その32.法術の結界
漸く追っ手を撒いた頃、楽しそうに少女が振り向いた。
「凄いね、カッコイイ!アンタ達、他の人と違うねっ。アタシ、真夏。この町に住んでるんだよ!」
興奮しているらしく、両手を振り回して話す。
「僕は光樹。こっちは朔也だよ。真夏ちゃんって、火の一族だよね?」
走り回った為座り込んで肩で息をしている朔也に替わり、光樹は赤い髪の少女・真夏に問い掛けた。
「うん、プーリアだって聞いた事がある。でも火の山が爆発して、たくさんの人がいなくなっちゃったんだって。お父さんとお母さんもこの町生まれだし、本当の事を知っている人はいないかも。」
最早昔話である。
実際にこの町で生まれ育った真夏には、火の一族と言われてもピンと来ないのだ。
「そっかぁ、仲良くここで暮らしているんだね。お父さんもお母さんも元気?」
光樹が心配するような迫害は受けていないようで、笑顔のまま話を変える。
「うん、元気!たまに意地悪する人もいるけど、皆優しいよっ。」
満面の笑みで答えてくれる真夏からは、沢山の人の愛情が伝わってきた。
「…行こうぜ、光樹。買い物も終わったし。それに、この町は俺には息苦しい。」
朔也はあまり回復してないようで顔色も悪く、浅く早い呼吸を繰り返している。
やはり、法術の結界の中では身体が思うようにいかないようだ。
「うん、分かった。早くここから出よう。真夏ちゃん、誰にも見付からずに町の外に出られたりする?」
朔也の体調を考慮すると、これ以上走り回ったりする事は避けたい。
「うん、あるよ!あの蓋から中に入って、真っ直ぐ行くと外の川に出られるの。ちょっと臭いけどね、エヘッ。」
真夏は下水道の抜け道を教えてくれた。
「ありがとう、真夏ちゃんに会えて本当に良かったよ。」
光樹は彼女に礼を告げると、少し辛そうな朔也に手を貸しながら下水道に入っていく。
「…やば…、吐きそう…。」
長く法術の影響を受けている為、既に足元がふらついている朔也。光樹に支えられているが、自力歩行が困難な状態だ。
「うーん、仕方ないよね。我慢してよ?」
光樹はそう告げると、軽々朔也を抱き上げる。
「っ!…わりぃな…。」
拒否しようと思ったが、自身の現状から考えて有り難く好意に甘える事にして光樹の首にしがみついた。
「良いよ!僕はいつでも、朔也の為なら頑張るからねっ。」
上機嫌の光樹は、朔也を抱いたまま足早に下水道を走り抜ける。
朔也は光樹の温もりを感じながら、身体の回復の為にウトウトと眠りに誘われて行った。




