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SAKUYA  作者: まひる
21/52

その21.敵意

 ようやく砂漠を越え、山の麓に到着する。


「この山の何処かにいるんだろ?」


 久しぶりに見た草木に触れながら、光樹コウキに問い掛ける朔也サクヤ


 ティムは辺りの匂いを嗅ぎながら、周囲を観察していた。


「うん、そうみたい。けど、何処かに隠れているのかな。見当たらないね。」


 迫害を受けて滅びた種族なら、息を潜めて暮らしていても不思議ではない。


「ここ、人間住んでる。たくさん。」


 辺りの匂いを嗅いでいたティムは、朔也を見上げて伝えてきた。


「そうか、どっちの方にいるか分かるか?」


 朔也はティムに話し掛ける時、必ず目線を合わせる。特に意識をしていない様だが、それはティムにとって凄く心温まる嬉しい動作だった。


「うん、あっち!」


 山の中腹辺りを指差し、走っていく。


「あ、待てって…っ!」


 走るティムを追い掛けようとした瞬間、ピリッとした殺気を感じた。


 魔物ではない。そう、本能で感じた。


「…誰だ…。」


 朔也は気配のする方を真っ直ぐに見据えると、剣に手を掛ける。


 ティムからは風下に当たる為、匂いでは気付かなかった様だ。


「良く気付いたな。我々は、君に危害を加える気はない。その半魔物を置いて行ってくれれば良いんだ。」


 姿を現したのは、光樹と同じ容姿をした十人程の男達。


 だが出会いの感動はなく、明らかに向けられる敵意と恐れを感じる。


「あ…、僕っ!」


 話し掛けようとした光樹に一瞥イチベツしただけの男は、再び朔也に向け口を開いた。


「その赤銅色の髪と金色の瞳、君は魔力を持つ忌み子だろう。」


 この男はリーダー格の様である。朔也達三人を見回した後、哀しみを含んだ目で朔也を真っ直ぐに見た。


「ここに何をしに来たのかは分からないが、我々は監視されている。大人しくその半魔物を残して帰ってくれないか。」


 どうやら彼等のボスが求めているのはティムだけらしい。


「そう言われても、素直にハイそうですかって訳にいかねーや。」


 朔也はニヤリと強気な笑みを見せ、大勢の人間に畏縮しているティムに視線を送った。


 それに気付いたティムは、素早く駆けて来て朔也の後ろに隠れる。


 茫然としていた光樹だったが、ヨウヤく状況を判断。徐々に取り囲まれていく中での避難経路をいち早く把握し、そちら側に佇む弱そうな男の脚目掛けてぱちんこを放った。


「囲まれるのは嫌いなんでね。一旦退かせてもらう。また来るぜ。」


 朔也の言葉が終わると同時に、光樹の放つ煙玉で周囲の目くらましをする。


 すぐ様ティムを肩に抱く光樹を守りながら、朔也達はその場を後にした。




「いたな、結構たくさん。」


 少し落ち込んでいるのか一言も話さない光樹に、朔也はティムの頭を撫でながら独り言である。


 シバラく怯えていたティムも、朔也に頭を撫でられている間に落ち着いてきた。


「うん…。」


 小さな声で返答する光樹だが、心ここにあらずと言った様子。


「…ったく、いつまで阿保面してんだよ。用がないなら、帰るぞ。」


 朔也は覇気のない光樹に喝を入れるべく、キツイ口調と鋭い視線を向ける。


 それに一瞬目を見開いた光樹は、照れ笑いを見せた。


「ごめん、ありがとう朔也。そうだよね、僕が落ち込んでいても始まらないね。」


 光樹の言葉に、今まで朔也の膝の上で目を細めていたティムが真っ直ぐ光樹を見る。


「コー、気付いてない。あの人間、監視されてる言った。」


 あの怯えていた状況でも、彼等に首輪がかかっている事を感じていた。


「どーすんだよ、光樹。」


 朔也に挑発する様に言われ、光樹は立ち上がる。


「助けに行こう!何が出来るか分からないけど、何もしなきゃ変わらない。彼等の現況を探ってみて、苦しんでいるなら解放してあげたい。朔也、ティム。危険だけど、手伝ってくれるかい?」


 光樹の赤い瞳には迷いがなく、力がみなぎっていた。


 それを見た二人は、共に力強く頷く。


「じゃあ、まず…。」


 作戦会議を開き、朔也がアジトの確認と彼等の現状把握担当だ。


 その後ティムと朔也が見張りの目を引いている間に、光樹が侵入する計画である。




 朔也は作戦通りに気配を消ながら見つけた一人の男を尾行した。


 男は山の中腹に向かい、道なき道を進む。


 そして行き着いた場所は、草木に囲われている石造りの建物だった。


 男は中に入ったまま出て来る気配がない為、朔也は建物に静かに近付き明かり取り窓から中を覗く。


「…っ!」


 思わず声が漏れそうになった。


 朔也が見たのは、拷問部屋としか言いようのない血まみれの小部屋。床には人間の物と思われる爪や歯が散乱している。


「…あいつ…。」


 再度確認すると、中に繋がれた人間が一人。ティムを連れていこうとしたあの時の男だった。


「…どうなってんだ?…あ、誰か来た。」


 再び息を潜めていると、鍵を開けて数人の男達が入って来る。


「少しは頭が冷めたか?」


 ガラガラとした聞き取りにくい声だ。彼より階級が上位にあるなのだろう偉そうな風体が目に着く。


「半魔物を連れ帰って来ないばかりか、忌み子がいたからだと?何故、それを連れ帰って来ない!それの方が金になるんだぞ!」


 無抵抗な男を足蹴にしながら、自分のウサ晴らしをしている様にしか見えなかった。


「…何か…ダメだ。俺、我慢出来ん!」


 作戦があったのだが、朔也は傍観していられない。


風刃フウジン!」


 高ぶる気持ちのままに、風の魔力を壁にぶつけた。


「なっ、何者だ!」


 砂煙が晴れていくと共に、朔也の特徴的な外見があらわになる。


「い、忌み子だと!…ふっははははっ、ちょうど良い。まさか、自らやって来てくれるとはなっ。良いぞ、これでアルバ様にお声掛け頂ける!」


 だみ声の男は一人で興奮しながら、朔也に周りにいた男達をけしかけた。


風翼フウヨク!」


 朔也の方は即座にその場を待避して、戦いにくい狭い室内から外に飛び出す。


 同時に光樹の作戦を思い出し、なるべく大勢を引き付けて建物から遠ざからねばならない事も自覚した。


 作戦ではティムが参加する事になっていたが、朔也が興味を引かせる事が出来るならばそれに越した事はない。


「捕まえれるのか?お前達、力なき猿共がっ。」


 朔也は挑発しながらゆっくり山の中に入って行った。


 追われる感覚は至極苦痛を伴う。忘れられない過去まで引き連れて来るのだ。


「…うっ…、気持ち悪…っ。」


 吐き気を堪えながらも、朔也は大勢の人間を山の奥へと誘い込む。


 光樹が中を探る時間を確保すべく、少しでも遠くへと思いながらであった。



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