絵画に恋した王子様
昔々あるところに、とても大きな国がありました。
この国の人々はいつも笑顔で幸せに暮らしています。
長いあいだ素晴らしい王様が代々ずっと国を治めてくれていたからです。
しかし、今の王様には一つだけ悩みの種がありました。
「王子よ、お前もそろそろ結婚をしないか?」
「私には既に心に決めた人がいます」
「しかしそれは絵の中の者」
「そうかもしれません。しかし彼女には人間の心がちゃんとあるのです」
結局いつも王子の頑固さに、王様は「やれやれ」と首を横に振り会話を終わらすことになってしまうのです。
「しかしなぁ、国の内外からも結婚を迫られているんだ」
ある日、父としてではなく王としての提案をされてしまいます。
王子はしぶしぶ首を縦に振りました。
「しかし、私はその女性を愛すことは出来ないと思います」と言いながら。
王様は王子には「それでいい。国ために結婚をしておくれ」と顔を綻ばせました。
王子が幼い時に亡くなっていた王妃様を、王様は大変愛しておられました。
「だから世界中の美女を集めて、王子には絵画に住む者ではなく人間の女性を愛する悦びを知ってらおう」
決心した王様は、お城でそれはそれは大きな舞踏会を開くことにしたのです。
舞踏会の夜。
お城の絢爛豪華に設えた大きなお部屋。
肌も髪も瞳もドレスさえ色とりどりの美女が、舞踏会に列をなしました。
お城に到着した順番に女性たちが王様と王子にご挨拶。
にこやかに振る舞う王子に女性たちは頬を染め、喜びます。
しかし王子を見る王様は、がっかりした様に顔を曇らせました。
「あぁ、これだけの美女を集めたのに、やはり王子が気に入る女性はおらなぬようだな」
ご挨拶は残り一人となりました。
彼女の姿を見た他の女性たちは、鼻を高くしていた自分の見た目に自信を無くしてしまいました。
それほどその女性は美しかったのです。
最後の女性を見た王様。「この女性なら間違いなく王子は気に入るだろう。しかし、なんとあの絵画の女子と瓜二つなことか!!」
王子の反応は王様と正反対。普段のとてもお優しい顔とは打って変わった表情。
「王様、この者とだけは結婚は絶対にしません」
王子の言葉にお城中ががっかりしました。なおも、王子は続けました。
「この者は人間ではありません。この国を惑わすためにここに来たのです」
お城にいる人々は、更に騒めきました。
戸惑う人々の中で大臣が王様に耳打ちをし、王様が王子を窘めます。
「王子この女性は隣国の王女である。何と失礼な事をいうのだ」
「王様の仰る通りでございます。確かに私は王女という身分を隠してご挨拶は致しました。そして王子様が私をお気に召さないのも結構でございます。しかし」
王女は睫毛を伏せハンカチを目に当てました。
「いいえ。この者は人間ではありません。何故なら心が無いからです」
「王子、まだ言うか!!」
王様がいつもより大きな声を出し王子に言いました。
すると王様になにか言い出しそうな王子を遮り、王女が話し出します。
「心が無いとは?」
王子が答えます。
「お前は確かに美しい。しかしその中身は酷く淀み、動くものが一切感じられない」
「分かったような言い方でらっしゃいますね」
「しかし事実だ」
二人のやり取りを止めるために、王様が玉座から立ち上がりました。
すると王女だったはドロンとばかりに黒いのっぽの帽子と黒いマント姿へ。
美しかった顔は見る影もなくしわくちゃになっていました。
「ふんっ、つまらぬ。もうワシは帰る」
そう言って変身した時に手にした木の杖でトン。
床に音を立てると王女だった者がお城の中から、すっかり消えてしまいました。
これらのやり取りを見ていた人々。
もう舞踏会どころではありません。
何とか王様がその場を治めましたが、結局王子のお后様候補を見つけることは出来ませんでした。
その夜、王子は一人絵画に向かいました。
彼は大人になってからはずっと絵を眺め、語りかけるだけ。
しかし、久しぶりに絵画に向かい、涙を流しました。
「どうして私はあなたと共に過ごすことが出来ないのでしょう」と。
ポツリと呟き部屋を後にするため、王子は絵画に背を向けます。
「おう……じ」
鈴を転がす様に可憐なのに、ひっかかるように話す声が王子の耳に届きます。
王子が振り返ると、絵画の中の女性が部屋に立っていたのです。




