第五十話 もう悪さは
「ということが、あったんです」
「なるほど。ベルトンさん。この男に見覚えは?」
「いえ、ありません。私達を襲ったのは、もっと大柄で金色の髪の毛をしていました」
レンときらめさんと合流した僕は、二人が捕まえたという【ゴーストハンター】の男のことをベルトンさんに聞くが、どうやら別人だったようだ。
となると、またこの霊界に【ゴーストハンター】が来る可能性があるけど……。
あまり肉体を持った者が霊界に長居すると、霊側に体が変質するって聞いたことがあるし、ここでいつまでも待ち構えているわけにはいかない。
「ライカさん。心配は要りません。私達を襲った【ゴーストハンター】はどうやら霊界に来れない口ぶりでした。それに、私ももう油断はしません。こう見えて術系統のスキルが得意ですから。それなりに強いつもりです」
そう言ってもらえると助かるけど、相手の行動や数がわからないんじゃ完全には安心できない。
……と言うわけで。
「わかりました。では、僕達は、この男を連れて人界に戻ります。この男から色々と情報を聞き出さないといけません」
捕らえた【ゴーストハンター】から仲間の情報を聞き出すしかない。それをギルドなどに教えれば、何かしらの対策をとってくれるはずだ。まあ、それよりも。
「主様。戻るのは良いですが、どうしますか?」
僕に耳打ちをしながら、レンはベルトンさんとアマリアを見る。
僕達が、受けたのは異変の解明と解決。
とりあえずは、その全てが終わったことにはなる。
「ベルトンさん、それにアマリア。一度、僕達との一緒に人界に来てほしい。あまり気は進まないだろうけど……」
「いいえ。行きます。確かに襲われはしましたが、それだけで人界に二度と行かないとは言いません。それに、私も娘も償いをちゃんとしたいと思っていますから」
ベルトンさんが、アマリアの背を軽く押すと僕達のことを見て力強く頷いた。
そういうことなら、問題はない。
とはいえ、今の時間帯は店主さんも、ギルドの職員達も寝ているはずだ。なので、日を改めて来てくれるようにと約束をし、僕達だけが人界へと戻っていく。
ちなみに、出ていくのはとても簡単だった。ベルトンさん達が案内してくれた霊界門を通ると、喫茶店の倉庫に辿り着いていた。
どうやら、霊界門がどこに繋がっているのかは、霊界の住民達は大体把握しているようだ。
後は、明日まで捕らえた【ゴーストハンター】を逃がさないようにして、見張っているだけ。
見張りは、僕がすることになった。
ミィヤ達も一緒にすると言ってきたけど、疲れているだろうからゆっくり休むように伝え、寝静まったのを確認。
運良く男は、朝まで目覚めることはなかった。
まあ、起きたとしてもまた眠らせるつもりだったけど。そして、丁度いい時間帯になったので、まず男をギルドへと連行した。
この町は、そこまで大きくないため、ギルドが町の警備も担当している。そのため、入り口などを護っているのは、冒険者達だ。
連行した後は、あの喫茶店へと向かう。
すでに、ベルトンさん達は霊界から訪れていたらしく、さっそく店主さんに頭を下げていた。
僕達も、その件について詳しく話すために、会話へと参加。
事情を知った店主さんは、こんな提案をしてきた。
それは……。
「妥当な提案、なのでしょうか?」
「うーん。二人の状況を考えると、悩みどころだけど、二人もそれ望んでいるようだし、ギルドも動いてくれるみたいだし……いいのかな?」
二人は、喫茶店で働くことになった。食べ物を盗み、店に迷惑をかけた分、働いて償う。
二人も、それを了承した。問題は、二人が半霊人だとばれないか。そして、二人を狙っている【ゴーストハンター】がここを嗅ぎ付けないか……ベルトンさんが言うには、狙ってきた【ゴーストハンター】と出会ったのは、隣の大陸だったらしいから、大丈夫だとは思うけど。
「皆さん。今回は大変お世話になりました。特に、ミィヤさんには私の体を治療して頂き」
「い、良いんですよ。私は、助けたくてそうしただけですから」
「お、お姉ちゃん!」
ベルトンさんがお礼を言っていると、長い髪の毛を後頭部で束ね、可愛らしい制服を着たアマリアが割り込んでくる。
どうやら、ミィヤに用があるようだ。きらめさんが、反射的にスマホを取り出したので、とりあえず止める。
「どうしたんですか?」
ミィヤも何かを感じ取ったようで、席から立ち上がり、アマリアと視線を合わせる。
「えっと……あ、ありがとうね。パパを助けてくれて。それと……ごめんなさい!!」
ちゃんとお礼と謝罪ができたのを見届けたミィヤは、笑顔で頭を撫でる。
「うん。どういたしまして。それと、もう悪いことはしちゃだめでよ? お父さんや周りの人に迷惑が掛かっちゃいますからね?」
「わかった! もう、パパや周りの人に迷惑が掛かるような悪いことはしない!」
「約束ですよ?」
「うん! 約束!!」
こうして、喫茶店の異変は解決した。だけど、心残りがある。僕達が旅立った後、二人は無事で居られるのか?
今もギルドの方で【ゴーストハンター】の尋問は続いている。
良い情報を得られれば、それだけ二人の安全が保証される。
「……さて」
念のため一日延長したが、二人はちゃんと働けている。それどころか、喫茶店に大きく貢献しているようだ。
ベルトンさんは、かなり料理の腕がよく、店主がコーヒーなどを淹れている時に用意することができ、味も大絶賛。
アマリアも、小さいながらテキパキと働いており、その姿が可愛らしいと幅広い層から人気を博している。
ベルトンさんもベルトンさんで、大人の魅力を感じると主に女性こらの人気があるそうだ。
「二人は大丈夫みたいですね」
「だね。後は、ギルドがどう動くか……」
「私達がなんとかできれば良いんですけど」
僕もそう思っている。でも、僕達にも旅をする目的がある。いつまでも、ここに滞在していては前に進めない。
だから、ここは心残りがあるけど、本来の目的通り旅立つ。
「よし! 皆! 出発前に記念撮影をしよう!」
「記念撮影ですか?」
きらめさんは、スマホを取り出して、僕達を集める。
どうやら、スマホで写真を撮るようだ。入るのかな? あんな小さなものに。
「ほら! ぎゅーと!」
「きらめさん。さすがに、詰めすぎじゃ」
「これぐらいが、丁度いいんだよ! はい、笑って笑って!」
かなりぎゅうぎゅう詰めだが、我慢しよう。ちなみに、今の僕はライカのままである。
「はい! 撮るよー! チーズ!!」
え? なんでチーズ? と、思ったがすでに写真を撮った後だった。おそらく、写真を撮る時に言う決まり言葉のようなものなんだろうけど。
「よしよし、よく撮れて……」
なんだろう? 写真を確認していたきらめさんが固まって……あぁ、なるほどそういうことだったか。
気になった僕達が先ほど撮った写真を覗くと、ここにはいないはずの人物が写っていたのだ。にっこりと、悪戯っこのような笑顔で、アマリアが。
「まあ、これぐらいの悪さなら可愛いものですよね」
ミィヤもくすっと笑顔になる。
僕も、釣られて笑顔になり、そうだねと呟く。




