第8章
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・・・だから。・・・
そう小さな唇でつぶやく。
「・・・。?」
少しだけ、ためらいながら。
会って欲しい人がいると。彼が言った。
「・・・おれに?」
「そう。」
「・・・。誰?」
「あなたと同じ。・・・運命を背負ってる、ひと。」
「・・・。どういう意味で?」
「死を、受け入れなくてはならない、運命にある。」
「・・・・。」
誰だって。そうじゃんかよ。
おれは内心、そう思いつつ。彼の。次の言葉を待った。
「でも、それを。・・・・受け入れられないで。いるの。」
「大抵の。やつはそうなんじゃないの?」
「苦しんでる。」
「おれ、何もできないよ。」
「・・・・。」
「何もできない。おれが。・・・・何かできる訳、ないじゃんか。」
いま他人の。人生にまで。係わってる、時間なんかない。
「おまえ、何考えてんの?」
何も。できない、何の。責任も取れないし。・・・・
「いいじゃないですか。何も、できなくても。・・・・どうせ。」
「・・・・。」
「暇、でしょ。・・・・?」
「・・・。」
あぁ。
どうせ、暇だよ。
「ぷは、」
やってやるよ。
おれは思わず吹き出して、にやっと、笑った。
こいつって。凄ぇかも。・・・そんなに長く、一緒にいた訳じゃ、ないのに。
おれの。・・・・
扱いを。よく、心得てる。
「連れて来なよ。ふはは、」
どうせ暇だし。
ふふ、・・・笑える。ほんと、
何本もの。管につながれて。いまは、食事を摂ることもできない。
ほんとになんも。・・・する事もない。
暇で。・・・ひまで、ただ時間が過ぎる事だけを。やり過ごす、だけのカラダだ。
余命。・・・一ヶ月も。ないと言うのに。
そんな事思って、管につながれた不自由な身体をずらして、針が刺さった腕を、頭の後ろに周して目を閉じた。
あいつが離れて行く、音がする。
「・・・。」
あいつがいるのといないので。
部屋の温度まで一瞬で変わったような。
そんな。・・・気がして、無意識に布団の中に沈んだ。
・
その日、ただそうやって一日を過ごした午後。
おれの前に。男、三人が連れ立って、現れた。
「・・・・。」
顔だけ見たら。すげぇ、派手な出で立ち。
何なんだおまえらは。どこかの。・・・ホストクラブかなんかの。勧誘か?
「紹介してよ、ナギ。」
「・・・・。」
こいつと同じ格好をしてるって事は。
同僚なんだろうなって。すぐにわかる。
馴れ馴れしく。・・・呼び捨てにしてるし。
・・・。おれの、なぎなのに。
なんてな。
「こちらの、・・・・にやにやしてるひとが。」
「・・・。」
「幸田クン。再生不良性貧血からいま、とうとう白血病に移行しかかっている。全身状態も悪く・・・、余命はほぼ一ヶ月と診断されました。」
淡々と、なぎが病状を説明する。・・・ほぼとか言うな、ほぼとか。
「輸血を含む支持療法を中心に、ホルモン剤などによる都度、多剤併用治療中。なかなかコントロールが難しくて。・・・その上、僕に隠れて煙草なんて吸ったりして。」
「・・・。」
「・・・本当に、不良なの。」
大して、困ってもいないような顔して、なぎがそう言った。
「こいつらは、誰なんだよ。」
おれは、なぎに向かって、なぎを呼び捨てにした、看護士に目を向けて言う。
「え?ぼく?」
「そぅ。」
「ぼくの、名前は大空翼。」
「ぷっ。」
「・・・・・。」
「あ、ごめん。」
・・・やべぇ思わず。笑っちまった。
だってあまりに。ベタな名前だからさ。
・・・まぁひとの事。言えないけど。
「ごめん。」
ぺこりと、頭を下げて。
名前の事、言われるとイヤな気持ちは。おれにもわかるから。
「別に、いいけど。慣れてるから。」翼と名乗った奴が、涼しい顔して言う。
そして隣を見て。
「こっちの彼は。」
「ぼくは金城毅。」
「ぶっははははは。」
「・・・・。」
・・・ごめん、だって。
久しぶりに。声出して笑った気がした。
「違うだろ、きんじょうだろ。」大空翼が言う。
「いいの、かねしろで。」
「何でだよ、」
「その方が、覚えてもらいやすいから。」
「それそんなに大事?!」 二人が。慣れたようなやり取りをして笑う。
「・・・・。おまえ・・・」
「・・・。?」
「たけしって言うんだ。」
大空翼の隣にいる。青白い顔した。イケメンに言う。
「・・・。」
「おれもたけし。」
「え?!」
「一緒だな。」
自然とすっと。手を伸ばした。
「・・・え?」毅がおれと、おれの差し出した手を見比べる。
「握手。おれ達、・・・仲間みたいだから。」
「・・・。」
おれは笑って、そう言った。
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