第六十六話 興奮の鑑定士
「すみません。鑑定を頼みたいんですけど」
からんからんと鐘の音を鳴らし、店へと入っていく。
外から見ても薄暗かったけど……中に入るとより暗く感じる。店の中は、如何にも古そうな物ばかりが置かれており、どれも埃が全然被っていない。
店の入り口も開いていることから、留守と言うことはないだろう。
それにちゃんと店の奥から人の気配がしているしね。
呼び掛けても出てこないので、おそらく聞こえていないんだろう。八十を越えているらしいし。
それか、何かの鑑定に夢中で、かも。ここのことを聞いた時に教えてくれたんだ。これから会う鑑定士ジバさんは、珍しい物を一度鑑定すると周りの声が聞こえなくなると。
「居た」
店いっぱいに置かれている物でできた通り道を通過して辿り着いた先には、ランプの灯りの近くでメダルのようなものをじっくりと観察している一人の老人が居た。
身長は、今の僕と同じぐらいだろうか。
髪の毛は白く、顎髭も大分濃い。
袖が広い上着を身に纏い、傍らには湯気が上っているカップとポットがひとつずつ。
「ジバさん、ですよね?」
「……」
やっぱり聞こえてないみたいだ。
確かこういう時の対処法は。
「これを鑑定して欲しいんです。ミィヤ」
「はい」
そう言って、ジバさんの目の前にスコップを置く。
そして、ここから。
「実は他の鑑定士に鑑定して貰ったんですが、詳細がわからない物だったんです」
すると、ジバさんがぴくりと動いた。
「一見ただのスコップに見えますが、これはボーナスダンジョンで見つけたものなんです」
「……ボーナスダンジョンから、とな?」
やっと会話してくれた。本当は大声をあげるって手もあったんだけど、こっちの方が確実だ。
ジバさんは、詳細がわからないものに目がない。長年鑑定士をやってきたせいかわからないという言葉に敏感になっているらしい。
「嬢ちゃん。それは本当か?」
メダルを置き、僕を見詰め問いかけてくる。
なので、僕は静かに頷く。
ジバさんは、僕の言葉を信じてくれたのか、さっそくスコップを手に持った。
「……確かに、見た目はどこにでもありそうなスコップだ」
「ですが、耐久力がかなり高く、ドワーフである彼女が使ったところ岩の壁も砂を掘ったかのようにすんなりと掘れたんです。僕達も同じようにやりましたが、弾かれたんです」
「ほう……」
よしよし、この調子で。
「しかも、掘った壁と言うのがダンジョンの壁なんですよ」
「ダンジョンの壁を掘った? そんなことがありえるのか……」
ダンジョンの壁は簡単には破壊できない。
スコップやつるはしなどで掘ろうとしても逆に弾かれてしまう。隠し扉などの元々崩れる仕様になっているのならともかく、基本ダンジョンの壁は壊せないんだ。
「面白い。良いだろう。わしがこいつを鑑定してやろう。嬢ちゃん名前は?」
にやりと笑みを浮かべ、ジバさんは名を訪ねてくる。
「ライカです。そして、旅仲間の」
「レンです」
「ミィヤです」
「きらめです!」
軽い自己紹介を終えたところでジバさんはミィヤのことを見る。
「嬢ちゃんがドワーフってのは本当か?」
「は、はい!」
「じゃあ、こいつを使った時の感想を聞かせてくれ」
「えっと、なんと言うか……手にしっくりくる、ような不思議な感じがしました」
それを聞いたジバさんは、なるほどと頷きながら再びスコップをじっくりと見詰める。
おそらく今は鑑定しているんだろう。
鑑定スキルを使うと、対象にマナが流れ光るからすぐわかる。
「……こいつはすげぇ」
「わ、わかったんですか?」
「さすがは有名鑑定士ですね」
「それで、お爺ちゃん。そのスコップってどんなものなの?」
「お爺ちゃん言うな。……こいつは、今から一万と五千年前にドワーフ族が作った代物だ」
「い、一万五千年前!?」
大分前のものだな……けど、そんなものがどうしてボーナスダンジョンに?
「ああ。こいつは、ドワーフ族専用の道具だ。掘ることに特化したスコップで、ドワーフ以外が使っても効果は発揮されない。にしても、本当にすげぇのは、このわしの鑑定スキルでもわからねぇことがあるってことだ」
「何がわからないんですか?」
「製造方法だ。個体名はドワーフスコップってのはわかるんだが、どんな素材が使われてるか、どんな製造方法なのかが一切わからねぇんだ……こいつは、久し振りに興奮してきたぞ!!」
どうやら落ち込むことはなく、やる気に満ちている様子。
あっ、そうだ。
「あの、ついでにこれも鑑定してくれませんか?」
僕が取り出したのはじいちゃんから受け取った筒だ。とりあえず名前だけでもわかられば、それだけ前進できる。
テンションが上がっているジバさんは、どれどれ? とさっそく筒を受け取り、鑑定する。
「ぬお!?」
が、マナが逆流したのか何かに弾かれたかのように後ろに倒れてしまう。慌てて助け起こしにいくと、筒を持ったまま僕の手をさっきよりも興奮した様子で掴んでくる。
「なんだこれは!? わしが一切鑑定できんとは!!」
「え? 一切?」
「そうだ! 鑑定しようとしたら、弾かれてしまった! こんなことは今までなかった! 嬢ちゃん! こいつをどこで手にいれた? 一体嬢ちゃん達は何者なんだ!?」
ちょ、近い! 近い!? 興奮するのは良いけど、押し倒さないで欲しいんですが! 後、手が痛い!
「こらー! お爺ちゃん! ライカちゃんから離れなさーい!!」
「主様! 大丈夫ですか!?」
それを見ていたきらめさんがジバさんを引き剥がし、レンにより救助される。……ふう、助かった。
それにしても、鑑定するできないなんて。
本当に何なんだ? あの筒は。




