その9.焚火
洞窟と呼ぶには少し狭い岩の裂け目。雨風が防げて、大型の魔物が入れない場所である。
ここに朔也を連れて来てからかなりの時間が経過し、既に太陽が紅くなりかけていた。
「良く寝るね、朔也。」
光樹はそんな寝顔を見ながら、近くから採取した果実を食べている。
こういった全ての避難場所には、食料の確保出来る何かを見付けてあった。
「さて、今日はここで野宿だな。」
光樹は集めてきた薪に火を付け始める。
「…腹減った。」
ようやく起きた朔也の第一声に、思わず吹き出す光樹だった。
「おはよう、朔也。良く寝ていたね。」
光樹の言葉に朔也は自分の現状を確認する。眠る前にいた場所は森を抜けた草原のはずだ。
「…お前、また俺を移動させたのか。」
年齢の違いもあるが、朔也は小柄過ぎる。
「うん、ごめんね。良く寝ていたから、起こすのも気が引けてさ。それに、あのまま寝ていると危険でしょ。」
火を起こしながら笑顔で話す光樹だ。
「…何やってるんだ、さっきから。」
光樹の手元を見ながら問い掛ける。朔也にとって、焚火を起こすのを見るのは初めてだった。
「何って…、火を起こそうとしているんだよ。焚火がないと、魔物が近付いて来やすいからね。朔也は今までしなかった?」
種火が付き、薪に燃え移らせる。
「ふぅん、そうやるんだ。手間がかかるな。」
初めて見る火起こしに対し、観察に余念がなかった。
薪を見たり、火種を見たりしている。
「薪、初めて見るの?あ、朔也は魔法を使うんだよね。」
ようやく赤々と燃え上がった焚火に、近くの河から釣ってきていた魚を枝に刺してかざした。
「まぁな。物心ついた頃から、魔力を使う事が出来たし。」
朔也が手を握ったり開いたりして、自分の状態を確認する。
魔力は回復している様で、ぼんやりと掌が光を帯びて見えた。
「でも魔法は、自然界との契約が必要って言っていたでしょ?」
光樹は思い出した様に、魔力の法則を問い掛ける。
「あぁ…。一人で生きていく為に、強い力が必要だったからな。」
朔也の両親は、彼が三歳の時に『純人類』と名乗る組織に殺害された。