第三十六話 故郷から旅立つ
「よし。これで荷物は纏まったね」
「はい! これまでお世話になった部屋に感謝を込めたお掃除を終了です!」
僕達は今、旅立ちの準備をしている。前から旅に出たいとは思っていた。そう、ライカになる前から。
とはいえ、自信がなかった。
僕程度の力では旅立っても無駄死にするだけ。十分に実力と経験を積んでからじゃないとだめだと。
それがまさかこんな人生を歩むことになるなんて。
信じてた女達には騙され、絶望した挙げ句幼女になって。しかも、それがとんでもない強さで……自然と仲間が、知り合いが増えていって……昔だったらここまで辿り着くまでどれだけ長いか。
いまだに何もわからない力だけど、これだけは言える。
僕の人生を変えてくれた凄い力だって。
あっ、そうそう。これは余談なんだけど……ミィヤに、ラルクだってばらした後に、どうやってライカに変身するのかって聞かれて、最初は戸惑ったけど、結局話したよ。
いくらなんでもこれだけは、話したくなかったんだけど。ミィヤの真っ直ぐな目に負けて、ぽろりとね。
で、それを聞いたミィヤは案の定顔を真っ赤にしてしまった。僕は、あっ終わった……と思ったよ。
信頼してくれているとはいえ、変身方法があんなんで、使っている武器があれで、自分をずっと護ってくれていたの金色の玉達があれだったなんて。
僕がミィヤでも、そういう反応になってしまう。けど、しばらく見詰めあった後、ミィヤの口からとんでもない言葉が飛んできた。
『ら、ラルクさんのなら大丈夫ですから!!!』
あれはいったいどういう意味だったんだろうと今でも考えさせられる。レンが対抗するように私も大丈夫です! 主様! とどや顔で言ってきたのだが、ミィヤがすぐ自分の発言で更に恥ずかしくなったのか、気を失ってしまった。
これはチャンスと僕はライカへと変身して、気絶したミィヤを背負い、寝室へと移動した。
そして、レンにミィヤのことを任せて、僕はパーティー会場へと戻った。それから、まだミィヤとは会話をしていない。旅立つことは、気絶する前に話してはあったんだけど……。
「今まで、お世話になりました」
「お世話になりました!」
特に大きな荷物はなかったので、ほとんど袖の収納空間に入れて終わり。掃除も終わった部屋を見渡し、僕達は感謝の言葉を告げて、頭を下げる。
「行こうか?」
「はい!」
さまざまな思い出がある部屋だが、今日でしばらくの別れ。名残惜しさを振り払い、部屋から出る。
「あっ」
「あっ」
タイミングよくミィヤと遭遇してしまった。しまったぁ……! ライカの姿だっていうのに、油断してた!
まるで、時間が停止したみたいに見詰めあったまま僕達はしばらく動かずにいた。レンは、あわあわと僕達を見て、頭を抱えている。
ま、まずい。昨日の今日だから、咄嗟に言葉が出てこない。
「お、おはよう」
やっと絞り出せた言葉がこれだ。こんなんじゃ、この先思いやられるぞ……。
「は、はい。おはよう、ございます。あの……えっと」
昨日のことを思い出したのか。頬を赤く染めながら、何かを言いたそうな仕草になるミィヤ。
な、なんだ? 何を言うんだ? 自然と僕も身構えてしまっている。
「ふ、不束ものですが! これからよろしくお願いします!!!」
それじゃ嫁入りするみたいなんですが!?
