ベーコンのサンドイッチ
「じーさん、ジントニック」
「ん、レモンかライムか」
「レモンで。絞んないでね」
「言わんでも。差しとくだけだろ。ほい」
「サンキュ、あぁ、美味しい」
「今日の洋向けのアテはサンドイッチだ」
「へぇ、ベーコンと卵と、これはピクルス?」
「そう。後、マスタード」
「ベーコンと卵が別々なんだね」
「カリカリのベーコンが好きでね。こま切れで混ぜたくなかったんだよ。目玉焼きは美味しいけど、一回一回焼かなきゃいけなくてつまみに向かないし、こぼしやすいからな。ベーコンを長めに切って、とろ火でしっかり焼いて、出た油で薄焼きに卵を焼いた」
「ピクルスのスライスがあるのが、しつこさを消してくれていいね」
「そりゃ良かった」
「でもベーコン使うなら、BLTサンドじゃないの」
「あれも水気が出るし、食べる時に崩れやすいからね。バーガーショップでならいいけど」
「そっか」
「あと、頭文字で略してる呼び方が嫌いだしね」
「あ、出たね、じーさんの好き嫌い」
「BLTなんて、ビーフ、ロータス、トリュフかもしれないだろう。SDGsなんてのもスーパーデラックスゴブリンズかもしれない」
「どっから出てきたんです、そのゴブリンズは」
「ダンジョンからだな」
「ゲーマーじーさん?」
「高中正義の曲にもあった」
「何か、懐かしい人の名前が出てきましたね。親父が良く聞いてたから知ってますけど」
「うん、結婚式の披露宴で使ったんだよ」
「そりゃ結構でした。うっとり思い出さないでください、じーさん」
「だから頭文字で略してるのは、知ってる奴にしか通じない、知ってる奴が偉い、知らない奴には理解の筋道が無い名称だから嫌いなんだよ」
「あ、戻ってきた。そう、略で言うとLGBT法も何の略だったか分かんなくなっちゃうんだよな」
「あれは、ラージ、ジャイアント、ビッグ、トール。身体の大きい人は偉いって奴だろう。ついでに言っておくけど、法律の名前はLGBTの略語は使わないからね」
「あれはどうなるんだろう。あれが成立すると女性トイレに女だって自称する男が入ってくるとか」
「気持ち悪いよね、そういうこと平気で言う人」
「気持ち悪いまで言う?」
「だって、痴漢目的で女性トイレに入ってくる奴は、性的マイノリティの人じゃないんだよ。不自由で差別されやすい人を守ろうって言うときに、その対象じゃない人が悪いことするかもしれないら我慢してろって、平気で言える人の方が、人として隣にいたら気持ち悪いよ」「まぁ、逆にそんな法律が無くても、女装してトイレに入ってくる奴とかもいるし、そういうこと全般の取り締まりを厳しくしたり、厳罰化する方がいいのかもしれない」
「そう。順序が、前提があるんだよ。性的マイノリティは、趣味嗜好の問題じゃない。だから、そういう存在が認知された以上、差別されない、平等の権利を要求する権利がある。本人に罪が存在しないんだから、当たり前のこと。で、それを前提にしたうえで、今までの社会運営の中で問題や摩擦が起きる場合、差別をなくす前提で、不都合を解消する方法や施策を作らなきゃいけない。だから前提になる視点をまず確保しましょうって法律が、今は必要なんだろう。今回出てる法案がそれに値するかどうかは疑わしいけどね」
「そうだねぇ。文言の使い方で色々言ってるし」
「本当は、そういう前提を法律で確保しとかなきゃいけない現状の方が、情けないんだけどね。いくら少数でも、もう存在は世界で明らかなんだから。定義に多少の揺れがあろうと、今更不在にはできないよね」
「後、スポーツの問題とかで女性の権利が侵害されるとか」
「それも、参加の道を開くことを前提に、どうやって守るべきものを守るか、ってことだね。今でも無条件じゃなく、ホルモンの数値とか調べているんだろ。だいたい、マイノリティなんだから、男性の体で生まれた性自認女性の人が、競技種目上位を独占なんてことは起きるわけない。女性アスリートの記録は男性なら誰でも塗り替えられるほど楽なもんじゃない。そしてホルモンバランスを変えることは、当然ハンデになる。ついでに、これも詐称でって線が言われるけど、成功が保証されてないところに、女性としての名誉しか得られないんだから、性自認が男性なら誇りも持てない。表彰された後で男に戻ったら、剥奪の可能性が大。金でこれだけのリスクを冒せるほどの競技はごく僅かだし、国が絡んだりしたら100%国際競技会から締め出し。少なくともこれから手はいくらでも打てるんだ。それを乗り越えて、それでも競技に出て勝者になる者を、生まれつきに体が不公平だと詰るなら、個体能力差は全て不公平だよ」
「ま、じーさんは基本的にマイノリティの味方ってタイプだから」
「当たり前だろ。マイノリティは、基本的に弱い立場なんだ。それが守られないってことは、いつ自分が踏みつぶされるか分からない社会だってことだ」
「じーさんも何かのマイノリティ?」
「あらゆる立場、意見、境遇において、必ず多数派に属してますなんて、そんな“のっぺらぼうの鵺”みたいな器用な真似できるか。それに、例えば自分は性的マイノリティでなくても、子どもが、孫が、友人がそうだったら、それを支援するしかない立場もマイノリティ側になる。枕を高くして眠るためには、マイノリティに優しい社会であってもらわなくちゃ、いつ自分が狩られる立場、刈られる立場になるか分からんからね」




