その38.心の距離
「…なぁ…、もう大丈夫だって言ってるだろ?」
不満そうな朔也。
ジルエの町を出てから結構な時間が経過している。
「ダメだよ。朔也の大丈夫は、まだまだだもん。」
機嫌の良い光樹は、今にもスキップをしそうなくらいだ。
「だから、もう降ろせって!」
今だ光樹に抱き上げられていた朔也は、何度も訴えている意見を聞き入れてもらえない苛立ちから声を荒げる。
「んもう、我が儘さんだなぁ。朔也を大切に思う僕の気持ち、分かってる?」
漸く立ち止まった光樹は、朔也の顔をマジマジと見た。
「ち、近いって。」
焦る朔也だが、光樹は至って真面目な表情である。
朔也にも、光樹が心配してくれているのは良く分かっていた。だが、このまま甘えていてはならないのも分かっている。
「…もう少し自分を大切にして?僕は朔也がいないと嫌なんだ。傷付くのだって見たくない。朔也が人間達に奇異の視線を向けられるのなんか、腹ワタが煮え繰り返る。」
光樹は酷く辛そうな表情をしていた。
「お…、おい…。」
朔也は混乱して、それ以上言葉が出なくなる。
「だから朔也…ギュッ!」
突然思い切り抱きしめられ、朔也は頭が真っ白になった。
「…っ!」
だが、そんな光樹の身体が微かに震えているのに気付く。
「…悪かったな。」
抱きしめられたまま、抜け出た左手で光樹の頭を撫でた。
「…うん、分かれば良しだよ。」
笑顔を見せた光樹だが、無理しているのが朔也には伝わる。
「まぁ…なんだ。光樹も無理すんなよ。俺も…かなりお前を頼りにしてるからさ。」
やっと解放された朔也は、赤面しながらも光樹に告げた。
実際、こんなにも他を必要とした事がない。
「エヘッ、ありがとう朔也。」
光樹自身にも、パスリル国の再建と言う目的以外の大切な存在となった朔也。
互いが互いを信じ、必要と実感していた。
己以外の護るべき存在は、自身を強くも弱くもする。
「次は何処に行くんだ?」
朔也は空を見上げた。
独りでいた時と変わらない空。
「うん、一度ギルミル山に戻ってみようかって思う。」
ギルミル山には、パスリルの民が暮らしている。
「あぁ、結構経つよな。俺も結晶化させた防御魔法が気になるし、良いんじゃね?」
そして二人は、ギルミル山に向かう事にした。




