深月VS.祭雅
シュリの炎は大きな円を描き、私達の逃げ場をなくしてじわじわと追い詰めてくる。
ハヤトくんの水の珠は、手の平から舞い上がり、空中で私達に狙いを定める。
ヤトが空に向かい剣をかざすと、青白い炎が列をなして現れた。
まずい!
三人から一斉に攻撃をされたら、防ぎきれない。
私はとっさに目を閉じ、武器である扇に集中する。
時間稼ぎにしかならないけど、今はこれしかない。
私は胸の前で扇を強く握り、深く呼吸をしてゆっくりと目を開いた。
胸の奥から力がほとばしる。
金色の光が私達を包み込み、大きく輝いた。
光り輝く結界は今のところ、三人の式神の攻撃を防いでいる。
「ユキちゃん、クラミツハ。結界はわずかな時間しか保たない。だから今のうちに作戦を伝えるね。私が祭雅と戦う。だから二人とも、私のことは気にせずに、自分の身を護ることだけに集中して欲しいの」
私の言葉にユキちゃんは一瞬押し黙り、クラミツハは拳を握って震えだした。
「何言ってるの?!祭雅の所にたどり着くまで、あの式神達はどうするつもり?彼らは一人でも強大な力を持っているというのに、それが三人もいるんだよ。深月一人でどうにかなると思ってるの?!」
「それは···」
式神たちが強すぎることは、私が一番よく分かってる。
クラミツハとユキちゃんを犠牲になどしたくない。
二人を、そして式神たちを護るために、私が頑張らないと駄目なんだ。
彼らの向こうに祭雅が控えている。
みんなが助かる道は、式神たちの攻撃を掻い潜り、祭雅を倒して月雅を取り戻す以外に方法はない。
私はうつむいて拳を握る。
そんな私を見て、クラミツハが歩み寄り、私の手を握った。
「よく聞いて。深月と我は友達なんだよ。深月一人を危険な目に合わせることなんて、できるわけながい!我はどこまでも一緒に行くからね」
「クラミツハ···」
ユキちゃんが私の傍に寄り、肩に手を置いた。
「深月、お前はいつも無理をしすぎる。もっと私を頼るべきだ。私はお前を護ると決めているのだから。三人の式神は私が引き受ける。だからお前は思う存分戦え」
「ユキちゃん···」
二人とも、優しすぎるよ。
二人の言葉が私の胸に響き、溢れそうになる涙をやっとのことで堪えた。
「二人とも、本当にありがとう。その気持ち、とても嬉しい。こんなに頼りになる仲間が居てくれて、私はなんて幸せなんだろう」
私は二人をぎゅっと抱きしめた。
戦いを前に心が温かくなり、体が軽くなった気がした。
「ああ、そろそろ結界が限界みたい」
私は二人に目配せをして陣形を組んだ。
私の前方、左にクラミツハ、右にユキちゃん。
二人が式神に相対している間に、私が祭雅へと向かう。
結界にヒビが入り、パラパラと崩れてくる。
ヤトの狐火が私の結界に穴を開け、ハヤトくんの水撃とシュリの炎によって、結界は完全に消滅した。
「みんな、行くよ!」
私のかけ声を合図に、一斉に走り出した。
クラミツハは死神の鎌を振るい、飛来する水の珠と狐火、炎を消し去る。
ユキちゃんもまた、拳を振るいその風圧で式神たちの遠隔攻撃をかき消した。
私は扇に集中する。
以前より扱いに慣れてきたようで、扇は私の思う通りに、大きくなった。
もしかして、こんな事もできるのかな?
私は心のなかで『扇よ、もっと長く!』と、強く念じた。
扇は光り、その形状を変化させた。
あ、できた。
けれど、それは最早扇には見えない。
武器を振るとそれはしなり、まるで鞭のような動きになった。
これ、使えるかも!
試しにその鞭をブンと振ると、炎と水の珠、狐火を瞬時に消し去ることができた。
しかも、軌道の逸れたものまで引き寄せて消し去った気がするんだけど?
これは凄く便利だ。
これでまた、戦いの幅が広がった。
ユキちゃんとクラミツハが式神三人へと向かう。
そして、私は式神たちの攻撃を鞭で叩き消しながら祭雅へと向かう。
クラミツハとユキちゃんは、私の意思を汲み取って式神たちを傷つけないように戦ってくれている。
人数が少ないにも関わらず、その力は全く引けを取らない。
心から感謝をしつつ、私はその間を駆け抜ける。
彼らの援護のおかげで、なんとか祭雅の元へとたどり着いた。
「深月、思ったよりも来るのが早かったな。でもそれはお前の死期を早めたに過ぎない」
祭雅は月雅を胸の前に水平に構えて、ほくそ笑んだ。
「祭雅。私は何をするにしても、やってみなくちゃ分からないと思ってる。だから、今だってそうだ。どんなに不利な状況でも覆してみせる。祭雅が勝つなんて決まってないんだからね!」
私がそう叫ぶと、祭雅はふっと目を逸らした。
「へえ、面白い。だがな、強がりを言えるのも今のうちだけだ」
目の前にヒュッと閃光が走った。
「!!」
私の鼻先を月雅が掠め、とっさにバックステップで避けるものの、攻撃の速さに度肝を抜かれる。
やっぱり祭雅は強い。
心してかからなければ、一瞬で勝負がついてしまう。
私は祭雅に間合いを詰められないように、ジリジリと後退する。
月雅に対抗するには、やはり扇の方が良い。
そう思って武器の形状を扇に戻し、祭雅の隙を伺う。
祭雅が動いた瞬間に、私は彼女の懐に飛び込み、扇を右に払った。
ガツン、と音が響いた。
私の攻撃は月雅に阻まれ、間髪入れずに祭雅の攻撃が入る。
祭雅は月雅で扇を往なし、返す扇を振り上げた。
私は慌てて間合いを取って、荒く息を吐いた。
汗が額からポタポタと落ちる。
祭雅を見ると、涼しい顔で私を上から見下ろしている。
余裕な祭雅に比べて、私はギリギリの所で踏みとどまっている気がして、なんだかとても悔しい。
ぐっと扇を握りしめ、私は祭雅に攻撃を仕掛けた。
打ち合いは暫く続いたけれど、決着はなかなかつかない。
「深月、そろそろ遊びは終わりにしようか。お前の最期を、裏切り者の脳裏にしっかり焼き付けてやろう」
私の攻撃を躱しながら、祭雅は言った。
「何を言うの?!裏切り者って、ユキちゃんのことなの?」
祭雅は一体何を始める気なのだろうか?
とても、嫌な予感がする。
「深月に白虎!とくと見よ」
祭雅は大声で叫んだ。
そして、月雅を水平に持ち、目を閉じた。
その場の空気が瞬時に変わった。
戦い続けていた式神たちは、誰もがその空気の変化を察知して、武器を下ろし祭雅に注目している。
ぱらりぱらりと扇は開く。
美しいその姿を現した月雅を右斜め上に掲げ、ゆっくりと目を開き、祭雅は舞い始めた。
黒く光る月雅は、祭雅の体の一部が如く繊細な動きを見せる。
滑らかで美しい足さばき。
円を描く様に軽やかに舞う祭雅から、目を離すことができない。
なんて綺麗なの!
息をするのも忘れるくらいに、見事な舞いに惹き込まれてゆく。




