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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました 〜サイドストーリー〜  作者: 林海
第五章 新たな事態?編

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2 職場にて


 新幹線の車内、俺は、東京につくまでの一時間をうろうろと歩き通した。

 さぞや、他の乗客にとっては迷惑だったろう。

 でもさぁ、じっと座っていられなかったんだよ。檻の中の熊みたいにうろうろしていた。

 俺だってね、こういうことを予想していなかったわけではない。

 大人なんだし、籍も入っているんだし、ある意味において、当然のこととさえ言えるかも知れない。


 でもだ……。

 こんな仕事をしていて、人並みの普通の幸せが来るなんて、そこまで運命に許されるなんて、思っていなかったんだよ。

 美岬はズルい。

 美岬だって、俺と同じ思いはあったはずだ。

 きっと、自分はそれを消化する時間をしっかり取って、俺には爆弾投下したんだ。

 らしいって言えばらしいけど、俺の呆然とする姿をそこまで見たかったかねぇ?

 サプライズにしても、爆弾が核級だよ。


 もう一つ、俺にも、なにかすること、できることがあれば良かった。

 そうすれば、それに向かって走れる。

 美岬は、日々のトレーニングを軽減するという、できることがあるだけ羨ましい。

 でもね、俺にできることって、なにも無いんだよ。まだ性別も判らないうちでは、育児のものを買うのにも、名前を考えるにも踏ん切りがつかない。

 俺の嗅覚は、美岬のつわりがもっとも重くなった時でさえ、食べられるものを探し出すことができるだろう。でも、それさえもまだなんだよね。

 検診や母子手帳みたいな話も、今日、今、という話ではないし、俺がどうこうできるものでもない。同行はできるけどね。

 ああ、気持ちは走るのに、できることはない。自分自身の身の置所もないって、そんな気持ちになるよ。



 「懐かしいものを見た」

 慧思が人の顔を見るなり言う。

 「なんだよ?」

 「高校生の時みたいな歩き方しているな。遠藤権佐にしごかれる前の歩き方だ」

  腰が浮いているのだろう。自覚しているより動揺している証拠だ。


 「なにがあったよ?」

 「実は……、今朝、美岬に妊娠したと言われた」

 「えっ、それは男か、女か」

 「……お前も大概だな」


 まぁ、解ってはいる。

 生まれてくる子が男なのか女なのかで、美岬と俺の運命はある意味方向付けられる。

 そういう経緯が俺たちにはあるし、慧思もそれを知っている。

 でもな……。

 なぜ、お前までが動揺して俺と同じことを聞く?

 「あのな、まだ判るわけがないだろう?

 もう少し大きくなって、エコーなりで見れるようにならないと性別までは判らん」

 「う、そういうもん……、だな?」

 「そういうもんなんだよ」

 つくづく不毛な会話だな。


 「とりあえず、今は三分の二のバディが通常任務、残りが久野さんの課題の洗い出しをしているわけだ。一日二日であれば休みも取れるだろうけど、長期は厳しい。俺も、石田さんのところへはご無沙汰になっちまっている。

 一応、念のために聞いておくが、今のところ、母子ともに順調でいいんだよな?」

 「判るか、そんなもん。

 もう少し時間がたってからでないと、検査とかも何一つできない。

 今は、判定キットにチェックが出ただけだぞ」

 「そか。

 言われてみれば、そのとおりだな。

 なんで、こんなに知っていることと、解っていることを聞いちゃあ、アホ扱いされているんだ、俺は?」

 「大丈夫だ。

 今朝、もう俺が散々それをやった」

 「うっ、そういうもんか……?」

 「そういうもんなんだよ」

 はあ、つくづく不毛な会話が続くな。


 「とりあえず、小田佐には話しておけよ」

 「ああ、これからメールだけは打っとく。

 護衛計画も考えないとかも」

 「今は人手がないから、どこか守りやすいところに移動してもらうこともありうるぞ」

 「だな。

 忙しい時に……」

 「その先は間違っても口に出すな。誰一人として喜ばん」

 「すまない。本当にすまない」

 本当にすまない、慧思。


 「ただな、どうにもこうにもだが……」

 あえて、慧思は何が言いたいんだ?

 「タイミングが可怪しいと思わないか?」

 「なんのよ?」

 慧思の言いたいことが掴めなくて、オウム返しに聞き返す。


 「もう、現状、紛争は表の世界の話になってきているし、だからこそニュースは賑わっていても、本来俺たちの仕事は減っているはずだろう?」

 「暇になっていて然るべきってか?

 今も忙しいのは、久野さんの洗い出しのせいだろう?

 ……久野さんの件も、すでに罠だとでも言うのか?」

 「いや、それはないと思う。

 ないと思うんだけど、事象には必然がある。

 そう考えると、久野さんの見直しについても、なんらかの必然があるんじゃないか?

 ……なにかお祝いをくれって、坪内佐にメールしとけよ」

 慧思の言葉に、ショックを感じないと言えば、嘘になる。


 「お前……、美岬の妊娠すらも、なにかの()がついていると言うのかよ?」

 「判らない。

 俺には、本当に判らないんだ。

 ただな、久野さんが来てから、俺たちの仕事のレベルが変わりつつあることは事実だ。

 そして、久野さんの方が分析能力は優れていても、『悪意』というものの理解については、坪内佐の方が一日どころじゃないな、百日の長がある。

 少なくとも、情報を流しておけば、なんらかのことを気がつくキッカケになるかも知れない。

 思考材料を渡しておけば、あとは丸投げでもとは言わんけど、最低ラインのことはしたことになると思う」

 「むう」

 思わず、唸った。


 俺は、神を信じてはいない。

 神が救ってくれるとも思っていない。戦う彼我に、共に神がついていたら、結局意味がないとも思う。

 その一方で、神がいるんじゃないかというほどの巡り合わせとか、幸運は経験している。

 俺達は運がいい。

 その巡り合わせが一歩ずれていたら、今生きていないかも知れないと思えるほどには、だ。


 その巡り合わせって奴、運命って奴に対して、どう行動するかは決まっている。

 十全な備えをしておくこと。これに尽きる。

 訓練もそうだし、行動に冗長性を持たせるのもそうだ。

 そう考えると、実は今までやってきたことからの乖離はない。

 むしろ、遠藤権佐と俺は、そのエキスパートとも言える。生きて帰ることに特化しているからだ。


 「慧思、了解。

 坪内佐と、遠藤権佐にも連絡しておく」

 「ん、解った」

 この場での話はそこまでとなった。


次回、未定です。

さて、どうしたもんだか。

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