その15.海獣
「海を見て、それからどうするの?」
歩きながら朔也に問い掛ける。
「…泳ぐ。」
特に深く考えていないようだ。
「そっか。でもせっかく海に行くなら、海獣を釣り上げなきゃね。」
楽しそうに話す光樹だが、朔也は魚を食べるのは好かない。
「別に…そんなもの食べたくない。俺は食べない獲物は狩らないんだ。」
光樹と反対を向くと、そのまま歩き続けた。
ただ単に魚が好きではないのは、小さい骨がたくさんあって食べにくいからである。
「なぁんだ、つまらないなっ。朔也なら、見たこともない大物を釣り上げてくれると思ったんだけどさ。無理なら仕方ないよなぁ。」
光樹の煽る言葉に、すぐに熱くなる朔也。
「そんなの簡単だっ!」
振り返りながら言う朔也は、興奮し過ぎて紅潮している。
他人の言葉にすぐに反応するのは、自己が確立されていない為。感情をコントロール出来ず、喜怒哀楽が激しいのは善し悪しだ。
「うん、じゃあ期待してるね!」
光樹の思惑通りに、言葉に乗せられる朔也。
言った後で軽く首を傾げる朔也だが、そこまで深くは気付かなかった。
「海だ~っ!」
目の前に広がる広大な青色。初めて嗅ぐ塩の香りと、動き続ける波に興奮する朔也である。
「あ、気を付けてね!浅瀬でも海獣がいるかもだから…。」
はしゃいで海に駆け寄ろうとする朔也に、荷物を置きながら告げた。
海にはたくさんの特有な魔物がいる。
大型の魔物も多く、小型魔物の水中の動きは矢のように早かった。それら海の魔物を総称して海獣と呼ぶ。
「ぅわっ!?」
少し遠くから朔也の声が聞こえた気がして振り向いた。
いない。
「あれっ、朔也??」
辺りを見回しながら海辺に近付いて行く。
かろうじて海面が波立つのが確認出来た。
「朔也っ!」
波打際に入って行く光樹の前に、突如飛び出して来る黒い影。
軟体系の赤黒い体色を持つ海獣ガッザラは、20本あまりの脚を使いながら海底を移動する。
捕獲した朔也を脚に絡めたまま、海に戻ろうとしていた。
「おいっ、朔也を返せっ!」
光樹は腰に付けたぱちんこを出すと、ガッザラに目掛けて麻痺玉を放つ。
海面真直にいたガッザラに当たると、弾けた麻痺玉から黄色い液体が周囲を染めた。
ガッザラの動きが鈍り、海面から顔を出した所を透かさず第二打の毒玉。
「風刃。」
極めつけは、朔也の風の魔力である。
風の刃がガッザラを切り刻み、ボチャボチャと破片が海面を叩いて落ちて行った。
「朔…也?」
フワリと軽く海面上に降り立つ朔也に、言葉を失う光樹。
沈む事なく波の上に立ったまま、静かに落ちて行く破片を見ている。
「朔也っ、大丈夫…えっ?」
光樹は我に返り、朔也に駆け寄った。
「ばーろーっ、痺れるじゃねぇか!」
だが、朔也の怒りをぶつけられて尻餅をついてしまう。
どうやら、光樹の放った麻痺玉の事を怒っているようだ。
あの場合、ガッザラのみならず朔也に対しても効果があったことは否めない。
「あ…ごめん。」
咄嗟に攻撃したとはいえ、周囲への効果まで考える余裕は全くなかった。
「ったく…、けど助かった。ほら。」
礼を言いながら、光樹に手を差し出す。
「あ、うん。」
朔也の手を取ると、光樹の身体も海面に浮き上がった。
そして二人を風が取り囲むと、濡れた身体がすっかり乾く。
「わぉ、乾いた!凄いね、便利~っ。」
感嘆する光樹に、照れて頭を掻く朔也だ。
褒められ慣れていない為、くすぐったい様なむず痒い様な感覚である。
「う…、うるさい。とにかく、今日はここまでだ。食べるのは…、あれで良いか」
朔也は辺りを見回すと、先程みじん切りしたガッザラを指差した。
確か、麻痺玉の後に毒玉を使ったはず。
「あ~、毒消しと煮込めば大丈夫かな。」
光樹も毒玉に気付き、解毒して食べる方法を提案した。