しかし、ミィヤは頭を下げたまま僕の言葉を待っている。し、仕方ない。間違いを正すよりも先にちゃんと言わなくちゃね。
「うん。これからよろしくね、ミィヤ。楽しい旅にしよう」
「はい!!」
なんとかいつもの……とまではいかないけど、雰囲気が戻った。これには、レンも嬉しそうに拍手をする。
・・・・・
「それにしても、アルサールさんから良いものを貰ってたね、ミィヤ」
「私には勿体ない代物ですけど……これから、身軽に動けなくちゃいけませんから! とても嬉しいプレゼントでした!!」
宿を後にした僕達は、旅立ちのために東側の出入り口に向かっている。その最中、ミィヤが背負っているカバンの話題が出る。
明らかに旅立ちには少な過ぎるというか、小さなカバンに見えるが、これで良いのだ。ミィヤが背負っているカバンは【収納カバン】と言って、こんな見た目に反して、今までの大きなカバン以上に物が入る代物なんだ。
冒険者なら、いや旅人なら、絶対ひとつは欲しいとまで言われているもので、このカバンひとつに鍋やらフライパンやら、テントまでさまざまなものが詰まっている。
これは、そう簡単に手に入る代物ではないのだが、今回の功績を称えて、領主のアルサールさんからプレゼントされたのだ。
「それにしても、皆になにも言わず旅立っていいんですか?」
ミィヤの言う通り、旅立つことは誰にも言っていない。ただ宿屋のダッドおじさんは、知っている。
今までありがとうなんて言って部屋の鍵を返したら、普通に気づくだろうし。
こうして歩いている僕達に、声をかける人達も、何かの依頼で外へ行くものだと思っている。
なんていうか、しんみりしたのは苦手なんだよね……。
「よし。到着だ。ここから出たら、僕達の新たな旅立ちが始まるよ。準備はいい?」
そうこうしている間に、東側の出入り口へと到着する。朝早いため、人の姿はどこにもない。
居るとすれば、出入り口を護っている兵士達ぐらいだろうか。
「はい。私はいつでも」
「どきどきしますけど、お二人と一緒なら!」
「じゃあ、しゅっぱ」
「待ったぁ!!」
三人同時に動こうとした刹那。
それを止めるようにどでかい声が響き渡る。
「やはり、なにも言わずに出ていくつもりだったようだな」
姿を現したのは、アルサールさんだった。なんで、ここに?
「何となくここから出ていくような気がしてな……」
「凄い勘の良さですね……」
「これで、俺は色々と切り抜けてきたからな。まあ、ともかくだ。せめて、別れの挨拶ぐらい言ってから出ていけよ。俺は領主だぞ?」
まあ確かにそれはそうですが。
「すみません。しんみりしたのはちょっと苦手で」
「まったく……戻っては来るのか?」
真剣な表情で問いかけてくる。対して、僕も真剣な表情で言葉を返した。
「はい。いずれは」
「ならよし。あっ、そうそう。あの三人についてなんだがな」
三人という言葉で連想するのは、カトレア、ユーラ、マリアンのことだ。
「お前の計らいもあって、この街での冒険者活動の禁止が下されたが……こんなのでいいのか?」
「はい。確かに彼女達のしたことは、ひどいことですが……実際に人は死んでいませんから」
「ら、ライカさん。それは」
そう。こういうということは……。
「そりゃあ……どういう意味だ?」
「こういう、意味です」
アルサールさんの問いかけに、僕はラルクの姿に戻った。
「ラルク……やっぱりそうだったか」
「気づいていたんですね」
「何となくな。だが、確証はなかった。お前が生きているのもだが、まさか幼女になってるなんて、思うか? しかもとんでもない強さのな」
ですよね、と僕は苦笑いする。
アルサールさんも、肩を竦めながら言葉を続けた。
「だが、生きててくれて本当によかったぜ」
「ご心配をおかけしました」
「良いってことよ。まあ、被害にあった本人と街の救世主である二人の計らいと、あいつらのこれまでの実績を考慮してってことにするか」
もし、しばらくの冒険者活動禁止やランクを下げる罰を下しても、彼女達はもうここでは活動できないだろう。
だから、ハーバでの活動の禁止という罰にすることで、他の街へ旅立つ選択肢を選ぶ可能性が出てくる。元々ここから出ていこうと考えていたみたいだしね。
「……とまあ、報告は終わりだ」
「ご苦労様です」
「いいってことよ。元気でやれよ? そして、絶対ここに帰ってこい。ここが、お前の故郷なんだからな」
ぽんっと肩を叩き、アルサールさんは塞いでいた道を開けてくれる。
「……はい!」
いずれはちゃんと戻ってくる。色々とあったけど、ここが僕の故郷なんだ。いつになるかはわからないけど……絶対戻ってくる。
さあ……まだ見ぬ未知を目指して!
「あっ、ところでひとつ聞きたいんだが、ライカへはどうやって変身するんだ?」
……気持ちよく、旅立たせてくださいよアルサールさん。
僕は、耳を貸してくださいと伝え、変身方法を伝える。
すると。
「はははは!! そりゃあ、大きな声じゃ言えねぇわな! それに……今後はあんなに可愛い女の子二人と旅するんだ。変身する時は、気を付けろよ?」
「わ、わかってますよ!」
さすがに、誰かが見ているところじゃ変身はしない。恥ずかしいから……うん! 恥ずかしいから!
これにて、ハーバ編完結!
次回からは、新展開、新キャラがありありですので、しばらくお待ちを!




