第2話|母、安堵する
リリアーナの正式な後継宣言が終わった数日後、ベルナール伯爵家の館内は穏やかな空気に包まれていた。
アデリーヌは、書斎の大きな窓辺に立ち、静かに外の庭園を見つめている。
庭には光が柔らかく差し込み、冬の名残を感じさせる樹木の影が揺れる。
かつての騒乱を思えば、この静けさは何よりの安堵だった。
「リリアーナも、無事に責務を果たせたようね」
傍らに控える使用人に語りかけるその声は穏やかで、かつての威厳を取り戻したかのような落ち着きがあった。
目には微笑みの影がちらりと浮かぶが、深い思慮の色も混ざっている。
リリアーナは大広間での式典後、疲れを見せることなく、自室で書類や公文に目を通していた。
彼女の肩には新たな責務がかかるが、その背筋はしっかりと伸びている。
そして、その決意は、アデリーヌ殿にとっても大きな安心材料となっていた。
「後継者としての自覚と責任を、確かに感じているようだわ」
アデリーヌは深く息をつき、微かに目を閉じる。
長く続いた不安と混乱、そして暗い陰謀の影が、ようやく静まったことを実感する。
胸の奥に、母としてのほっとした感情が広がる。
しかし、目を開ければ、すぐに現実の世界が広がる。
ベルナール家の秩序はまだ完全ではない。
若き後継者の周囲を支え、家門全体を守るためには、まだ見守りと支援が必要だった。
アデリーヌは小さくうなずき、そっと手を机の上に置く。
新しい家門の秩序が、確実に形作られていくことを信じつつ、母としての役割を静かに果たす覚悟を胸に抱いた。
館内は再び日常を取り戻し、穏やかでありながらも、どこか凛とした空気が漂う。
新たな家門の中心であるリリアーナの周囲を支え、秩序を守ること。
それが、アデリーヌの母としての、そして当主としての安堵だった。




