意するくらいの貢献はしなくてはならない。
だって。
お姉ちゃんはまだ生きることができたはずだから。
瑠璃大学はなくなったダンス部の代わりに新しく新生ダンス部を立ち上げることにした。
お姉ちゃんたちに対抗するためだった。
瑠璃大学のブランディング上、形だけでも始まったダンス部。
私はお姉ちゃんと血縁関係ではあるが、
腹違いの妹だ。
いわゆる妾の子。
だから榊原ルナの対抗馬として担ぎ出された。
この部活を旧ダンス部に負けずおとらない部活にせよと。
ブランディング上しかたない。
私の母はシングルマザーではあるが、必死に働き、この大学の理事長になった。
「妹のあなたが瑠璃大学の経営再建を担いなさい。」
それはそれで非常に面倒くさいミッションだ。
だけどそんなことよりも。
おそらくは、殺されたであろうルナお姉ちゃんの弔いをしなくてはならない。
誰だろう。
朝倉ケイ。
影井エリカ。
米島涼子。
そしてテル。
お姉ちゃんはよく女遊びのことを私に楽しそうに話をしていた。
だから恨みを買うようなことはあった。
だけど・・・・
また生きることができたはずのお姉ちゃんを殺した罪は重い。
私が・・・・・
私が、復讐してあげる。




