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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました 〜サイドストーリー〜  作者: 林海
第六章 新たなる道へ編

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第2話 出産


 病院の入口から飛び込むと、姪の手を引いた姉の旦那がいた。

 「こっちだ!」

 あいさつもあらばこそ。

 姪を抱き上げて走り出す。

 俺、後について走る。


 何年ぶりだろうね、この人の後ろを走るのは。

 こんなときだけど、ちょっと懐かしい。

 1000kmじゃきかない距離を、共に走ったからね。

 で、階段を駆け上がったところで姉がいた。


 「こっち」

 こちらもあいさつは無し。

 指差した方へ走り、分娩室前で看護師さんに誘導されて、そのまま美岬の枕元。

 「来たよ」

 とりあえずは、それぐらいしか掛けられる言葉が見つからない。

 「頑張れ」も「お疲れー」も違うという気がしたんだ。


 汗で髪を額に貼り付けて、美岬が俺の手を握る。

 俺もその手を握り返す。

 間に合ったらしい。


 そこで、ようやく周りを見渡せる余裕が生まれた。

 顔を合わせて何度かあいさつしている、担当の女医さん。

 看護師さんたちも、顔を知っている数人がいる。

 美岬の匂い、血の匂い、温かい別のなにかの匂い、アドレナリンの匂い、消毒薬の匂い、いろいろなものが一気に押し寄せてくる。


 「もう、子宮口が開いてますから、次の波で産まれるでしょう。

 間に合ってよかったですね」

 女医さんの言葉に、既視感を覚える。

 あいさつ抜きで要件だけを伝えてくる話し方が、俺たちと一緒なんだ。

 違うのは、それが微笑みと共に話されたこと。


 「ありがとうございます」

 そう返事をして……。

 「よろしくお願いいたします」

 って付け加えた。


 美岬の、俺の手を握る力が増した。

 トレーニングを欠かさなかった美岬だ。

 その握力は痛いほど。


 美岬、痛みに耐えているのだろう。

 「くぅ」

 小さく泣いた。

 俺、手を握り返す。

 やっぱり「がんばれ」なんて言えない。

 もう、充分以上に頑張っている。

 握り返した手に思いを込める。それしかできない。


 「おお、がんばったね。

 頭が出たよー。

 もう一息」

 女医さんの言葉。


 美岬と目があう。

 それも一瞬。


 指の骨が砕けるかと思うほど、美岬が俺の手を強く握り……。


 「産まれましたよー」

 女医さんの声がして、赤ちゃんが取り上げられる。

 そして、一瞬の間をおいて小さな泣き声。

 ばたばたと看護師さんたちが動く。


 「3007g、男の子です」

 産湯の前に、そのまま美岬の胸に。

 赤いなぁ、赤ちゃん。


 産声をあげて泣いたのは、本当に短い時間。

 今は美岬の胸の上で、くうくうと眠っている。

 ようやく、安心して美岬の顔を見ると……。


 「おとうさん、まだ後産がありますからね。

 もうちょっとだけお母さん、辛いですよ」

 そうか、まだ痛みがあるのか。


 それでも、美岬、精一杯微笑む。

 産まれてきた子供と俺に。

 「痛かった。

 今も痛いけど、でも、本当に痛かった」

 「ごめん、分かち合えられなくて、申し訳ない」

 「なに、バカなこと言ってんのよ」

 やっぱり強いなぁ、美岬。


 「ちくちくする……」

 ふと気がついたように美岬。

 「ちょっと、縫合だけしちゃいますからね」

 と女医さん。

 「安産でしたよ。

 よく頑張りましたね。

 さぁ、これで処置、終わり。赤ちゃんも洗って、すぐにお返ししますから」

 「ありがとうございます」


 看護師さんが、赤ちゃんを美岬の胸から抱き上げ、お湯で手早く洗って、再び……。

 「真、真も抱いてあげて」

 と、美岬の声。


 「ああ」

 そう言って、看護師さんから受け取る。

 小さい。

 軽い。

 顔もまだくちゃくちゃ。

 でも生きているんだよね。


 あ、小指の爪の形、俺にそっくりだ。

 変なところが似ているなぁ。



 そんな感慨に耽る間もあらばこそ。

 「次、〇〇さん、分娩室入ります!」

 あっという間に、分娩室から追い出される。

 大変な仕事だなぁ、産科ってのも……。


ついに、です。

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