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46 専用武器

 十五時の天空競技場。

 体操服に着替えた俺はいつものようにグスタフさん考案の特訓メニューに取り組んでいた。

 内容は毎日異なる。今日はマラソンがある日だ。

 恒例の準備体操をして身体を慣らす。

 ディオスガルグの制服は伸縮性、通気性に優れ、魔法攻撃や肉弾攻撃にも強い特殊な素材で作られており、耐久性も申し分ない。

 そのためここで訓練中の多くの職員は制服のままだ。

 だけどやっぱり、運動するってなったら体操服だよな。

 スーツケースに入っているのを見つけて以降、特訓の時には着替えるようにしている。

 母さんが入れておいてくれたみたいで良かった。

 ⋯⋯ただ絵具セットなんて明らかに不要なやつも混じってたけどな。

 この体操服は高校で使ってるやつだから良いが、絵具セットに至っては小学校で使ってたやつだぞ。

 本当にうちの母親はたまに突拍子もないことするからびっくりさせられる。


「あと一周だ! 気を抜くな!」


 グスタフさんによる超スパルタ特訓を始めて約三か月。

 徐々に体力や筋力がついてきた実感がある。


「っはぁ、はぁっ、よし⋯⋯ゴール⋯⋯!」


 スタート地点へ戻って来た俺は最後の一歩で白線を踏みしめた。

 そのまま倒れ込むことなく、歩きながら呼吸を整える。

 初めに来た頃はいきなり三十周も走らされて走り切るのも精いっぱいだった。

 最後の方なんてほぼ歩いてたしな。

 それが今では四十周でも走り切れるようになった。

 やっぱ継続って大事なんだなと理解させられる。


「タイムも徐々にだが縮まっているな。筋力測定も問題ない」


 給水場に駆け寄り水を飲んでいた俺にグスタフさんがタオルを渡してくる。

 

「ありがとうございます」


 受け取り額や首元の汗をぬぐう。

 そういえば最初は鬼でしかないと思っていたグスタフさんとも大分話せるようになったよなー。

 口を開けば訓練訓練の筋肉バカな人だけど、悪い人じゃない。


「ふう⋯⋯」


 メニューも一通り終わり、水を飲んで一息つくとグラウンドに戻り、空を仰ぎ見て腕を伸ばす。

 空は金粉を全体に流したように金色だ。太陽もないのに明るく、雲などで影をつくることもなくグラウンド全体を明るく照らしている。

 とはいえ太陽ではないので紫外線予防もいらず、空をみて眩しさに目がくらむということもない。

 風はないがひんやりとした空気が汗を流した身体にちょうど良く気持ちがいい。

 ディオスガルグ監獄は天界に位置する。つまりこのグラウンドがあるのは天界の上空ということになるのだが、これが天界特有の空⋯⋯なのか、それともここだけがこんな風に金色なのか。

 人間界では絶対に見ることに叶わない幻想的な空。本当に不思議だよなー。

 澱みのない空気を吸って、ぼんやりとそんなことを感じていた時だった。

 どこかへ行っていたらしいグスタフさんが戻って来たのが遠くに見えた。

 その手には長い何かを持っている。


「メニューは終わったのか?」

「ちょうど終わったとこです。でもグスタフさん、どこ行ってたんですか? あと、その手に持ってるやつ⋯⋯」

 

 俺はグスタフさんの腕の中を指さす。

 間近に見るとそれなりにデカい。真っ黒なケースに入っているせいで中身が全く予想がつかないが、ただ長い何かということだけは分かる。

 

「さきほど開発課から届いたので受け取って来た」

「開発課?」


 なんでそんなとこから?と疑問に思っていると、グスタフさんがケースを開き中のものを取り出す。

 それは両手剣だった。

 まるで燃え盛る炎のように赤い鞘、銀色の鍔、両手分長い鍔と同じ銀色の柄。

 剣身は80センチほどだろうか。

 

