第七十一話 次に備えて
「なるほどな……そんなことがあったのか」
大騒ぎにはならなかったが、今後もないということはない。そのため、僕はウゴロさんと十数名の冒険者、ハミッテの警備隊隊長などとテーブルを囲み、話し合いをしている。
ウゴロさんは、どうやらハミッテのギルド長をしているようだ。
そんなウゴロさんに負けじと強者のオーラを放っている初老の男。
全身を青い鎧で固め、傍らには矛先が三方向に分かれた特殊な槍がある。
長い茶髪は一本に纏めており、己の槍がエンブレムとなった額宛を装着している。
「ウゴロさん。その娘の言うことを簡単に信じているようだが、信頼できるのですか?」
と、僕を睨むのは、ハミッテの警備隊隊長カイデン。
どうやら若い頃はウゴロさんの元で修行をしていた人らしい。
そのおかげで、今ではハミッテを護る隊の長になっている。正直、睨まれているだけで物凄い圧を感じる。
「大丈夫だ。こいつは、俺の親友の孫だ。それに、そこにいる若い連中」
「は、はい!」
唐突にウゴロさんに話しかけられたのは、僕達が助けた冒険者三人だ。
「お前らは、その目で実力を見たんだよな? どうだった?」
「そちらの銀髪の少女は水中だったためわかりかねますが、その隣に居る亜人の少女ならば……驚異的な力でした」
「ああ。俺達も若干平和ボケしていたとはいえ、実力はハミッテでも上位だと思ってたんですが……」
「あの子の戦いを見たら、一瞬今までの努力は何だったんだって思っちまったよな?」
「あ、ああ」
三人の話を聞いて、一斉にレンへと視線が集中する。が、レンは軽く払っただけですが? と首を傾げる。
それがトドメになったのか。三人は、深いため息を漏らす。
かなりの精神ダメージを受けたようだ……僕もこの力がなかったら、あの三人と同じ反応をしていただろう。
それほど、レンの強さは、ライカの強さは異常なんだ。
「とはまあ、お前のところの若い連中が落ち込むほどもの強さってことだ。俺も遠目から見ていたからな」
そういえばウゴロさんの家は、海が一望できる位置に建てられていたんだった。老いたとはいえ、その目は健在ってことなのかな?
「……わかりました。信じましょう。我々としても、ハミッテを護りたたいのでね。こいつらが落ち込むほどの実力者ならば大歓迎です」
よかった。なんとか疑いの目はなくなったようだ。
「んじゃまあ、話を続けるぞ。ライカ。お前は喋る魔物と出くわすのは初めてじゃねぇんだよな?」
「はい。ハーバ周辺で出会いました。その時も、今回の《ハイフィッシュマン》同様に他者の力で特殊な進化を遂げていました。その時の首謀者は魔族だったんですが……」
言葉が詰まったことで、ウゴロさんが何かを理解したかのように呟く。
「今回のは魔族が絡んでいるとは思えない、か?」
「まだ確証はありません。ですが、首謀者候補は一人思い当たります」
その言葉に、周囲はざわめく。
当然だ。もし、その人物が首謀者だったらすぐにでも見つけ出し、捕らえるか、倒そうと思っているはずだ。
「で? その候補ってのはどんな奴だ」
「二度ほど僕と遭遇している緑髪の女性なんですが」
「あー、あのミステリアスな人だね」
「綺麗な人だと思いましたけど……」
「悪意のようなものは感じられませんでしたね」
そう。僕も二度目の時も悪意のようなものは感じられなかった。感じたのは……海のように深い悲しみとそれに隠れた怒り。
その時の状況と、会話を皆に伝えると難しい顔で考え込む。
「なるほど……その話通りだと、その女は水、海を愛しているが」
「この街は大嫌い。どういうわけかは知らないが、それが動機でハミッテを潰そうとしたってところでしょうか? ウゴロさん」
「俺もそう思うが、何か引っ掛かるんだよな……」
僕もウゴロさんと同意件だ。
その女性がこのハミッテを気に食わないという理由で魔物達を仕向けた。それはハミッテを破壊するため。
けど、何が気に食わないのだろう? その女性はどうしてハミッテを嫌っているのか。それがわからない。
「それは首謀者がどうしてハミッテを嫌っているか、ですか?」
頭を抱えているウゴロさんにカイデンさんが言うと静かに頷いた。
「もしかしたら、こっちに非があるとお考えなんですが?」
若い女性冒険者が問うと、周囲も考え込む。
相手は魔物を進化させ、操れる存在だ。しかし、僕が候補にあげた女性からは魔族から感じられる異質なオーラは感じられなかった。
あれはどう見ても人間の気配。
もしあれが擬態だったとすれば、うまいというレベルじゃない。完璧すぎるほどの擬態だ。
あれだけの擬態ができるとなると、見破るのは困難。
もしかすると、僕がハーバで戦ったあいつよりも強いんじゃないだろうか?
「もしかしたら、俺に恨みがある奴かもな」
ウゴロさんの一言に、今までとは比べ物にならないほどざわめく。
「そんな! ウゴロさんを恨むなんて!」
「ウゴロさんは、ハミッテがより良い街になるようにと、水の素晴らしさを伝えようと頑張っていたじゃないですか!」
「感謝されても、恨むなんて!」
一斉にウゴロさんのことを恨む人などいないと。どれだけウゴロさんが努力してきたか。ハミッテのために考えてきたか。
この街の住人ではない僕達にもすぐ理解できる圧だ。
「ありがとうよ、お前ら。けどな……そいつはそんなハミッテを嫌っているんだ。俺も完璧じゃねぇ。どこかで、恨みを買われているって可能性もあるってことだ」
「ウゴロさん……」
ウゴロさんは、ここにいる誰よりも長生きをしている。
昔は、仲間達と一緒に冒険をしていたということを踏まえると……その時に恨みを。
いや、でもあの怒りはウゴロさんというよりも……。
「ともかくだ。今後は、このハミッテに何かが起こることは理解しておけ。ライカ。お前が見たって言う女の似顔絵を描いてくれるか?」
「わかりました。こう見えて絵心はありますから任せてください」
了承したところでさっそく紙とペンを受け取り、まだ新しい記憶から女性の姿を思い出しながらすらすらと描いていく。
「頼むぜ。旅仲間のお嬢ちゃん達も、すまないがハミッテを護るため協力してくれないか?」
「もちろんです。この美しい街は壊させはしません!」
「私もいいよ、おじいちゃん。まだまだ堪能していないからね。絶対死守だよ!」
「私も微力ながらご協力します!」
こうして、ハミッテを護るため僕達は決意を固めた。




