揚げナスの見た目
「じーさん、ビール」
「あいよ。その様子だとまずナマかな」
「うん、ジョッキでお願いします。もうすぐ続けて飲むから二杯お願い」
「あいよ。まず、生一丁」
「サンキュ。クゥーッ、ハァ、うまいなぁ」
「こっちがつまみ、ナスのピリ辛揚げびたし」
「へぇ、あ、日本酒向きかと思ったら、案外ビール向きだ」
「ナスを輪切りで揚げて、ビール向けは、ニンニクと豆板醤とぽん酢醤油と砂糖、味醂、ちょいと出汁。コツは揚げたてを浸すことぐらいだね。冷まして、冷やして、ゴマぱらり。ほい、二杯目のジョッキ」
「ありがと。ナスは日本酒用もあるんだ」
「うん、そっちは三杯酢に醤油と味醂。冷やしたら、生姜と茗荷と大葉」
「あぁ、なるほどねぇ」
「ま、どっちでも合わないことは無いと思うんだが、味もそうだけど見た目がね。豆板醤の色が出ると日本酒よりビールの方が合いそうだし、茗荷と大葉が並ぶと和食っぽいから日本酒に似合う」
「そうかぁ、見た目かぁ。あっ、見た目で思い出した。何処の大統領か忘れたんだけど、」
「思い出してないじゃないか」
「いや、まぁ、その大統領の選挙が迫ってて、有力候補二人の対決で、両方の顔写真が出てたんだけどさ」
「うん」
「片方が台湾を認める、もう片方は台湾と断交するって、外交方針があるんだ。まぁ、親中国かどうかってことなんだろうね。で、台湾派の候補の写真は笑顔で明るいんだ。なのに親中候補の写真はぐっと睨みつけるような厳しい顔でさ。日本としては台湾派を応援したいって立場なのかもしれないけど、写真が違いすぎでね。こういう贔屓っていうか印象操作は良くないなぁって思った」
「あぁ、そういう写真やイラストでの印象操作ってのは確かにたまに感じるねぇ。正面切って、こっちが正しいって言ってないのに、そう感じさせる演出ってのはムカっとするし、こっちが気付かないと思ってんのか、舐めるなって思うよねぇ」
「いや、じーさんほど怒ってないんだけど」
「いや、俺も怒っちゃいないよ。あ、ただ言っとくと、日本はその親中派と同じで、台湾と断交して中国と国交を結んでるからね。文句付けられる立場じゃない」
「えっ、あぁ、そう言えば、そうか」
「勘違いしてる人もいるぐらい、台湾とお付き合いしてるけどね。でも一つの中国を否定したり、台湾独立の後押しをしてるわけでもないから」
「そうでした。でも、台湾派贔屓の空気はあるんじゃないかな」
「まぁね。要は、今のまんまで波風立てずにそっとしておこうよって、自己都合だけの味方だけど」
「身も蓋もない」
「ただ、さっきの笑顔が贔屓ってのは確実でもないと思うよ」
「えっ、どうして」
「笑顔っていうのは、親しみやすい感じの演出だよね。大統領候補としては、民衆の味方だ、みんなの声を聴いて、一緒に明るい国を作っていこう、みたいな感じだ」
「そうね」
「でも、私がこの国を良くするリーダーだ。我々は沢山の困難を抱えているけど、私は必ず勝ち抜く力と政策を持っている。みんな私についてきて欲しい。そういうタイプの候補は、笑顔でアピールするとは限らないよね」
「あっ」
「むしろ自信に満ちつつも厳しい、戦う指導者の雰囲気をアピールする場合もあるんじゃないかな」
「そういうことも、…ありそうだね」
「厳しい印象でアピールしておいて、時折、笑顔や優しさを見せる方が効果的だと考えてるかもしれない。まぁ、日本の政治家のポスターは、明るい笑顔寄りが多そうな印象だけどね」
「あぁ。後、なんか斜め上見てキリって感じのもあるような」
「うん、震災の後、被災地中心に笑顔バージョンが減ったらしいよ」
「まぁ、笑顔だけで日本のリーダーは務まんないだろうし」
「いや、別にリーダーを選んでるわけじゃないけどね」
「まぁ、日本の首相は直接選挙では選ばないから」
「いや、首相だって内閣のリーダーなだけで、つまり公務員のリーダーでしょうが。俺は公務員じゃないからね。まぁ、向こうは公権力を使用できる権限は持ってるから、一定、こっちに力は揮えるかもだけど、いかなる指揮も指導もお願いしてないからね」
「あぁ、じーさんは基本的に与党嫌いだから」
「そんなことはまるでないな。野党であろうが、一番贔屓の政治家であろうが、この国のリーダーになって欲しいとは思わないし、自分のリーダーだと感じることもないよ。我々が預けてる行政権を上手く使って、我々の預けてる税金を役に立つように使ってくれる人を選びたいだけだからね。確かこの国の制度はそうなってるんだから」
「大統領制なら違うのかなぁ」
「それにしたところで、せいぜい国の行政面のトップだろうに。日本の国は行政単位としてしか存在してないわけじゃあるまい。俺だって行政単位の日本に籍があるだけの人間でもない。国のリーダーでも俺のリーダーでもないのは確かだと思うんだがね」