↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五八三七G3の酒の肴  作者: V4G3
PR
21/26

美味しいカブ、怖いカブ

「じーさん、今日は日本酒の気分なんだけど」

「ん、じゃ、真澄の辛口生一本でどうだ。冷えてる」

「あ、はい、それで。2合」

「了解。うん、アテも相性悪くはないよ。蕪と鶏の炒め煮」

「いいね。なんか、ここんとこ仕事がせわしなくて。忙しいってのでも無いんだけど、疲れちゃった」

「そりゃ、良くないねぇ。ほい、ぐい吞みと2合徳利。手酌でお好きに。あと、蕪」

「ありがと。いただきます。あぁ、しみじみ」

「だな。一杯目の日本酒は、なんだかしみじみだよな」

「蕪も出汁と鶏の味がしみて」

「じーさんっぽい味だろう。塩胡椒した手羽元と、乱切りした蕪をさっと炒めて、後は出汁に醤油と味醂で味を調えて15分ぐらい煮るだけだ。最後の方に刻んだ刃の部分も入れて、さっと火を通して終わり」

「意外と家でできるか。ま、やらないかなぁ。美味しいの外で食べたい。じゃなきゃ、誰かに作って欲しい。別に彼女じゃなくていいから」

「どうも、ほんとに疲れてるなぁ」

「うん。何か、新部門作るとか、いろいろ話があって、社内が落ち着きが無いんだよね。おまけに、営業総点検月間とか言ってさ、急に既存のお客さんとの契約を総点検して、より利益の確保できる無駄のない契約形態にすることとか言われて、中堅の営業さんたちが激怒してて、ほんと、そういう時にバタバタって仕事入ると、なんともやり辛いって言うか、みんなでやるぞって士気が上がらないんで」

「あぁ、士気が上がらないと仕事は倍、辛いわなぁ」

「そう言うこと。ウチはさ、BtoBだけど業界では割と評判がいいし、製品もサービスもしっかりしてる方なんだよね。で、これに集中してれば多少の変化も対応できるし、技術革新に乗り遅れることもなさそうだし、第一、環境が激変した時も、今の技術や取引を活かして生き残るしかない。と、俺は思うんだけど、どうして背伸びしたM&Aまでして他業種に進出したり、金融運用部門をでかくして別会社にしたり…。そりゃ成長の為って言えばそうだけど、そんな無理に成長する必要なくない?」

「あぁ、気持ちは分かるけど、無理だな」

「どうして?」

「カブのせいで」

「コレ?」

「いや、株式会社の株。上場してるだろ、君の会社。株を公開したら、株主の為に企業は最善を尽くして成長しなきゃいけない。でないと株価が上がらない」

「いや、でも株はウチの事業をやるための資金調達でしょ。なんでウチの本業以外に手を伸ばしてまで成長する必要があるんですか。少なくとも、最初に公開した時よりは価値は上がってるわけだし、落ちなきゃいいじゃないですか」

「それ、100年前の株。そうそう、NHKの渋沢栄一主人公の大河でも、株をそんな風に説明してたなぁ。大きな素晴らしい事業があって、スケールが大きいから、一人の力では資本が足りない。そこでその事業に賛同する人から広く資本を集めて、それで事業を実現する。その結果として得た利益は、出資した額に応じて分配される。あれを株だと思って育つ中高生もいるかと思うと、罪な話だよね」

「でも、確かにもともとはそういうもんでしょ」

「もともとはね。でも今や株は金融商品だからね。最初の値段とか関係ない。今の持ち主がその株の持ち主になったのは10分前で、5分後には売るかもしれない。その人がその会社の事業に賛同したり期待したりすると思う?」

「あぁ」

「モノ言う株主ってのもいるよね。割と長い間、株を保有してて、株主として経営にも口を出す。でも、彼らの大半は投資会社だ。金の儲け方、株価の上げ方には詳しいけど、その会社の事業目的とか本業へのこだわりとかは関係ない」

「あぁ、なるほど」

「企業ってものは、本来、事業を行うための組織なり仕組みだと思う。そして事業は営利を目的とした生産やサービスを行う活動なんだけど、その根っこは社会に貢献する活動の筈なんだ。だから犯罪は営利を得られても事業じゃない。社会に価値のある活動をするからその正当な報酬としての営利を得る。こういう事業で社会に貢献して営利を得たいと思いますって組織が企業だ。で、その事業運営の資金調達方法として、株式会社っていう在り方があった。でも、今や企業は企業であることより、株式会社としての宿命に振り回される。事業ではなく利潤が、事業ではなく経済的成長が至上命題になる。それは、本来の事業が貢献しようとしていた社会、例えば国であったり、消費者市場であったり、特定の業界という枠組みであったりにとっては、全く有難くない。株式会社の今の在り方は、社旗に貢献できるはずだった企業の在り方を歪めてしまうと言ってもいい」

「言いますね。でも、成長成長って言われても、限度はあるでしょ。日本なんか人口も減っていくわけだし、日本の市場はもう大きくならないでしょ」

「日本の中だけならね。株は世界で売買される。そして世界市場、世界は経済成長を続けなきゃいけない。ほら、持続可能な成長って良く言われるだろ。決して成長より環境とか、現状維持で効率的分配をってことにはならない。絶対に成長は外せない。でもそれが保証されるほど、世界の状況は良くはないし、資源だって限りはある。だから持続可能なってことが大事になる。」

「世界経済の成長は絶対に外せない?」

「そう。だってそうじゃなきゃ、世界に広がった株式市場が崩壊するでしょ。株式市場に流れ込んできてるお金は、世界経済が成長する、仮にすべての投資が一人の投資家のものだとするなら、その投資家は絶対に得をするってことで成り立ってる。個別のケースでは損得があっても、投資という活動は、正しく行えば利益を期待できる行為であって、賭博とは違う。でも成長が約束されてなかったら、ただの博打だ。企業の資産運用に使う正当性もなくなるから、株式市場に流れ込む金はあっという間になくなる。そんなことが起こったら、株価の大暴落で世界大恐慌だ。グローバル市場経済の破綻だ。だから、投資会社が株式会社に利潤の最大化と成長を第一義として要求するのは、世界経済において正義だ」

「そう、なるね」

「でも人間が生活している社会にとっては正義とは限らない」

「じゃ、どうしたらいいの」

「どうしようもないよね。今更、後戻りなんかできないし」

「はぁ…」

「ただ、そうだね。国や業界のような個別の社会の単位が、株主の権利行使に一定の歯止めを設ける制度とか、公益を守るための株の保有をする組織化仕組みを作るとか、社債のように経営権を左右されない資金調達の効果的支援とかを考えるといいのかもしれない。いずれにせよ、世界経済の流れは変えられないし、日本の企業だけそれに乗らない、ってのも出来ない以上、世界市場の轟轟たる非難を覚悟しつつ、見逃してもらえる程度の、社会の為の橋頭保をどうやって作るか。それは国の産業政策の大事な課題なんじゃないかな。ま、自己資本100%、非上場の居酒屋には関係ないけどね」


「サブスクを止めるー闘病短歌」も頑張って不定期ながら更新を続けております。時間はかからないので覗いてやって下さい。

https://ncode.syosetu.com/n9606ik/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。