第15章
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「・・・疲れた。」
「ちょっと、寝たらどうですか。」
「・・・。」なぎにそう、言われて。
ベッドを整えて、くれる。その小さな、背中に向かって。
「うん。」なんておれは、答えて。ちょっとだけ、ココロの中で。
夫婦みたい。・・・だな、なんて。思って。・・・・
「なに、ニヤニヤしてるの。・・・?」相変わらず。その可愛らしい、その、無垢な・・・天使みたいな、顔をじっと見つめた。
「・・・ん?」
「おまえさ、」
「?」
「・・・付き合ってるやつとか。いるの。・・・?」
「・・・。」
なぎが。おれをじっと見つめる。
「なんだよ。」おれは途端に、どぎまぎして。そう。言って。
「いたら、どうなんですか。」
「え?」
「もしいたら、どうしますか。・・・?」
「・・・・。」
・・・どうする、って。・・・・・
「・・・いるの?」
「だから、もしいたら、の話です。」
「・・・・。」・・・もし、いたら。・・・・・
・・・って事は。
・・・いるのか。
そりゃ。いるよな。こんな。・・・可愛いんだから。世間が。放っとく訳、ねぇよな。
・・・なんだよ、聞かなきゃ。・・・良かった。
おれは一気に、口を尖らせて、落ち込んで。
「・・・好きな、人はいます。今は・・・言えませんけど。」
「・・・・・・。」
「近すぎて、言えないんですよね、」
もう。
いいから、言うなよ。
「・・・。あいつ?」聞きたくはないのに。
勝手に口が動く。
「・・・え?」
「もしかして、あいつ?あの、翼って、やつ?」
「僕。・・・・」
「・・・・。」
「翼と、そんな風に、見えますか・・・?」
「・・・。」
・・・くるっと、なぎが。おれに背を向けて。部屋をあとにする。
洗った、ばかりの髪に手を入れて。がしがしと、掻いて。
・・・そんな風って。・・・・どんな、風だ。・・・・?
・・・って言うか、なに?怒ったのか。・・・・?
なんなんだよ。・・・・おれ、そんなヘンなこと。・・・言ったか?
ぼんやりと。自分の今言った事、思い出そうとしながら。
ベッドに沈み込む、ように身体を横たえると。すぐに、・・・また、
睡魔が、訪れた。
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あぁ。・・・・久しぶりだ。この。・・・感覚。
そう、まるで泥の中に、沈み込んで、ゆくような。・・・・・
夢なのか。現実なのか。それか、その・・・狭間、なのか。
おれはあの事が、あってから初めて知った。
強く何かを、想う事があるとそれが。・・・夢に。現れるって、事を。
決して。見たくはないのに。
そんな、自分の意思とは裏腹に。・・・鮮明に。おれに、色々な物を見せに、それはやって来る。
夢の中のおれは。珍しく。・・・笑って、いた。
笑って、また海を。・・・眺めて、いた。
母ちゃんの。声がする。
父ちゃんの。・・・声も。
海を眺めてるのに。なぜか。家の、中の音がした。
懐かしい。・・・・懐かしい。・・・・ただ。ただ懐かしい。
その。風景。
目に見える、ものは全て。モノクロで。決してその色を取り戻す、事はないけれど。その事も、夢の中のおれは。充分わかっては、いるんだけど。・・・・それでも。
ただ、ただ笑顔を作って、笑って、いる。
それが。まるで当たり前、かのように。
まるでその一瞬だけ。切り取られて、しまったかのように。
そうやって。笑っている、おれをおれが。・・・遠くから、じっと眺めている。
だから、死んだんだなって。思うんだ。いつも。
・・・死ねたか。
やっと、おまえも死ねたか。
だから。・・・笑ってんのか。・・・・・?
「たけし。」
「・・・・。」
優しくそう、おれを呼ぶ、声がした。
いつもと違うのは。そうやって、おまえの。・・・・おれを呼ぶ声で。
違う。これは夢なんだって。・・・・・
夢の、中で。・・・・ちゃんと。頭の中で。わかった。・・・こと。
まだ。死んでない。
だって、おまえがいる。
そう、思えた事で。目が覚めた・・・時。
前みたいに。目が覚めた、時。・・・膝を抱えて。
・・・あぁ、今見たのは、夢だったんだと。
・・・おれはまだ、ひとり。・・・生きて、いる。
そう、そう思ってそのまま、また、ずぶずぶと。地面の底に沈んでゆくような。・・・
そんな、絶望感を。
この時だけは。
味合わずに・・・・済んだんだ。
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