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1話 絶望

自分が一番欲しいものは?って聞かれたら、あなたはなんと答えるだろう?


金?愛?それともーー


「はあ……」


このしわだらけのスーツを着たOL、結崎いのり。先程残業を終えやっと帰路に着いたところである。


「ビール?惣菜?知るか、寝たい……。」


元々体力の乏しいいのり。高校時代のマラソンは、ゴールできれば御の字だった。だが社会に出れば関係ない。

みんなと同じ時間に起き、同じ時間に出社し、同じように働く。そんな事情を、世間は一切考慮してくれない。


「(そうじゃなくても今何でも高いし……。)」


スーパーの前。数年前なら今より100円は安かった好物の唐揚げを思い返す。

いのりはケッと吐き捨てながら、物価高の馬鹿馬鹿しさとレジに並ぶ鬱陶しさから素通りする。


「(宝くじ当たらないかな……。)」


そもそも土俵に乗らないギャンブルに思いを馳せる。

家、ブランド品、働く必要のない生活ーー

金があれば憧れのタワマンで都会の喧騒を他所に豪華なブランチを食す。

それがいのりの夢。

しかし現実は郊外のワンルームで毎晩帰ってきたらベッドに入る。


「(起きたら金持ちになりたい)」


今日も今日とて願いを抱えたまま眠りにつく。


「ーー様。いのり様。」


聞き慣れぬ声に意識を起こす。耳につく声だった。甲高くて頭に響くくせして絡みつくというか、人の気持ちを逆撫でするような。


「お目覚めですか。ようこそクレイジーランドへ。」


「は?」


ばっと起き上がった先には一面の闇。月は半分にかけており、赤紫色で不気味に光っている。見上げれば青空を背景に逆さに吊り下がった中世ヨーロッパの街が広がっている。


「何ここ?夢?」


「いいえ、夢ではございません。結崎いのり様。あなた様は今日からこのクレイジーランドの主。

然るに、この世界の先にあるクリアワールドを滅ぼして欲しく、我々がお呼び立てした次第で。」


シルクハットの男の後ろからは角を生やした牛やらフォークを持った馬やらがうじゃうじゃ出てきた。


「冗談やめてよ。寝る。」


「やれ。」


「はっ。」


一人の男がいのりに襲いかかった。


「うやあ!!」


刹那、いのりが出した腕から電撃が走り、男は黒焦げになった。


「……は?」


男はぴくりとも動かない。生死を確認する前に男は悪魔に連れていかれた。


「え、なに、いま、死んだの?」


「その通りです!いのり様。あなた様はこの世界の支配者、住人の生き死にはあなたの思いのまま。」


夢だ、いや、夢だと思いたかった。いのりは。故意ではないとはいえ人を殺した。目が覚めて欲しくて頬をつねる。痛い。


「夢じゃないーー?」


「エグザクトリィ!今この時から、ここがあなたの世界です。

そして――クリアワールドを滅ぼすのが、あなたの役目です」


吐いた。しかし空腹なので胃液しか出ない。駆け寄ってくるのは人外ばかり。

こんなところにいてたまるか。

逃げる。絶対に、逃げてやる。


いのりを待つのは、破滅か――それとも、別の地獄か。

次回に続く。


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