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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました 〜サイドストーリー〜  作者: 林海
第五章 新たな事態?編

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18 終話


 「で、グレッグはどうするんだって?」

 とアメリカ側の動きを聞いてみる。

 「敵の敵は味方だからねぇ。

 存在を明らかにして、下手な陰謀は打てないようにして、利用するみたい。

 確かに向こうのトップは優秀だから、グレッグにとって良い駒になると思う」

 ま、グレッグならそうするだろう。

 成功して百点、失敗して八十点という作戦を組むグレッグだ。すべての状況を無駄なく使うだろう。

 ということは、しばらくはカデンの「忙しくて死ぬ」という泣き言メールに付き合わされることになるな。

 「その長文メールを打つ時間、仕事をしたらどうだ」とは、可哀想で言えてない。


 まぁ、その「忙しくて死ぬ」という結果、こちらにもなんらかの落とし前が、届いてくることになるだろう。



 「でさ、坪内佐はなんで引退を考えたん?

 今回の件、坪内佐が懲りたと思うような事件じゃなかったでしょう?」

 これは、美岬。

 引退した身として、質疑には加わらず聞くだけだったけど、これは聞きたかったんだろうね。事件と特別の関係はないだろうし。

 きっと、「母が引退したからかも……」なんて、考えてもいるだろう。


 「ん、結婚するから、引退」

 「誰が?」

 「人の話聞いてる?

 坪内さんの話しているんでしょう?」

 「んなこた、解っとるわい!

 えーっ、あの人、ずっと独り身だったじゃん。

 なんでまた……。

 相手は、どこの誰よ?」

 「私」

 「私ってだれのことよ?」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……」


 上善○水って、お酒の名前だったよね。

 水の如くに、さらっとしたのがいいって……、なにをさらっと答えているんだよ!?

 久野さん、あんた……。

 反射的に「私ってだれのことよ?」と聞いた、慧思は頭を抱えている。


 「いくつ違い?」

 「二周りは違わないわよ」

 「どちらからのプロポーズ?

 なんで、こんな短期間で?」

 「坪内さんから。

 一緒に仕事して、過去の作戦の洗い出しで手の届かなかったところを指摘してたら求婚されてた。

 な……、何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのかわから……」

 「そういうの、いいから。

 そか、坪内佐、さすがだわ。

 坪内佐は、引退したら主夫業?」

 「ええ、長年の夢だって」

 「……凄いわ。

 坪内佐、いや坪内さん、凄すぎるわ。

 母に報告しなきゃ……」

 

 確かになぁ。

 もう負けた。なにも言えねぇよ。

 化粧が厚塗りになったのは、そのせいか。

 どう考えても、女子力を発揮する角度が、ちょっと間違っているけどな。


 あ、一つだけ言えること、言うべきことあったな。

 「おめでとうございます」

 それにつられて、美岬と慧思も言う。

 「おめでとうございます」

 「おめでとうございます」

 「お祝いは、新生活でいいか?」

 ちょっと、美鈴(メイリン)、アンタなに言ってるんだ!?

 それは、香典を包む時のやり方だっ!

 もう、どうツッコんだらいいのか、分からねぇよ。

 そのうち、うちの子が生まれたら、「初七日のお祝い」とか言い出しかねんな。


 「で、双海夫妻にお願いが。

 お祝いいらないから、これから二日間、お料理教えて。特に魚料理。

 玄ちゃんの方が私より上手いって事態はさすがにまずいから、せめて同等の腕になっておきたい」

 「主夫に任せればいいじゃん」

 これは、思わず俺の口から出た。

 出てから、「玄ちゃん」に凍りついたよ、俺。

 坪内佐が「玄ちゃん」……。


 「だめ。

 あのタイプには、弱みは見せられない。

 すべての弱みに、全部ツッコんでくるから。

 料理をするしないとは別に、ツッコまずにはいられない人だから。

 もう、職業病だよね」

 久野さんの返答に、思わず力ない笑いが出た。

 そうだろうなぁ。言われてみれば、きっと、いや、絶対そういう性格だ。

 だから、「玄ちゃん」呼ばわりで懐に入られたら、却ってべたべたになるのかもね。


 見れば、美岬も慧思も同じような表情で笑っている。

 美鈴も、その同調圧力に負けて笑っている。


 この笑いが、今回の幕引きになった。



 − − − − − − − −


 さすがに、船に乗って沖で釣るようなわけにはいかない。

 それでも、そこそこのサイズのムロアジたくさんと、メジナが数匹釣れた。そして、実物としては初めて見る、そこそこの大きさの魚が二匹。

 一匹は式根島名物のブダイ。もう一匹はオジサン。共に素晴らしく美味しい魚らしい。でも、売っているのは見たことがない。

 これだけあれば、五人で食いつなげるなぁ。

 

 そして……。

 ムロアジを一匹そのまま餌にして泳がしておいたんだけど、PE8号の糸をほとんどこちらになにをする間も与えないほど一瞬でブチ切って逃げた魚。

 魚って怖いな。

 人を拘束できるほどの糸を、一瞬で切るだなんて。



 港のコンクリートの上に、直にあぐらをかいて座っている俺の横で、美岬は繋船柱(ビット)に膝を揃えて座っている。

 髪を海風に遊ばせている姿は、相変わらず女神様のようだ。


挿絵(By みてみん)


 空は青く、対岸に見える新島の砂はどこまでも白い。

 「子供が生まれたら、また遊びに来よう。

 泊海岸なら、安心して遊ばせられるし」

 釣り糸が海に刺さっているあたりに視線を移して、そう話す。

 「だね。

 また来ようね……」

 「どうしたん?」

 「うんん、このお腹の中の子の切っ掛けが、こういう事態の結果だとしたらさ、通常の、普通の妊娠じゃないよね……」

 「気にしているのか?

 俺は特に、引きずってはいないんだけど……」

 「違うの。

 違う……。

 普通の妊娠じゃないから……。

 だからこそ、もしかしたら、男の子が生まれるかもしれない。

 そうしたら、逆にお礼に行きたいくらいだなぁ、なんて」


 「なるほど。

 そうだとしたら、めぐり合わせとか、運命って凄くて怖いなぁ」

 女の子が生まれたら、連綿と続いてきた鎖は、またその子を縛るかもしれない。

 でも、男の子であれば、繋がれた鎖を切ることができる。

 それを強いる状況を、この事件が作ってくれたのだとしたら……。


 やっぱり、運命ってのはあるのかもしれないね。

 それは、過酷ではあっても、同時に救いも与えてくれるものなのかもしれない。


 「美岬、運命って信じる?」

 「ときどき」

 「よし。

 じゃあ、次に釣れた魚を、それがなんであっても、坪内佐へのお祝いにしよう。鯛が来たら、きっといい運命が約束されてる」

 美岬が潮風に笑う。


 竿が曲がった。

 鯛だ。

 間違いない。


 一分後。

 俺の手の中で、スズメダイがきょとんと俺たちの顔を見上げていた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


これで、この章終わりです。


スズメダイ、小さくて小さくて、それでいて味は抜群な魚なのです。


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