その37.護る力
「っぐぅ?!」
のけ反る様に倒れる朔也に駆け寄る光樹が見たものは、魔法石の隣に立つ少年。町で朔也にぶつかってきた子供だった。
「…っ痛ぅ…くそっ、ふざけやがって!」
額に汗を滲ませ、電撃による麻痺と痛みに耐える朔也。だが体質的に雷に弱い為、受けたダメージが大きい。
「君は何故魔法を使えるんだ?」
光樹は状況を冷静に判断した。
魔法石に触れたとは言え、素質がなければ逆に力に弾かれる。
「僕は魔力を持っている。けど、魔法石になりたくないっ。」
少年が叫んだ。
「ま、まさか拓馬が?」
町人に拓馬と呼ばれた少年は、どうやらここでの話しを聞いてしまったらしい。
「そりゃね。けど、朔也に当たるのは間違いでしょ。その魔法石になった子だって同じだったと思うよ。人間の勝手な道具にされて、納得なんて出来る訳ないじゃん。」
光樹は朔也を抱き起こしながら、拓馬を観察。赤銅色の髪を黒く染め、金色の瞳は特殊な膜を被せて黒く見せている様だ。
「すぐに朔也が魔力所持者って気付いたのは、君も魔力を持っているからだったんだね。」
光樹は朔也を抱いている為、両手を必要とするぱちんこの攻撃は出来ない。
けれど一歩も引き下がる事なく、少年に真っ直ぐな視線を向けていた。
「な…、何でだよ!僕は必死に隠してきたのに、何でその姿のまま生きていけてるんだよっ?」
拓馬は朔也に対し、自らが今まで抱えていた不満をぶつける。
「…はぁ…ったく…、逃げてんのはお前自身だろっ!」
大きく溜息をついた後、射るような視線を向けて怒鳴り付けた。
見たところ十歳にも満たないだろう拓馬にとって、人々の中でいつ知られるかと言う恐怖の狭間で暮らすのは並大抵の心理状態ではないだろう。
だが、それは拓馬だけではないのだ。
「ふん、自分だけが被害者面すんな。その生き方を選んだのはお前だろう。」
朔也はまだ麻痺が残る身体に力を入れ、支えてくれていた光樹から放れる。
心配そうな光樹に軽く手を挙げてみせ、拓馬に歩み寄って行った。
「な、何だよ…。来るなよ、攻撃するぞっ。」
だが既に気持ちが折れている拓馬は、後退りしながら魔法石に背中をぶつける。
「お前、これからどうしたい。」
朔也は拓馬の目の前に立つと、目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。
「あ…っ…、僕は…お父さんとお母さんと一緒にいたい…っ。」
少年の願いは決まっている。だからこそ、この町を離れられなかったんだ。
「それなら、もっと強くなりな。護りたいものがあるなら、自分の力で護り抜け。」
優しく強い言葉に拓馬が頷く。
「あ、君達は覚えておいてね。朔也が怒ると怖いから。純人類の法術師十人倒したって聞いたら、力は分かるよね?…魔力所持者、嘗めんなよ!」
始めは穏やかに話していた分、最後の一言は凄みが増した。
「はい、申し訳ありません。」
町人達はその場に座り込み、それぞれ頭を下げる。
「それじゃ、行こうか朔也。魔力所持者も見付けた事だし、無事も確認したからね。」
光樹は朔也が無理をしているのに気付いていた。早々に休ませてあげないと倒れてしまう。
「…あぁ、…よろしくな。」
朔也は魔法石に向かって声をかけた。この石がある間ならば、町にいる方が少年にとって安全だからである。
「あっ…、ありがとう。僕、逃げないよ。お父さんとお母さんを護って見せる!」
拓馬が光の宿った瞳を向けた。
護りたいものが己の心を強くしてくれる。
「じゃあねっ。」
朔也の首元に抱き着くと、光樹はにこやかに手を振った。
「魔力所持者のお兄ちゃんも、パスリルのお兄ちゃんを大切にねっ。」
建物から出た二人を見送っていた拓馬から、扉が閉まる瞬間に発せられた言葉。
「なっ…?!」
振り向いた朔也は、突如目眩に襲われる。
「は~い、急に動かないでね。」
予想通りの朔也を、光樹はそのまま抱き上げた。
「…ムカつく…。」
口だけで反抗するが、身体は既に限界を超えている。
「うん、大人しくしていてくれたほうが助かるよ。」
上機嫌の光樹は、朔也を抱いたまま町を出て行くのだった。




