第三十五話 それでも
ハーバへと進攻していた魔物の大群を見事死者を一人も出さずに撃退した冒険者や傭兵達に、領主アルサールの計らいで、屋敷のホールを使った一晩のパーティーを開くことになった。
もちろん料理や飲み物に関しては、アルサールが全て用意するとのことで戦った甲斐があったぜ! とばかりに最初から馬鹿騒ぎである。
「がっはっはっはっ!! リーグ!! 飲んでるか? あ?」
「ご、ゴバックさん。酔っぱらい過ぎですよ」
「いいだ! 良いんだ! 今日は、最高に気分が良いんだからよ!!」
完全に泥酔しているゴバックを見て絡まれているリーグは首を傾げる。確かに、今回はかなりの功績となり、報酬もたくさん手に入ったうえに、このパーティーだ。
気分がよくなるのは、わかるが……と、考えているリーグの肩をアメルが叩き、耳打ちをする。
「ゴバックさん。あの後、他の冒険者達から、ノリノリでラメサさんに告白しろって押されたのよ」
「あー……」
そういえば、壮大にばらされたいたなとリーグは思い出す。そして、そこからゴバックが上機嫌な答えを導き出した。
「もう、ゴバック。あまり飲み過ぎると明日に響くわよ?」
すると、タイミングよくラメサが泥酔しているゴバックへと近づいていく。
「大丈夫だって! それよりもラメサも飲め! 今日は無礼講だぁ!!」
「まったくもう……」
二人の雰囲気は、いつも通りに見えるが、何かが違う気もする。
そして、周りを見ると明らかに男達がゴバックを羨ましそうに睨んでいた。
「お前ら! どうしたんだよ! せっかくの祝いの場なんだぜ!!」
「ゴバックさん。完全に敵を増やすようなことを……」
「あっ、案の定たくさんの人から襲われて」
「ぐわあっ!?」
そんな楽しい時間の中で、ラメサはゴバックを助けようとせず苦笑しながら、リーグ達のところへ戻ってくる。
「助けなくていいんですか?」
「あれぐらい大丈夫よ。彼、頑丈だから」
「まあ……はい」
そういう問題なのか? と思ったアメルだったが、言葉を飲み込む。そして、他の話題へと切り替えた。
「ところで、今日の主役パーティーはどこに居るのですか?」
「あの子達なら、一足先に会場から出ていったわよ?」
ぶどう酒をこくっと飲みながら、ラメサは答える。
「あははは。あんなに強くてもやっぱり子供ってことですかね?」
リーグが笑うと、アメルもつられて笑ってしまう。
「そうかもね。それに、今日は大活躍だったし。後、こんなお酒の臭いが漂うところに長いなんてできないんでしょ」
「本当に凄かったですもんね……特に最後に放ったあの一撃」
「うん。それに、俺達を護ってくれた防御スキルも」
「まさか、あれがただ防いでいただけじゃなかったとは……ユニークスキル持ちは、恐ろしいわね」
ユニークスキルは、誰もが持っているものではない。個人に発生するスキルで、同じもの存在しない。
ゆえに、唯一にして無二。圧倒的な力がある。それがユニークスキルだ。
「今頃は、戦いの疲れでぐっすりですかね?」
その姿を想像してくすっと笑みが溢れるアメル。
「どうかしらね。意外と、私達のいないところで、何かをやっていたり」
「え?」
「やっていなかったり」
どっちなんですか……と、二人は眉を潜めた。
「ぐあああっ!? やめ、止めろ! お前らぁ!?」
「俺達の嫉妬の力を思いしれぇ!!!」
・・・・・
今頃皆は、パーティーを楽しんでいるだろう。僕も、出来れば参加したい。でも、これから僕は、僕にとって重要な悩みを解決する。
それは。
「主様。本当によろしいのですね?」
隣でレンが黒いドレス姿で、僕に問いかけてくる。もちろん今の僕は……ラルクの姿だ。
そして、見つめるドアの外にはミィヤが待っている。
そう。僕はこれからミィヤに僕の正体を、隠し事を明かす。そのため、心臓が爆発しそうなほど高鳴っている。
サディアと戦った時でさえ、こんなに苦しくなかったのに……やっぱり怖いんだ。
ずっと、僕はミィヤのことを、たくさんの人達を騙してきた。
ラルクは本当は生きていて、個人的な理由で正体を隠していたなんて……慕っていた人が実は、女にまんまと利用された挙げ句ダンジョンに置いていかれた哀れな少年ラルクなんて知ったら。
「……うん。もう決めたんだ。ミィヤには、隠し事はしたくない。仲間だから」
落ち着け、落ち着くんだ……静まれ、僕の心臓! 例え、汚いものを見るような目を向けられたとしても! 罵倒されたとしても! 僕は、ミィヤに知ってもらうんだ。
ライカは、ラルクが変身した姿だって。
「わかりました。……ミィヤ様。どうぞ、入ってきてください」
「は、はい」
レンに呼ばれ、緊張した声で返事をし、中へと入ってくる。
髪の毛と同じ水色のドレスに身を包んだちょっと大人なミィヤは、部屋が薄暗いため僕のことをはっきりとは見えていないはず。
けど、明らかにそこに居るのはライカではないことも理解しているだろう。
「ミィヤ」
「……はい」
明らかに、声音が違う。それにより、僕は言葉が一瞬続かなくなってしまう。
いけ……言うんだ。もう決めたんじゃないのか……!
