第七十七話 静かなる
お久しぶりです皆さん。
約一ヶ月半ぶりの投稿です。
「……不思議ね。つい数秒前は荒れ狂う海のように、怒りの感情と破壊の衝動にかられていたのに。今は、とても静かで、落ち着いている……」
精神世界から帰ってくると、目の前にはナナシィが落ち着いた様子で水面に浮かんでいた。
先ほど倒した仮面の男の影響がなくなったんだろう。
砂浜のほうを確認すると、ナナシィの影響力がなくなったせいか。魔物達が大人しくなっているようだ。そして、戦っていた冒険者達を見て海へと一目散に帰っていく。
どうやら、魔物達は一種の狂化状態だったようだ。
「ねえ」
「なんですか?」
「あなたが助けてくれたのよね」
彼女の問いに僕は静かに頷く。
「そして、私の記憶を覗いた」
「でもそのおかけであなたを知ることができて、助けることができた。大目に見てくれませんか?」
「別に怒ってるわけじゃないの。今回の件については、私が全面的に悪いんだから」
「そんなことは」
そんなことはない。彼女の言葉を否定しようとするが、首を横に振って先に否定される。
「私が悪いの。あんな奴の術中に簡単にかかった私の心の弱さが原因。私自身がしっかりしていればこんなことにはならなかったのよ」
「ナナシィ……」
「さあ、私を連れていって。どんな罰だって受け入れるわ」
最初に出会った時の服に着替え、ナナシィは触れたら消えそうな笑顔を僕に向けた。
「……わかりました。では、行きましょう」
ハミッテを襲った天災ナナシィと魔物達との戦闘は幕を閉じた。今回の戦いは、どうにもすっきりしないものだったと僕は感じている。
確かにナナシィは、ハミッテを襲った。けど、それは仮面の男に操られていたせいだ。そのことを踏まえて、皆で話し合おうと僕は決意し、ナナシィを皆のところへと連れていった。
・・・・・
「あれから、二日……なんだかいつも通りだね」
襲撃から二日が経った。ハミッテには、特に被害がなかったためか、あんなことがあったなんて嘘のように平凡だ。
あの後、僕はナナシィを連れてことに次第を皆に話した。
ナナシィは、何者かに操られていたこと。
本当は、彼女自身もこの襲撃に疑問を抱いていたこと。
わけを話し、なんとかハミッテにある会議室で話し合うことができた。
最初こそ僕がナナシィをフォローしていたけど、今はナナシィが一人でハミッテの人達と話し合っている。どうやら、自分の足で歩き、自分の目で改めて今の故郷を見てみたいそうだ。
「実質ハミッテは襲われていませんからね。もし、街が壊されていたらもっと違っていたかもしれませんね」
「だね。でも、やっぱり何もないのが一番だと思うな」
そう。何もないのが一番だ。
普通は、そう思うのだろうけど……何もないと、危機感が薄れていくような気がするんだ。
今回は、ハミッテに何も被害がなく終わった。だけど、それが続いて、それが当たり前のようになればどうなるのか……。
「主様。あそこに、ナナシィが」
僕達もそろそろ次の旅に行く頃だ。その前に、買い出しなどをしながら歩いていたところ海を一望できる見晴らしのいいところに、ナナシィが一人立っていた。
青い海を見詰めながら、何かを考え事をしているように見える。
僕は、どうしようかと迷い、足が止まる。
「あら?」
しかし、ナナシィの方が気付き、こちらに振り返る。
「どうですか? この街を見て」
ナナシィの隣に並び、僕は問い掛ける。
他の三人は、ベンチに座って休憩中だ。
「……いい街ね。街の人達は、私がここを滅ぼそうとしていたなんて知らないせいか、普通に観光客として親切にしてくれたわ」
そう言って苦笑する。
でも、嫌そうには見えない。
「もうあの頃の故郷は影も形もないけど……感じるの。何十年、何百年、経とうとも、ここが私の故郷なんだって」
「……これからどうするつもりですか?」
ウゴロさんから聞いた話では、ハミッテに被害はなく、本人も操られていたことを考慮して、罪にはならないとのこと。
「そうね……ウゴロはここが故郷なら遠慮なく住んでいいって言ってくれているけど」
視線を落とし、しばらく思考する。
そして、数秒の後再び顔を上げた。
「うん。とりあえずはお言葉に甘えることにするわ」
「ということは、ここに?」
「ええ。でも、もしかしたら旅に出るかもね。同族を探しに」
そうか。確か、ウゴロさんの話だと襲ってきたのはナナシィの弟だけ。もしかしたら、他の海王族はどこかで生きている可能性もあるってことか。
「そういうあなたはどうするの?」
「そろそろ旅立とうと思います。僕には……知りたいことがありますから」
最初は、じいちゃんが僕に託した筒の謎を解明しようと思ったけど、思っていたより複雑そうだ。とはいえ、諦める訳じゃない。俄然知りたくなった。
筒のことも、僕のことも、じいちゃんのことも。
そのためには、早く次の街。
じいちゃんの旅仲間の居るところに行かなくちゃならない。名残惜しいけど、ずっと留まるわけにはいかないから。
「そう。あなたも中々大変なのね。というか、まさか男の子だったなんて、真実を知った時は硬直しちゃったわ」
今の僕の姿を見て、驚いたような、それでいて面白そうな笑顔を見せるナナシィ。対して僕は、苦笑するしかできなかった。
「あはは……」
まあ、彼女とはライカの姿でしか会ってなかったからね……。
「色々と迷惑をかけちゃったけど、あなたのおかげで私は間違いを犯さずに済んだわ。……ありがとう、ラルク」
「いえ。僕は、当たり前のことをしただけですから」
差し出された手を僕は握る。
潮風に靡く長い髪の毛と、清々しいほどの笑顔は……つい見惚れてしまうほど輝いていた。




