その24.法術
夜が明け、再び雪が総てを包み込む静寂な朝が訪れる。
「サク…、ザザルー言った。ジュンジンルイ言うの、キリク襲った。」
朔也と光樹はその名前に覚えがあった。忘れたくても忘れられない。
「…そうか。ティムはどうしたい?」
朔也は静かに問い掛けた。
「うん…ザザルー、逃げろ言った。ジュンジンルイ、ザザルー追うって。おいら…人間怖い。」
それならば、キリク達は巻き込まれただけと言う事。
純人類は、このベグル山の主的な魔物を狩る為に来たらしい。
「俺は奴らが近くにいるなら逢って話がしたい。」
しかしながら、朔也自身すら会ってどうしたいのか分かっていなかった。
「僕は…目の前にしたら、自分の感情が抑えられるか自信がないな。」
光樹は魔物キリクの惨殺死体を見た事により、自分の過去の感情とも重なっている。
だが三人のそれぞれの想いを無視したかのように、突然静寂が破られた。
ザザルーの声が辺りに鳴り響き、山が震える。
「敵、来た!」
ティムが叫び、三人は一斉に岩壁の隙間から外に飛び出す。
雪が太陽に照らされて白銀に光を反射する中に、距離は少し離れているが黒い捩りの一角を持つ銀色の魔物が見えた。
しかも、人間に囲まれている。
「法術師がいるな。」
その中に独特の布を身体に巻き付けた格好の法術師が十人程いた。
どうやら、ザザルー相手に法術を使っての戦闘中のようである。
対するザザルーは口から吹雪を吐き出し、人間達を寄せつけなかった。
「凄いね、この戦いは…。人間達は法術に手間がかかるから、魔物に押されている。やっぱり朔也の魔法は凄いよね。何と言っても綺麗だもんね。」
光樹は戦闘を見ながら、呑気に果実を皆に配っている。
「…法術は素材と言魂が必要だから、発動までに時間がかかるしな。」
魔力と違い誰でも使えるが、法化学によって結論付けられた方程式を利用する為に知識が必要だ。
手順を踏まなければならない事もあり、実戦に使用するにはかなりの経験がいる。
「…それでも俺は法術が怖い。過去に何度も痛い目にあってるし…。」
朔也にとって魔物より恐ろしい存在は人間であり、特に法術師は脅威的だった。
「そっかぁ、法術には魔力封じも出来るんだよね。」
自然界が源である魔力と、素材と言魂さえあれば発動出来る力。どちらが優位に立てるかは、経験がものをいう。
「どうする?朔也。このまま見ていても何も変わらないけど。ね、ティム。」
光樹は皆の顔を見回しながら問い掛けた。法術師相手に戦うなら、覚悟が必要となる。
「俺は、あの後ろに立っている男と話がしたいな。リーダーっぽいし。」
朔也が目を付けたのは、法術師の後ろから指示を出している長身の男だ。
「おいら、後ろのあいつ見た事ある。サーカス連れていかれる前、見た。」
半魔物のティムを捕獲するのも、純人類の生業である。
「んじゃ、噛ますか。」
法術師相手には先手攻撃が優劣に差を付ける為、直ぐに朔也は右手に魔力を集中し始めた。
「ちょっと、朔也…。気付かれてる?」
光樹が朔也を制した時には、既に純人類の法術師数人がこちら側を見ていたのである。
「な…、魔力を感知出来る訳ないだろ?」
朔也自身も焦った。まだ攻撃すらしていない上、魔力を集中しただけである。
「マズイ、来る!」
朔也が危険を知らせるが、法術師の攻撃の方が早かった。赤い法術球が数発飛んでくる。
そして雪煙が舞い上がった。




