第六十一話 水の街ハミッテ
「よかったよ、三人、いや二人? が元に戻って」
双子の道化師アタンとメサリとの不思議な体験をしてから二日半。
動物にされていた後遺症、というのか? まあ、ともかく完全に元に戻っておらず困っていたが、二日目の朝には戻っていたのだ。
僕はホッと胸を撫で下ろしたのだが、ミィヤときらめさんはどこか残念そうな顔をしていた。
きらめさんに、スマホに保存したから、別にいいのでは? と言ったのだが、できればもうちょっと獣耳っこで居たかった……! などと拳を握り締めながら言う始末。
何はともあれ、これで心配事はなくなった。
旅も順調で、もうそろそろ目的地に到着するはずだ。
「あっ、なんだか不思議なお花さんを発見!」
その道中、きらめさんが道端に咲いている花をスマホで撮る。僕まも、なんて花だろう? と思い、ミィヤから植物図鑑を出して貰い、ぺらぺらとページを捲る。
「あった。それは【フラブレア】という花で、花びらを擂り潰すと絵の具の替わりになることから、絵の具花と言われてるみたいです」
若干燃え盛る炎のような形をしている花。
視界に映るだけでも、十は優に越えているだろう。
「へぇ、絵の具花かぁ。じゃあさ、他の色もあるの?」
「はい。他にも青、黄など、確認されているだけで七色以上はありますね」
きらめさんに、見せるように図鑑を下げたところで、僕は植物図鑑ときらめさんが撮った写真を交互に見た。
「どうしたんですか? ラルクさん」
「いや、こうして見比べると、改めて写真って言うのは凄いものなんだなぁって思って」
図鑑の他にも様々の書物には、わかりやすいように絵が描かれている。本物に忠実に描いてあるみたいだけど……やはり写真というものを知っていると、どうも歪なものに見えてしまう。
「こう思うと、描いてくれた人に失礼なんだって理解しているんだけど……」
「まあ、気持ちはわかるよ。それに、こっちには印刷機とかないから、一冊ずつ全部手書きなんだよね?」
僕は、印刷機というのを知らなかったので、きらめさんに聞くと、どうやら一つのものを一寸のブレなく完璧に複製してしまうものらしい。
「こっちの世界にも、複製スキルはありますが、それはユニークスキルですからね」
「しかも、そのスキルを持っていた人物は現在はいない。何十年も前に亡くなって、それからは同じスキルを持った人は確認されてない」
複製スキルがあれば、商業もより発展するんだろうけど……。
「私も出来れば、発展のために力を貸したいけど、貸したら貸したで色々と面倒なことになりそうだから、悩みどころなんだよね……」
きらめさんが、言うには印刷機自体を出すのは簡単らしい。いつもやように、スマホを使って出すようだ。今更だが、どうやって色々とものを出しているのかを聞いてみると、きらめさんの世界には家に居ても買い物ができるらしく、欲しいものを選び、金を支払うことで、翌日か数日後に届く。
だが、それは地球での話。
まったく違う世界に居るきらめさんには、そのようなことはできない。普通ならできないのだが、きらめさんのスマホを使えば似たようなことができるらしい。
まず、地球に居た時のように欲しいもの選び金を支払う。この時、支払うための金はこっちの世界の金をあっちの世界の金に変換し、支払うことになるとか。
実際に金がスマホに吸い込まれるところを見たので、事実のようだ。こうすることで、買ったものはきらめさんの手元にすぐ届くみたいだ。
「ちなみに、これは地球の神様が協力してくれているみたいなんだ」
「なるほど。さすがにこっちの神様では異世界のものを完全にどうにかするのは難しいということですね」
「うむ。その神様だけど、クルちゃんのお友達みたいだよ」
……いつも思うけど、僕の想像しているクルティシア様がどんどん普通のお姉さんになっていくんだけど。
「で、話を戻すけど、さっき説明した機能を使って印刷機を買い、各地に広めていくとします。すると、どうなるでしょう? はい! レンちゃん!」
ずびし! と、レンを指名する。
「そうですね……まあ、確実にその製作方法を知るためにきらめお姉様は各国から狙われることになるでしょうね」
「当たり! そうなると、そこからどんどん私は、この世界にはないものを提案、開発のループに遭います。で、そんなことをしていると、当然?」
「……きらめさんを奪い合って戦争になる、かもですね」
そうだけど、それだけじゃないよと言って、僕に抱きついてくる。
「皆と気ままな旅ができなくなっちゃうんだよー! お姉ちゃんそんなの嫌だよー!!」
「ちょ、ちょっときらめさん……! 気持ちはわかりましたから、離れて、欲しいんですが」
凄く胸が当たって……くっ! 発育の良い体で、いつも無邪気だから、この人は危険だ。
僕が男だってことを理解してくれているんだろうか?
「きらめお姉様! 主様から離れてください!」
「いやー! ラルクくんから離れたくないー!!」
「な、なんて力!? ミィヤ様! どうか手伝って頂けないでしょうか!?」
「え? あっ、はい!!」
さっきまでのシリアスはどこへやら。
そんな愉快なことをしつつ、更に二時間ほど移動したところで……ついに。
「あっ、もしかしてあそこが?」
「うん。僕も初めてだけど……到着だ」
「ここからでも、潮の香りがしますね……」
水の街ハミッテに到着だ。




