第八話 イバラの双子
オルタ・ミレット・ヴィネアの三人は“モリオン”の村を出て森を進む。
夜になり、野営をし、また朝になり、歩き出す。
地図を見ながらミレットは言う。
ミレット「とうとう、ウェストトウィン地方東の島の最東端に近づいてきたね。
さらに東の王都に行くためには、“イバラ”の村で船に乗るんだって」
オルタ「いよいよだね」
“イバラ”の村まであと少しの所で、三人は魔物に追われる三人の女性を見た。
オルタ「!」
女性「! 助けて下さい!!」
オルタは剣を抜き、魔物を切り裂く。
ミレットも矢を放ち、魔物を倒す。
全ての魔物を倒し終わって、ミレットは女性達に近づく。
ミレット「大丈夫ですか?」
女性「ええ… ありがとう」
少女「あなた達はイバラに行くのですか?」
ミレット「はい」
女性「お願いします! 助けて下さい!! イバラが… イバラは魔物に襲われています!」
その時、ベロニカの山の南方から、轟音が聞こえた。
オルタ「! 何だ!?」
魔物の雄たけびと、人々の悲鳴が微かに聞こえる。
ヴィネア「…南部を覆っていた、幻覚が解けた!」
ミレット「…ッ! これが、南方の実態…!」
ヴィネア「おそらく、幻覚を作った張本人がこの島からいなくなったのよ」
女性「それなら心当たりが… 最初に魔物が襲って来た時魔物は、戦える男達だけに怪我を負わせていたんです。 女子供は人質にして…
それが、昨日から急に、女子供関係なく、手当たり次第に襲うようになったんです」
オルタ「どういうことだ…」
ヴィネア(……イリューの支配で動いていた魔物が、イリューがいなくなって自由に暴れ出したのね……)
オルタ「ともかく、魔物を倒します。 村に案内して下さい!」
女性「はい!」
一人の女性はオルタ達を村に案内し、二人の女性は隣の村に、助けを呼びに行った。
オルタ(魔物を俺は許せない…!)
四人は走る。
イバラの村付近の山小屋は、沢山の村人で溢れかえっていた。
女性「ここに、怪我人を運んでいるんです! 村はもうすぐここです!」
女性はそう言うと、怪我人の治療に加わる。
ミレット「ひどい…!」
オルタ「ミレット! 非常事態だ。 精霊の力を使って!」
ミレット「分かった!」
オルタ「俺とヴィネアは村の魔物を倒してくる!」
ミレット「二人共、気を付けて!!」
三人は行動する。
ミレットは水の精霊の力で、怪我人の傷を治していった。
オルタとヴィネアは村へ走る。
村では次々と襲ってくる魔物に、双子の姉弟が戦っていた。
姉のアスカが魔物を、魔法の壁に閉じこめ、弟のソウラが青い炎で焼く。
二人は足に怪我を負い、動けなくなった村人を、庇っていた。
アスカ「くっ! キリがない…!」
ソウラ「! 姉ちゃん!! 横!!」
家の陰から飛び出した魔物が、アスカに飛びかかる。
すんでのところで、魔物はオルタが投げた剣に刺され、倒れる。
アスカ・ソウラ「!!」
オルタ「大丈夫?」
オルタは走り、アスカの横に来て、魔物から剣を抜く。
ヴィネアも後ろにつく。
アスカ「アンタらは…?」
オルタ「え? うーん。 なんだろう… まあ、そこの村人をよろしく」
オルタは魔物の集団に向かって、走り出す。
ヴィネア「詳しい話は後でね」
ヴィネアも続く。
オルタは魔物達を切り倒していく。
ヴィネアは魔法を唱える。
ヴィネア「“憑依 悪鬼”!!」
髪が逆立ち、目の色が変わる。物凄いスピードとパワーで、魔物達を殴り倒していく。
双子はポカーンとその様子を見ていた。
しばらくして、二人は村の魔物を全て倒し終わる。
オルタ「ふー…」
