過ち
『今日は精神科か、、、』
いまいち興味の持てない標榜科だ。
精神はなんとなく外科なんかと違ってここが悪いからこういう処置をしましょうという、観察を通じてのテコ入れがしづらいイメージがある。
相手とのコミュニケーションを通じて見立てを立てて、治療を検討する。
苦手だ。
なのに、カウンセラーが休みなのに、間違って予約をとってしまった患者の話を聞がなくてはならない。
本来は医師がやることをしがない、インターンに投げるあたり、瑠璃市の医療のいい加減さを感じる。
『あさ、、くらさんどうぞ。』
カウンセリングルームは薄壁一枚の真っ白な部屋だ。
そこにテーブルと椅子が2つ。
ここで話を聞く。
朝倉と書かれたカウンセリングシートに
目をやる。
この患者、前科があるようだった。
ドアが開く。
腕にはリストカット、白い肌に紫の猫耳パーカー。
パーカーの下は黒一色のヒラヒラの服。
『お名前の確認をしても?』
この顔、、どこかで見たような気がする。
『はあ?かったりぃ。』
椅子に座るなり、
背負っていた小さなリュックからエナジードリンクを出し、ストローを差し込み、飲み出す。
目元の赤いアイシャドウが不気味だ。
ギロリとこちらを突き刺すように視線を送る。
『朝倉。朝倉ケイ。』
ああ。
思い出した。
確か動画配信サイトで、ゲリラライブやって逮捕されている場面が映っていた。
『ほ、本日はいかがされました?』
マニュアルにある最初の質問。
『け、、、どいつもこいつも、、』
エナジードリンクをチューチューと飲んでいる。
椅子に片膝をたてて、スナック菓子を取り出して食べ始めた。
『はあ、、、かったりーなあ。こちらとらもう家帰りたいんだよ!!カウンセリング終わりでいいよ!金も払うからさあ!!』
なんて、悪態をつきながらカウンセリングルームでスナック菓子を広げているのだ。
エナジードリンクを飲み干して、
もう1本取り出した。
ああ、この人は。
誰にも相手にされないのか。
『カウンセラーならさあ!なんか話しなよ!黙ってないでよぉ!!』
バリバリと音を立てて菓子を食べ続ける。
この人は、ゲリラライブを見ている限りは
イキイキと、しかし命をかけて踊っていたように見えた。
誰かに届くように、
誰かの心の琴線に触れるように。
そんな風に踊っていたのだ。
それが、今やこんなになって。
カウンセリングルームでお菓子を食べて、
悪態をついて、
誰かに届けたい思いはまだ伝わってないのだろう。
私は、、
『ケイさんは、、、大切な人に、、思いを、、伝えたかった、、のですか?あの駅前から。』
カウンセリングにあるまじき進め方。
だけど、聞かずにはいられなくて。
また、ケイに怒鳴られるかとは思ったけど。
ケイは体を丸めて、
体育座りのような格好をして。
体を震わせていた。
今日はもうカウンセリングする患者はいない。
だったら。
インターンが勝手にやっていいか知らないけど、
カウンセリングルームの外にcloseの掛け看板をおいて、私はまたケイのいる部屋に戻った。




