第六十三話 もうひとつの
ウゴロさんの家に入った僕達は、彼のおもてなしを受けていた。新鮮な海の幸を使った鍋だ。
今晩は宿を取らず、ウゴロさんの家に泊まることとなった。
「にしても、急にどうしたんだよ。俺のところに来るなんて」
ぐいっと、コップに入った酒を一気飲みし、ウゴロさんが僕が訪れた理由をさっそく聞いてくる。
僕は、箸を置きあの筒を取り出した。
「実は、じいちゃんが死ぬ間際にこれを僕に託したんです」
「……これは」
ウゴロさんは、筒を手に取り観察し始める。
「最初は、大事なものだからと言って、ずっと大事に持っていただけなんですが、ふとした日に手紙が中に入っていたことに気づいたんです」
「手紙? ラゴンからか。んで、なんて書かれてたんだよ」
ウゴロさんの質問に僕はぴたりと止まる。
そんな反応に、ウゴロさんは首を傾げる。
「……あの、ですね」
話しにくい。だって、手紙通りに言うのは恥ずかし過ぎる。なので、僕は口に出すのではなくその手紙をウゴロさんに渡した。
内容を確認すると、吹き出す。
「がっはっはっはっ! あいつらしい内容だな!!」
らしいといえばらしいけど、誰が見てもおかしな内容だと思う。
すでに筒がどんなものか知っている三人は苦笑いである。
「……そういや」
「なんですか?」
まさか何か知っているのか?
「……なんだったっけ?」
それは、こっちが聞きたいですよ。失礼かもしれないけど、やっぱり歳だからど忘れをしているのだろうか。
「わりぃな。なんか思い出しそうなんだが、やっぱ俺も歳だな!」
「そう思うなら、お酒はそこまでにしたほうがいいんじゃ」
食事を初めてから一時間。
ずっと酒を飲みっぱなしだ。最初から陽気な人だったけど、酒が入ってからは更にテンションが上がり、笑うことが多くなっている。
「馬鹿野郎! この程度の酒なんざ、水も当然だ!! それに、俺にとっちゃ酒は生きる活力だからな。こいつを止めたら俺に残るものなんざ何一つねぇんだ!!」
などと豪語しつつ、酒ビンを掴み、そのままがぶ飲みをする。
「わー、豪快な飲み方ですね」
「なんという酒豪……こんな人初めて見たよ。あっ、レンちゃん。おかわりいる?」
「はい! おかわりです!」
「食べろ! 食べろ!! んで、俺は飲みまくる!!」
……今日はちょっと無理そうだな。酒が入っていない時に聞くしかないか。
「……僕も食べるか」
そんなわけで、箸を手に取り、鍋へと伸ばす。
・・・・・
「んー! 今日も良い天気だ」
「海を眺めながら運動も良いものですね、主様」
「だね」
結局初日はウゴロさんから情報は聞き出せずに終わった。昨晩はかなりの量を飲んでいたから二日酔いで話を聞けないかもしれない。
となると、今日はハミッテの観光、かな?
「あっ、ラルクさん。レンちゃん。おはようございます。相変わらずお二人は早起きですね」
海を眺めながら体を解していると、ミィヤが若干眠そうに目を擦りながら兎の絵がついた水色のパジャマを着た状態で姿を現す。
「なんだか眠れなくてさ。ちょっと早めに起きて、レンと組み手をしていたんだよ」
僕は流れる汗を首にかけた真っ白なタオルで拭き取り、一息つく。
ライカの体に頼りきるのはだめだ。
ライカの力も僕の力ではあるけど、ある程度はラルクでも戦えるようにしておかないとね。
「きらめさんは?」
「まだ眠ってます……なんだか、遅くまでスマホを見ていたみたいで……わぷっ!」
眠気を冷ますために、自分で冷たい水を出し、顔にかけるミィヤ。だが、タオルを忘れたらしい。
だが、予備のタオルを持っていたレンがミィヤに差し出す。
「ありがとうございます。……ふう。どうやら動画を観ていたらしいです」
「なるほど」
時々、僕達も見せてもらうことがあったけど、本当に地球は凄いところだ。特に絵を数えきれないほど描いて動かす技術。アニメーションだったか。あれは、ミィヤもレンもはまっていた。
一体どれだけの絵を描けばあんな生きているかのように動くのか。
「今日はどうしますか? やっぱり街を見て回りますか?」
「そうだな……とりあえず、ウゴロさんの様子を見に行った後で決めるよ」
そんなこんなで、僕はウゴロさんの様子を見に行き、二人はその間に朝食の準備をすることになった。
ん? 起きてるのかな? 部屋の前まで来たところで、がさごそという音が聞こえてきた。
「ウゴロさん? 起きていますか?」
一応ノックをして呼び掛けてみる。
「おう! 丁度良いところに来たな! 良いものをやるから入ってこい!!」
なんだろう、良いものって。あっ、もしかして昨日ど忘れしていたことと関係するんだろうか。
「失礼します」
中に入ると、昨日あれだけ酒を飲んだ翌日だというのに、けろっとした顔で僕を待っていたウゴロさん。
その右手には……え?
「こいつだ。かなり昔にラゴンから受け取った代物なんだが……お前の筒と似てねぇか?」
ウゴロさんが持っていたのは、僕が持っているものと形が似ている筒だった。違うところと言えば、両側に隆起したものがあるぐらいか? いや、デザインもちょっと違う。
何て言うか、僕が持っているものより長く、竜が刻まれている。
「……これを受け取った時、じいちゃんはなんて言ったか覚えてますか?」
「それがよ、時が来たらわかるつって、それ以上何も言わなかったんだよ」
念のため手紙が入っていなかったかを聞いたが、そんなものは入っていなかったと断言する。
よく見ると、隆起した部分は空洞になっている。
もしこれが僕が持っているもの同じものなら……。
「すみません。ちょっと失礼します」
「ん? おう」
僕はウゴロさんの部屋から一度出て、いつものようにライカへと変身する。とりあえずこの姿をウゴロさんに見せる。
「あ? だ、誰だ嬢ちゃん?」
「こんな姿ですが、ラルクです」
「なっ!? まさか、手紙の通りにしたからか?」
理解が早くて助かる。僕は、知ってもらったところで、また部屋から出てラルクに戻る。そして、ウゴロさんのところにあった筒を使うことにした。
これで、変身できる……か? ごくりと喉を鳴らし、僕は。
「わっ!?」
「お、おい! どうした!?」
「ほわっ? なーに、この光……太陽さん?」
丁度きらめさんも起きてきたようだ。
……どうやら、変身できたようだ。もう何度も変身しているから感覚でわかるようになってしまった。
だけど、違うところもある。
それは。
「あれ? ライカちゃん? なに、その服」
そう、いつもはフードつきの上着を着て、若干暗殺者っぽい格好だったのが、あの筒を使ったことで服装が、髪型までも変わってしまった。
まず、服は東国に伝わる伝統的な服に酷似しており、脇を出し、袖が長い。全体的に黒いが、いつもの服よりも明るめだ。
髪型もツインテールではなく、ポニーテールになっており、僕の手には長剣が握られていた。
あれ? てっきりまた髪の毛を留めている部分に金の玉があると思ったのにない? いったいどこに……代わりに赤いリボンがあるけど。
「あ、主様! そのお姿は!?」
「わわっ!? なんだか見たことのないライカさんに!?」
とりあえず落ち着いて整理しないと、かな。