「カッコいい⋯⋯」


 思わず口に出してしまう。


「機器管理部開発課には軍用の武器や防具などを中心に開発する専門の班がある。これはその専門班により開発された新たな剣。お前専用の武器だ」


 俺専用⋯⋯って。


「えっ、そんな滅茶苦茶凄いじゃないですか!本当に俺が使っていいんですか?」


 受け取った剣は見た目で想像していたよりも何十倍も軽い。まるでプラスチック製のオモチャの剣を持っているかのようだ。

 握り部分は手に馴染み滑りにくい素材で出来ているようだ。

 真っ赤な鞘を抜くと、真っすぐな両刃が煌めいた。

 凄い⋯⋯。本物の剣を触るのは初めてだ。

 でもやっぱり異様に軽いな、この剣。剣ってもっと重たいイメージだったんだが。

 

「特訓開始時よりかは幾分かマシになったとはいえ、お前のひ弱な身体ではまだまだ剣を扱うには時間がかかるからな。今のお前の筋肉量でも扱えるよう極限まで重さを軽減してもらった。

 握りの青いつまみを一番上に上げてみろ」


 言われた通りつまみを上に上げる。


「うお!? お、重っ⋯⋯!!」


 あまりの重さに腕が耐え切れず剣を落としてしまう。

 ゴンッと鈍い音を立てて落ちた剣は、その重みで地面を抉っている。


「その剣はスライド式で重さを自在に変えられるようになっている。いくら剣を軽くしたところでそれでは敵の硬い装甲や鎧を貫くことはできないからな。直前まで軽い状態で、刃先が敵の身体に触れた瞬間に重くするのが良いだろう」


 な、なるほど。そりゃ凄い機能だ。グスタフさんが一体どんな敵さんと戦うことを想定しているのかは分からないが、こんなのが上からでも降ってくれば流石の魔族でも骨折どころの騒ぎじゃ済まないだろうな。


「他にもその剣にはいくつか特別な機能があってな。今度は赤いボタンを押してみろ。ああ顔は近づけるなよ」


 その指示に首を傾げつつも今度は握り部分にある赤い小さなボタンを押してみる。

 すると剣の根本部分——リカッソから炎が噴出され、一瞬にして剣身は紅い灼熱の炎を纏った。


「あっつ! 熱っ⋯⋯!!」

「元に戻す時はもう一度ボタンを押せ」


 慌ててボタンを押す。炎は鎮火され剣は元通りになった。

 前髪が少し焦げた。


「だから顔を近づけるなと言ったんだ」

「それなら炎が出るってことを先に言っといて下さいよ!」


 下手すりゃ大火傷だったぞ。

 そんな俺の抗議の声には素知らぬ顔でグスタフさんはケースから冊子を取り出した。


「簡単な説明書だ。機能やメンテナンスについての注意事項なども載っている。熟読し、実戦でも扱えるようにその剣に慣れろ。基本的な剣の扱い方は特訓通りにすれば問題ない」


 メニューの中に木刀訓練があったのはこのためだったのか。

 他にも特訓当初は射撃訓練などもあったが、武器を使った特訓は最近では木刀のみに絞られていた。

 剣が一番俺に合っていると判断してこの時に備えメニューを立ててくれていたんだ。


「グスタフさん⋯⋯! ありがとうございます!」


 感激し、俺はグスタフさんに感謝の言葉を伝える。


「礼を言う暇があるなら鍛えろ。言っておくが、武器を手に入れたとはいえ体術や持久力の訓練は欠かさず行ってもらうからな」


 やっぱり筋肉バカだ。


 俺は新しい武器を手に入れた喜びを胸に強くなろうと決意する。

 そしてふと説明書の一ページを開けたみた。

 一行目にはデカデカと剣の名前らしきものが書かれてある。


 『重さ自在! 炎剣フレイムソード


「⋯⋯」


 ネーミングがオモチャ過ぎるだろ⋯⋯!

 俺は顔も知らぬ開発課の職員に心の中でそう叫んだ。

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