「もう気づいていると思うけど……僕は、ライカだ」
「……」
何も返事がこない。今まで、こんなにもミィヤ相手にびくびくしたことなんてあっただろうか? これが無言の威圧というやつなのか? が、頑張れ僕!
「ライカは、僕がとある方法で変身していた姿だ。そして、変身前の姿。元の姿は」
踏む出せ。暗闇から姿を露にするんだ。
隠れるな……いけっ!
「ダンジョンで死んだと噂されていた……ラルク・ホーマースだったんだ」
言った。ついに言った。ずっと隠してきたことを。まだレンしか知らないことを、ついにミィヤに言った。
でも、なんだかすっきりしない。
当然か……まだ言っただけ。この後のミィヤの反応次第で、僕は。
「……」
「言いたいことはたくさんあると思う。今まで信じていたライカがこんな弱い人間だったなんて、ショックだよね……」
「主様は悪くないんです、ミィヤ様! 主様はただ」
「レン。良いんだ」
「ですが!」
僕は、どんな結果になろうともそれを受け入れる。これが、僕の選択した道なんだ。
「ーーーた」
「ミィヤ?」
何かを呟いた。けど、よく聞こえなかった。それに、何だかずっと顔を伏せているような。
「よかったです……! 生きててくれて……! 本当に!」
泣いていた。スカートをぎゅっと握り締めて、大粒の涙を流していた。そして、まるで僕が生きていたことを喜んでくれているかのようなことを言っている。
ど、どういうことなんだ? てっきり、罵倒されたりとか、そういうのを想像していたのに。
「あの、どうして」
「ら、ラルクさんが知らないのは当たり前です」
と、涙を必死に拭いながら答えるミィヤ。あぁ……なんだかミィヤにラルクさんなんて呼ばれるのは新鮮だ。
「だって、私が一方的に知って、慕っていただけですから」
「ぼ、僕を?」
「なんと!?」
これには、レンも驚いて声を上げる。ミィヤが、僕を知っていたのにも驚きだけど、慕ってくれていた?
「私、最初はちゃんとやっていけるのか不安だったんです。だって、戦えないうえに足だって遅いからすぐ足手まといになって、クビになっちゃうんじゃないかって」
涙を拭うのを止め、笑顔で話始める。月光に照らされた姿に、ついドキッとしてしまうが、話に集中した。
「でも、そんな時、私と同じように荷物持ちをしていた一人の冒険者さんを見つけたんです。ラルクさん、あなたですよ。丁度今から二ヶ月半ぐらい前になります」
二ヶ月半前……正直その頃にミィヤらしき子が居たなんて全然気づかなかった。ともかく必死で依頼とか荷物持ちとかやっていたからなぁ……。
「最初は、慕うというよりも応援したくなる感じでした。重い荷物を待って、少し遅れるだけで足蹴りにされていましたから」
「あ、あぁうん。そ、そんな時もあったかなぁ……」
は、恥ずかしい! そんな情けない姿を見られていたなんて!
「でも、ちょくちょくラルクさんの仕事姿を見ていくに連れて、なんだか自分も頑張らなくちゃって、思い始めていたんです。それから、荷物持ちから、料理の手伝い、掃除や子供のお世話と何でもやるようになりました」
そうか。なんだか親近感が沸いたのは、そういうことだったのか……。
「おお! さすが主様! 言葉ではなく自ら頑張る姿を見せることでミィヤ様の人生を変えてしまうとは!!」
僕にそんなつもりはなかったんだけど。まあ、結果的にミィヤの救いになったのならよかったことにしよう。
「挫けそうになった時も、ラルクさんの頑張る姿を見ていると勇気が湧いたんです。だから、ここでも頑張れた。……そして、運命の出会いもしました」
「……ライカ、だね」
「はい。本当に不思議でした。ライカさんの側に居るだけで、安心するというか、勇気が湧いてきたんです。最初は、どうしてなのかわかりませんでした。あの後、ラルクさんが死んだと知った時も落ち込みはしましたが、そこまで悲しくなかったんです。慕っていた人だったのに……」
そうか。アルサールさんから、僕が死んだって知らされた時もなんだか様子が変だとは思っていたけど、そういうことだったのか。
「でも、やっと理解しました。悲しくならないはずがありません。安心するはずです」
ゆっくりと僕に近づき、笑顔でミィヤは告げる。
「だって、ずっとラルクさんは側に居たんですから」
「……ごめん」
「なんで謝るんですか?」
「いや、だってさ僕はミィヤのことを」
騙していた。結果的にミィヤを救っていたんだろうけど。それでも、僕は。
「謝らないでください。私は、今とても嬉しいんですから」
「ミィヤ……」
ぎゅっと、僕に抱きつき、言葉を続ける。
「ありがとうございます。ずっと側で勇気づけてくれて……護ってくれて……生きててくれてっ」
「……うん。ごめん」
「もう。だから、謝らないでくださいよ」
抱きついたまま困った顔で笑う。
謝罪の言葉しか出てこないんだ。でも……なんだか救われた。体が自然と軽くなった感覚がある。
「あっ、そういえば聞きたいことがあるんですが」
「なに?」
今の僕ならなんでも答えれそうだ。
「ライカさんにはどうやって変身するんですか?」
……ごめん。やっぱりなんでもは答えられないや。
次回ハーバ編完結!
そして、新たな物語が!




