第57章
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「僕の。・・・ことはいいから。」
なぎが、笑って。・・・ぃや、違う。
笑って、泣いて。
おれは、おまえの涙を伸ばした指の先で懸命に、ぬぐった。
・・・。
真剣な顔して、止まれ。もう涙止まれって、思って・・・・
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「・・・たけし、」
「・・・ん・・・・・」
「恨んでますか。・・・?」
「・・・え・・・・?」なぎを、見る。
「海を。その時自分だけ。生き残ってしまったことを。」
「・・・。」
「・・・その、運命を。恨んでますか。・・・?」
「・・・。なんで?」
「・・・・。」
どうして恨む。事なんてできるのか。
「可哀想に。」
「・・・。」
「あの、海だってあんな事。したくなんて。なかっただろうに。」
「・・・。」
「突き上げられたら。たまんないよな。」
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「・・・あ。なんかおれ。・・・エッチな、言い方したな。」
「もぅ。」なぎが、目を細め笑う。
「でも。ありがたいとも。思ってない。」
「・・・。」
バチあたりだろうと。・・・何だろうと。
あれで。・・・あの瞬間で。・・・・おれは、全てを失った。
過去も未来も。
これで・・・何かをなし終えた、訳じゃねーけど。・・・・
「・・・ごめんな。」
・・・もぅゆっくり・・・と上を向き、白い、天井に向かって息を吐き、言う。
「たけし。」
おまえがおれの・・・名前を呼ぶ。
・・・。名前・・・・この、・・・名前にも。ずっと、悪態ばっか、ついてたけど。
でもおれ。この名前、嫌いだった、訳じゃねーよ。・・・・?
「・・・たけし。」なぎが、また・・・おれの名前を呼ぶ。
優しく。・・・強く。
まるで背中を・・・押すように。
おれは、そっとまぶたを、閉じて。・・・・まるで。走馬灯のように。
小さい、頃からの。思い出が次々と、よみがえる。
すぐに。目に浮かぶのはそう・・・・いつも、蒼い海。
そして色んな人の顔・・・顔・・・顔・・・・・・・
みんな口々におれの・・・名前を好きに呼んで。
・・・たけちゃん、タケ、・・・たけし・・・・
・・・そう。・・・読み方は、・・・そうだったけど。・・・おれ、気に入ってた。
「武士」って。すげぇ格好いい名前だったって。そう、思ってるよ。
生きてる時は。否定ばっかしてた、いろいろな事に。
ここに来て。
いま、やっと。・・・素直に、なれる。
口の端を少しだけ、上げて微笑む。
「・・・たけし・・・・」おまえを、見たいのに。
もうまぶたが。上がらない。・・・・・
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