第四十話 主様のピンチ?
台風が本気を出してきたみたいですね。
こっちも本気を出して執筆しなければ……!
「はっ!?」
「どうしたんですか? レンちゃん」
主であるラルクの指示で、ミィヤの護衛をしていたレンは、何かを感じ取る。
その変化にミィヤが首をかしげると、周囲をキョロキョロと見渡し始めた。
「今、主様が窮地に立たされているような気配を感じたのですが……」
だが、確証はない。もしかしたら、気のせいだったかもしれない。
ゆえに、レンは動けないでいた。
「そ、それは大変です! 早く助けにいかないと!」
本気で心配してくれているミィヤ。自分のことのように嬉しく思うレンだが。
「しかし、私達も今まさに窮地に立たされています。主様のところへ行くには、この状況を打破しなければなりません!」
そう。今、二人は簡単には動けない状態にある。この状況をどうにかしない限り、ラルクのところには行けないだろう。
そうでした、とミィヤも真剣な表情で考える。そして、決意の眼でレンを見詰め、口を開く。
「レンちゃん。ここは、私に任せてください」
「な、何を言うんですか!? ミィヤ様を置いていくなど」
そんなことはできない。ラルクの指示だからという理由だけだはない。もう、レンはミィヤのことを大事な存在だと思っているのだ。
「大丈夫ですよ、レンちゃん。私だって、二人の役に立ちたいんです」
ぽんっと、レンの肩に手を置き笑みを浮かべるミィヤ。
「……ミィヤ様」
「だから、行って。ラルクさんのところに!」
「わかり、ました! このレン! 必ずや主様を助け、ミィヤ様のところへ戻ってきます! ですから……ご無事で!」
絶対ラルクを助け、戻ってくる。そう硬い決意を告げ、レンはミィヤと別れる。
「うん。私も必ず……必ず!」
小さくなっていくレンの背中を見詰めたまま、天高く手を挙げ、ミィヤは宣言した。
「百個限定のケーキを手に入れて見せるからー!!!」
「お願いします!!!」
そんなやり取り見て、二人と同じく店の前に並んでいた人々は、微笑ましそうに笑みを浮かべていた。
かなりオーバーなやり取りをしたレンは、ラルクの気配を必死に探り、町中を駆け抜ける。
そして、ついにラルクの姿を見つけたレンは。
「なっ!?」
つい、身を潜めてしまった。
どうして? その理由はラルクが対峙している人物にあった。
「なぜ、きらめお姉ちゃんが?」
この町に来る途中で偶然にも出会った不思議な少女都野きらめ。
不思議な少女ではあったが、嫌な感じはしなかった。純粋に、自分達のことを、護ろうという善意しか感じられなかったし、他の二人も普通に接していたため、悪人ではないと。
別れる時も、本当に名残惜しそうにしていた。いつかは再会するとは、思っていたが、まさかラルクに接触するとは。
「ここで出ていけば、知り合いだということがばれてしまい、主様の正体も……しかし、こうしている間にもミィヤは一人で、限定ケーキを手に入れるために頑張っている……くっ! 私はどうしたら!」
・・・・・
「えっと、どういう意味でしょうか?」
まずは冷静に、対処しよう。
「私、びびっと来ちゃったの! 君には、頼れる存在が必要なんだって!」
確かに、今の僕はライカの時よりも弱く、誰かに襲われたらどうなるか。レベルは現在五十一まで上がっているけど、なぜか相変わらずステータスは低く、スキルも全然増えない。
せっかくサディア戦で一気にレベルが上がったのに……どうしてなのか。
「それで、あなたが頼れる存在になる、ということですか?」
「そう! さあ、お姉ちゃんが君のことを護ってあげるよ!」
嬉しいことだけど、なんだかずれてるような気がするんだよな……護ってくれるなら、別に姉にならなくてもいいような。
しょうがない。ここは、丁重にお断りしよう。ライカの時は、小さな女の子だったから、強引にでも姉行為したんだろうけど。僕は、そこまで小さくないし、きらめ……さんもすぐ諦めてくれるはず。
「すみません。せっかくのお誘いですが、こと」
「あっ! 見て! あそこに美味しそうな食べ物があるよ! クレープっぽいやつ!」
「ちょっ!?」
断ろうとしたが、強引に手を引かれる。
「ほらほら! たくさん種類があるよ。どれにする? お姉ちゃんが買ってあげる!」
「あのですね。だから、僕は」
「そうだ! お姉ちゃんと同じものを買って一緒に食べようよ! 食べさせあいっこしよ! ね?」
……だめだ、この子。まったく人の話を聞こうとしない。このまま撤退しようにも、凄い力で腕をロックされてるし。
というか、胸が。
これは、絶対男を駄目にする胸だ。
「決めた! 私は、シンプルクリームで! 君は?」
「……僕もそれで」
そう答えると、満面の笑みで店員さんからシンプルクリームを何故かひとつだけ購入する。あっ、さっき言ってたことは冗談じゃなかったんですね。
「仲が良いね。もしかして、恋人同士なのかな?」
店員さんがそういうが、さっきのやり取り聞いていましたよね? あのやり取りからどうして恋人同士という発想になるんですか? すみませんが、助けてください。この子、凄く思い込みが激しいみたいで……なんて、言っても店員さんには関係ないよね、ははは。
「いえ! 姉弟です!!」
「違います」
はっきりと言った。言ったんだけど。
「ははは! そうかそうか。こりゃあ、失敬! はいよ、シンプルクリームだよ!」
おかしい。もしかして、僕の言葉聞こえてない? それとも、僕だけがおかしいのかな? いやいや、僕は正常なはずだ。
何も間違ってはいない。絶対に……!
「はい、弟くん。一口どうぞ!」
そういえば名前を教えてなかった。だとしても、君から弟くんになるって。距離を縮めすぎでは?
というか、こういうのは姉弟じゃなくて恋人同士でやるようなことだと思うわけで。
「どうしたの? ほら、あーん」
うん。もうはっきりと言ってやらないと。僕は、君の弟ではなく、護られる存在でもない。だから、もう止めようって。
決して、悪い気分じゃないんだ。僕は一人っ子だったから、姉が居るとこういう感じなのかなって。本当に短い間だったけど、楽しかったんだ。これは、本心だ。
「あの、真面目な話があります」
「どうしたの?」
きらめさんも、僕の雰囲気に何かを感じたようだ。今度こそ、話を聞いてくれるだろう。
ここを逃したら、次はいつになるか。ここで、伝えるんだ!
「僕はあなたの弟では」
「主しゃまあああっ!!!」
「ふぐおっ!?」
やっとまともに会話ができると、喜んでいたのもつかの間。別行動をしているはずのレンの声がしたと思いきや、背中に強い衝撃が襲う。吹き飛ばされはしなかったが、まずい展開になった。
「主様! レンが助けに参りました!!!」
僕の背中にしがみついたままつい勢いでやったんだろうな、というのがわかる顔で、叫ぶレンを見て僕は固まった。
「あれ? レンちゃん?」
「はっ!?」
きらめさんの声に、やっと自分のやったことに気づく。固まったままの僕と視線が合い、ぷるぷると震える。
「それに、さっき主様って……」
まずい。本当にまずい。つかみどころのない性格をしているきらめでも、さすがに気づいただろう。
けど、実はってことも。
「もしかして、ライカちゃんって、弟くんが変身した姿?」
……なかったようです。