ヴィネアは元に戻り、魔物の死体を燃やし始める。
オルタ「君達は、魔法を使えるんだ」
オルタに話しかけられ、ハッとする二人。
アスカ「ハイ!」
オルタ「それなら、この村は大丈夫だね」
ソウラ「母さん!!」
アスカとソウラは村の奥に駆け出す。
オルタ「?」
ミレット「オルター! ヴィネアー! 大丈夫ー!?」
ミレットが走ってやって来る。
オルタ「俺達は大丈夫。 この人を…」
ミレットは足に怪我をした村人の怪我を治す。
オルタ「小屋の怪我人は?」
ミレット「全員、治せたよ」
オルタ「そうか良かった。 それで、あの双子はどうしたんです?」
村人「…彼らの母親は、数日前に村にかけられた呪いにかかってしまったんだ…
この騒ぎでも、無事だといいが…」
ヴィネア「この村の神父は?」
ヴィネアは全ての魔物を焼き尽くし、やって来る。
村人「? 神父様は亡くなられた… 今はシスターしかいない」
ヴィネア「……」
ミレット「神父様なら、呪いを解けたかもしれないんです」
村人「…なんということだ…」
村人は山の小屋の人々に、魔物は全て倒されたことを言いに行き、
オルタ達は、村人に教えられた双子の家に行く。
オルタ「おーい。 二人共、大丈夫?」
双子の家の戸を叩く。
しばらくすると、戸が開いた。
アスカ「! さっきの…」
オルタ「……お母さんは大丈夫だった…?」
アスカ「ええ。 でも、呪いにかかったまま……」
オルタ「そっか…… 君達も怪我したでしょ? 治すよ」
三人は家に入れてもらい、ミレットが双子の傷を治す。
アスカ「すごい…」
二人の傷はすっかり治る。
ソウラ「これなら母さんの呪いも…!」
ミレット「…呪いは治せないんだ。 ごめんね」
ソウラ「……」
家の外が賑ってきた。どうやら小屋から村人達が帰って来たようだ。
ミレット「…こんな時にあれなんだけど… 王都にはどう行ったらいいかな?」
アスカ「…王都は陥落したのよ」
オルタ・ミレット・ヴィネア「!?」
アスカ「もう王都に行く方法なんてないわ」
オルタ「……ッ!」
一同は静まり返る。
長い沈黙の後、ソウラが口を開く。
ソウラ「…どうして王都に行きたいの?」
ミレット「……僕は精霊の力を使えるんだ」
アスカ「!? それじゃ、さっきのが…?」
ミレット「そう」
ソウラ「“神を復活させる”か…」
オルタ「君の、炎は違うの?」
ソウラ「僕は魔法だ」
オルタ「魔法と精霊の力の違いがよく分からないな」
ヴィネア「魔法は自分の魔力を使うけど、精霊の力は自然のエネルギーを使うのよ」
オルタ「うーん?」
ヴィネア「つまり、ミレット自身の魔力は無い訳」
オルタ「ふむ」
アスカ「でも、“神を復活させる”には、五つの精霊の力がないといけないんでしょ?」
ミレット「そう。 多分、ウェストトウィン地方で力を使えるのは、僕だけだ。
他の地方で見つかっているかどうか…」
オルタ「そうだ! あの人… あの“神の使者”はどこ行ったんだろう?」
ミレット「ああ! グリーンベルに来た… あの人に会えれば…」
ヴィネア「…捜す?」
ミレット「でも、どこにいるか、見当がつかない…」
アスカ「……ならいい方法があるよ」
アスカに連れられて、ハト小屋に行く。
アスカ「このハトは伝書鳩。 いろんな村に行けるわ」
ミレット「ありがとう!! なら……」
ミレットは紙に字を書く。
〈カミノシシャドノヘ イバラデマツ〉
この文章を何枚も書く。
そして、伝書鳩の足につけた筒にいれる。
アスカ「いってらっしゃい!」
一斉に伝書鳩を飛ばす。
ミレット「…待つしかないね」
オルタ「うん」
三人は良く晴れた空を見上げる。