第六十二話 水人様
「おー! ここが水の街ハミッテ! 本当に船で移動してるよ!」
「ハーバにも水路はありますけど、ここまで水路が多いのは始めてみました」
ついにやって来たハミッテ。
入るとすぐ水の街と言われる由縁が目の当たりに。ミィヤの言うようにハーバにも水路があり、船で移動することができるが、ハミッテに比べれば小さなことだ。
見渡すと、船乗り場がある建物がちらほらと。
「もしかして、船じゃないと行けないところもあるのかな?」
「海も近いですし、漁業も盛んなんですよね。あっ! 見てください! 新鮮そうな魚を乗せた船がありますよ!」
レンが指差す方向へ目をやると、確かに魚を乗せた船が見えた。
どうやら、仕入れたものを箱詰めにして運んでいるようだ。
ちょっと遠いが、中々新鮮そうだ。
「君達、ハミッテは初めてなんだね」
ハミッテの風景に感動していると、小太りなおじさんが笑顔で話しかけてくる。
どうやらここの住民のようだ。
「はい。ついさっき到着したばかりなんです。凄いですね、ここは」
「そうだろう。内陸育ちの人達から見たらここは驚きの連続だと思うよ。例えば……ほら、あそこを見てごらん」
おじさんが示したのは、船乗り場のある一軒家。
一体何を見ろと言うのか?
「ここは、水路が多いうえに海と繋がっているからね。大雨が降ると水量が上がって大変なんだ」
「なるほど。水の街ならではの悩みですね。……話題に出すということは、何か対策をしているということですか?」
ミィヤがそう言うとおじさんが、にこやかに頷く。
「よく見てごらん。今船が横切るから」
先ほどの魚を乗せた船が僕達が見ている船乗り場のある家を横切ろうとする。
「……水が弾かれた?」
小さな波が生まれるが、まるで見えない壁があるかのように水が弾かれたのだ。
「そう。あれはここに住む水人様のお力でね。あれ以上水量が上がることはないんだ」
「水人様?」
「かつて海を支配していた《クラーケン》を一人で倒した伝説の男だよ。もし、興味があるならそこの案内図に場所が描かれているから」
入り口付近から少し進むと、ハミッテの地図が描かれた掲示板があった。
「私はこれで失礼させてもらうけど、楽しんでいってね」
「はい。しばらくはここに滞在しようと思っているので」
おじさんが去った後、僕達はさっそく案内図を確認する。
ハミッテは、思っていたより水路が多く、船で移動しているのを見ないのがないぐらい通っている。
「それで、ラルクさんが会いたい人はどの辺に居るんですか?」
「西側の隅っこに家があるって手紙には書いてあった。名前はウゴロさんって言うんだけど……あっ」
さすがに個人の名前は案内図には書いていないだろう思っていたが、そんなことはなかった。
なんと、先ほど親切なおじさんが言っていた水人様の家がある場所。そこに僕が会いたいウゴロさんの名前が書かれていた。
「水人ウゴロの家……ラルクくん知ってた?」
「いえ、手紙には気ままに釣りをしたり、日光浴をしたりして、気ままに過ごしていると聞いていたので」
確かに手紙の書かれていた冒険譚から、凄い人とは感じていたけど、まさかここまでの人とは。
まあでも、すぐ行けそうで助かる。
「じゃあ、さっそく行ってみようか」
「ですね!」
・・・・・
「ここだね」
船に乗って移動したら迷わず到着することができた。
有名なところらしいし、ハミッテの人達は皆知っているとのこと。
「思っていたより、普通ですね」
有名な家なので、豪邸を想像していたが、どこにでもありそうな……いや周りの家と比べると、なんだか時代遅れな構造をしている。
周囲の家がレンガなどで造られているのに、ウゴロさんの家は木造。しかも、海がよく見える位置に建てられているようだ。
丁度ハンモックがある庭のような場所から海から戻ってくる船や、遊んでいる人々の姿が見える。
ハーバは、全体を壁で囲んでいたけど、ハミッテは海がある西側にだけ壁がない。そのため自然が一望できる。
「いやいや、如何にも大物が住んでいそうな家だよ。しかも、一番危険な場所に家を建てるぐらいだから、相当な実力と度胸がない限り無理だね」
うんうんと、どこか得意気な表情で言うきらめさん。
「お? なんだ、客か? 悪いなこれから酒を飲もうと……お前、まさかラゴンの孫か?」
そろそろウゴロさんを呼ぼうと思っていたところ、先にウゴロさんの方から出て来てくれた。
しかも、こうして顔を合わせるのは初めてなのに、一発で僕がラゴンの孫だということを見抜いていしまった。
「は、はい! 初めまして。ラルクって言います。こうして会うのは初めてですね、ウゴロさん」
「おう! まさかそっちから来るとはな。だが、歓迎するぜ! そっちの嬢ちゃん達もな!!」
手紙通り豪快で、気持ちの良い性格をしている。
よく日光に焼けた肌。
七十代だと言うのに、隆々とした筋肉。
袖のない服に、半ズボン。薄い氷のような髪の毛をオールバックにし、捻った布を頭につけている。
背中には、荒れに荒れた海の絵が描かれており、自分は海の男だ! とでも言っているようだ。
「初めまして! 私は、ミィヤと言います! こう見えてドワーフなんです」
「おう、よろしくな。……なるほど」
軽い挨拶をすると、ウゴロさんはミィヤのことを一目観察し、何かを理解したように頷いた。
たぶん、ドワーフ族のあの話をウゴロさんも知っているんだろう。
「私はラルク様の忠実なる下僕レンと言います!」
「ほほう? ラルク。おめぇ、こんな可愛い娘を下僕にするとは、ラゴンが知ったら悲しむぞ?」
「いや、ぼ、僕は下僕としては扱ってませんよ? ちゃんと仲の良い仲間として接していますから」
ほら! と教えるために僕はレンの頭を撫でる。
すると、レンは甘えた声で主様と呼びすり寄ってくる。
「どう見ても、飼い慣らされた犬にしか見えねぇぞ? ……んで、そっちのおっぱいの大きい嬢ちゃんは?」
「いきなりセクハラ!? こほん……私はきらめっていいます。皆のお姉ちゃんです!!」
相変わらずのお姉ちゃんアピール。
ミィヤをぐいっと引っ張りつつ、僕に接触してくる。
「なるほどな……仲の良いのは良いことだ。ラゴンが死んでから、俺も他の連中も心配していたが、大丈夫のようだなラルク」
にかっと笑うウゴロさんに、僕ははいと嬉しそうに笑顔を返す。




