その36.犠牲
「あ、はい。こちらです。」
数人の町人が朔也を先導した。
光樹も朔也の後に着いていくが、依頼をしてきた町人の態度の違和感を感じる。
「朔也、何か変な感じしない?」
小声で話し掛けるが、朔也は一瞬視線を向けただけで返答はしなかった。
どうやら感覚で魔法石の場所を感じているようで、案内人よりも先に歩いて行く程に集中している。
そして魔法石が奉られている社に到着した。大きな建物で、物々しい雰囲気を纏っている。
中に入った途端、一段と重い空気に光樹は顔をしかめた。
「…一つ聞くが、何故魔法石は人型をしているんだ。」
建物のほぼ中央辺りに血のような紅い像がある。
朔也の言葉通り、それは両手を合わせて懇願する様な人の姿をしていた。
「あれは…、魔力所持者です。」
町人が重々しく口を開く。
「お前等…生きたまま魔法石にしたのか。」
怒りを押し殺した朔也の言葉は、辺りの空気すら変えた。
町人達がうろたえ始める。
「あぁ、何とかって男が法術を使って液体版を作っていたね。」
わざとらしく手を打ち鳴らす光樹。そして周囲を確認した。
見渡せる程の室内、逃げ道は先程入って来た一カ所のみ。敵と成りうるこの場にいる町人は四人だ。
「…法術を使い、魔力所持者を魔法石とする。法術による結界と違い、自然を力の源とする魔力は守護石に最適だ。環境を壊さず、魔物も寄せ付けない…純粋な護り。」
淡々と語る朔也は、魔法石と化した魔力所持者に近付く。
既に長い間石となっている為、残る思念も薄れていた。しかしながら、悲しい程の恐怖が伝わって来る。
「この子は…この町で生まれた魔力所持者だな。」
朔也の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。魔法石となった幼い少年の想いが、この姿になってなお町を護りたいと言っている。
「…二十年程前に生まれた魔力所持者の男の子です。それまでの石の力が弱くなり、五歳になる前に魔法石になりました。」
町人の一人が話し出した。
この町は長い間、代々魔力所持者を魔法石に変えて町を護ってきたのである。
ただ今回は魔力所持者が幼過ぎた。善悪の判断が未熟であった為、町人にとって失敗作となる。
「…だから破壊?ふざけるな。この子の寿命分は責任持て。」
朔也の有無を言わさない真っ直ぐな言葉に、町人は口を閉ざした。
実際破壊しようとすれば、魔法石に悪と判断されて結界の外に弾き出される。それに打ち勝つ力を持つ者でなければ、魔法石の破壊は不可能に近いのだ。
「そうだね。どうせその魔法石を破壊したところで、新しい魔力所持者が犠牲になるんでしょ。もしかして、朔也が候補に上がっていたりした?甘いよね、人間って本当に自分勝手。世界が自分達の為に存在していると思ってる。行こう、朔也。」
光樹は突き放した物言いで出口の方へ歩いて行く。
「…あぁ。」
その場で動けない町人達に背を向け、朔也も出口に足を向けた。
「待って、行っちゃダメーっ!」
突然朔也の身体に電撃が走る。




