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童話とか寓話とか絵本風の短編集  作者: 如月ふたば


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マツ

 大和国の中心にある玉禄山(ぎょくろざん)。ここには雅楽頭(うたのかみ)という名の火山の神様が治めている山がありました。

 雅楽頭様は大変お優しく、他の神々からも本当に愛されておりました。

 

 玉禄山が活火山ということもあり、恐怖と畏れにより人々からは崇拝の対象になる事はあまりありません。

 そのせいで雅楽頭様のお姿は人間からすると、それはそれは醜いお姿だったのです。 

 

 ある時に彼は玉禄山の大きな噴火をなだめ終えると、自分の山を遊山に行ったのです。

 雅楽頭様は火山灰の降り注ぐ中に響く人間の赤子の声を聞きました。

「やれやれ、また間引いた幼子を我が玉禄山に捨てていったのか」と思うものの、自分が住む家に帰るために踵を返します。


 近くに居た雲が雅楽頭様に声を掛けました。

「雅楽頭様はあの小さき命をお見捨てになるのですか」

「しかしな、どうしろと言うのだ」

 雅楽頭の答に、他の流れてきた雲が加勢します。

「お連れ帰って、お育てになればよいのではありませんか」

「どうせ神様は僕たちと違い幾星霜というとても長い時間を過ごすのです。時には他の神々のように拾い子を育てたり、お遊び心をお持ちになってもよいのではありませんか」


 ボロボロの布に包まれた赤子は、雅楽頭様を見るとキャッキャと嬉しそうに小さな手を差し出しました。


 結局、玉禄山近くに流れる雲たちや赤子の様子に抗えず、雅楽頭様は自分の住処へと連れて帰ることにしたのです。

「本当に、他の者たちは協力してくれるのだろうか」

 心配そうに呟いた雅楽頭様の足元から、にょきりと彼の従者が土から全身が出てきました。

「雅楽頭様、わたくしどもや近くにおわす田の神や木々の神がついております。他にこの小さき者に雅楽頭様が与えたい物があれば鳥や虫たちが他の遠くに住む神々や精霊たちが協力して下さりますでしょう」


「名はマツとしよう」

 雅楽頭様は赤ん坊に初めての贈り物をしました。

 火山灰のせいで今は見る影もなくなりましたが、玉禄山の周囲は松がとても美しい場所なのです。


 マツと名付けられた少女はすくすくと、とても美しい女性へと成長しました。

 雅楽頭様を筆頭に文武を授けられたマツ。


「人の子として生まれたのだ、マツは人里に帰り人として幸せに暮らすのが良かろう」

 そのようにお考えになった雅楽頭様。


「私の醜い姿で、マツと共に里に下り人々に暮らし祝言を挙げる相手を探すのは難しいであろう」

 雅楽頭様はとても悩みました。

 彼はマツが少ししずつ人里へと慣れるようにしてもらうことにしました。


「ほれ、マツと共に人里へと付いて行ってくれるものはおらぬか」

 そういうと、岩の精霊が人間に見えるように人姿へと具現化しました。


「マツ、私のために少しの麓の村へ行き茶を買ってきてくれないか」

 このような小さな願い事をマツへとするようになった雅楽頭様。


 麓の村では時折、玉禄山の方向から現れるそれはそれは美しい少女に目を見張っていました。

 そんなある日の事。


 また雅楽頭様より人里へ降りていくように頼まれたマツ。

 美しい少女がいるという評判を聞きつけた、その村の領主さま。

 マツは気付くと領主の息子とお知り合いになっておりました。


「父上、あの美しい少女は玉禄山に住む化け物に捕らえられているようです」

 マツに興味を持った領主の息子は、雅楽頭様の元へと帰る彼女の後を付けていったのです。

「私は化け物をこの目で見ました。あの女性を領主の息子として救いたいのです。兵士をお貸しください」

 そのように領主に願い出て、マツを救い出すための軍勢を率いていったのです。


 軍勢が玉禄山へと着く前には、既に雅楽頭様の耳と目となっていた村に遊びに行く羽をもつものたちから報告を受けていました。

「マツ、我が目をじっくりと見るが良い」

 雅楽頭様から言われた通り、マツは彼の目を見つめました。

 するとマツはふらりと倒れてしまいます。意識を失ったのです。


 人の姿をしている岩の精霊に、雅楽頭様は「あちらへ行け」とばかりに小さく手を振りました。

 マツを見ずにいる雅楽頭様を見て、睫毛を伏せた岩の精霊。

「仰せのままに」と、声を震わせ意識を失ったマツを玉禄山の麓へと連れて行きます。


 背を預けられそうな大きな岩の下に、マツをそっと座らせました。

「マツ様、どうぞお幸せに」

 瞳をぎゅっとつぶった岩の精霊は、こうマツに告げ去っていきました。


 数時後。

 軍勢を率いた領主の息子が、岩に力なく座るマツを見つけました。


「お嬢さん」

 領主の息子はマツの肩を掴み、声を掛けました。

「ここは?」マツはキョロキョロと周囲を眺めます。


「玉禄山の麓だ。あなたは化け物に捕まっていて、私が助けるためにここへやって来た」

 領主の息子の言葉に眉を顰めたマツ。

「玉禄山……」

 

 マツの意識が朦朧としているのだろうと予想した領主の息子は彼女に聞きました。

「そなたの名は?」

「……マツ」

「そうか、マツ我が家へ帰ろう」


 水鏡を使い麓の様子を見ていた、雅楽頭様。

 彼の住処に帰ってきていた岩の精霊に質問をされました。

「ここでの暮らしのすべてを、忘れさせてしまって良かったのですか」


「その方が、マツにとって幸せだろう」

 そう答えた雅楽頭様の目元には雫が見えました。

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