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SAKUYA  作者: まひる
15/52

その15.海獣

「海を見て、それからどうするの?」


 歩きながら朔也サクヤに問い掛ける。


「…泳ぐ。」


 特に深く考えていないようだ。


「そっか。でもせっかく海に行くなら、海獣を釣り上げなきゃね。」


 楽しそうに話す光樹コウキだが、朔也は魚を食べるのは好かない。


「別に…そんなもの食べたくない。俺は食べない獲物は狩らないんだ。」


 光樹と反対を向くと、そのまま歩き続けた。


 ただ単に魚が好きではないのは、小さい骨がたくさんあって食べにくいからである。


「なぁんだ、つまらないなっ。朔也なら、見たこともない大物を釣り上げてくれると思ったんだけどさ。無理なら仕方ないよなぁ。」


 光樹の煽る言葉に、すぐに熱くなる朔也。


「そんなの簡単だっ!」


 振り返りながら言う朔也は、興奮し過ぎて紅潮コウチョウしている。


 他人の言葉にすぐに反応するのは、自己が確立されていない為。感情をコントロール出来ず、喜怒哀楽が激しいのは善し悪しだ。


「うん、じゃあ期待してるね!」


 光樹の思惑通りに、言葉に乗せられる朔也。


 言った後で軽く首を傾げる朔也だが、そこまで深くは気付かなかった。




「海だ~っ!」


 目の前に広がる広大な青色。初めて嗅ぐ塩の香りと、動き続ける波に興奮する朔也である。


「あ、気を付けてね!浅瀬でも海獣がいるかもだから…。」


 はしゃいで海に駆け寄ろうとする朔也に、荷物を置きながら告げた。


 海にはたくさんの特有な魔物がいる。


 大型の魔物も多く、小型魔物の水中の動きは矢のように早かった。それら海の魔物を総称して海獣と呼ぶ。


「ぅわっ!?」


 少し遠くから朔也の声が聞こえた気がして振り向いた。


 いない。


「あれっ、朔也??」


 辺りを見回しながら海辺に近付いて行く。


 かろうじて海面が波立つのが確認出来た。


「朔也っ!」


 波打際に入って行く光樹の前に、突如飛び出して来る黒い影。


 軟体系の赤黒い体色を持つ海獣ガッザラは、20本あまりの脚を使いながら海底を移動する。


 捕獲した朔也を脚に絡めたまま、海に戻ろうとしていた。


「おいっ、朔也を返せっ!」


 光樹は腰に付けたぱちんこを出すと、ガッザラに目掛けて麻痺玉を放つ。


 海面真直にいたガッザラに当たると、弾けた麻痺玉から黄色い液体が周囲を染めた。


 ガッザラの動きが鈍り、海面から顔を出した所を透かさず第二打の毒玉。


風刃フウジン。」


 極めつけは、朔也の風の魔力である。


 風の刃がガッザラを切り刻み、ボチャボチャと破片が海面を叩いて落ちて行った。


「朔…也?」


 フワリと軽く海面上に降り立つ朔也に、言葉を失う光樹。


 沈む事なく波の上に立ったまま、静かに落ちて行く破片を見ている。

「朔也っ、大丈夫…えっ?」


 光樹は我に返り、朔也に駆け寄った。


「ばーろーっ、痺れるじゃねぇか!」


 だが、朔也の怒りをぶつけられて尻餅をついてしまう。


 どうやら、光樹の放った麻痺玉の事を怒っているようだ。


 あの場合、ガッザラのみならず朔也に対しても効果があったことは否めない。


「あ…ごめん。」


 咄嗟に攻撃したとはいえ、周囲への効果まで考える余裕は全くなかった。


「ったく…、けど助かった。ほら。」


 礼を言いながら、光樹に手を差し出す。


「あ、うん。」


 朔也の手を取ると、光樹の身体も海面に浮き上がった。


 そして二人を風が取り囲むと、濡れた身体がすっかり乾く。


「わぉ、乾いた!凄いね、便利~っ。」


 感嘆する光樹に、照れて頭を掻く朔也だ。


 褒められ慣れていない為、くすぐったい様なむず痒い様な感覚である。


「う…、うるさい。とにかく、今日はここまでだ。食べるのは…、あれで良いか」


 朔也は辺りを見回すと、先程みじん切りしたガッザラを指差した。


 確か、麻痺玉の後に毒玉を使ったはず。


「あ~、毒消しと煮込めば大丈夫かな。」


 光樹も毒玉に気付き、解毒して食べる方法を提案した。



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