第三十四話 白き一閃
「やるではないか。この俺に傷を負わせるとは」
「よく言うよ。全然本気を出していないくせに」
砂煙が舞う中、僕は短剣を構えながら、自分の腕の傷を見るサディアを睨む。
今回の騒動の主犯であるサディアと戦ったが、まるで僕の力を確かめるように本気で戦わなかった。だから、本気を出さないうちに決着をつけようと切りかかったけど……右腕を傷つけただけ。
さすがは魔族。
その中でも、彼はかなりの実力者なのだろう。あの一瞬で、攻撃を防ぐなんて……。
「まあな。だが、もう様子見は終わりだ」
僕が傷つけた傷を一瞬で治し、左目を手で覆い……解放。
青き炎が燃え上がった。
なんだ? 何かのスキルなのか?
「俺は、真実のサディアと言われてる。その理由は、この青き炎の目で、対象が秘めているものを見ることができるからだ」
ということは、別段身体能力が上がったわけじゃないってこと?
「例えば……そこの禿げた男」
偶然にも近くにゴバックさんが居た。はっ? 俺? と目を丸くしている。そんなゴバックさんを見たサディアは、にやりと笑みを浮かべ、こんなことを言い出す。
「貴様。同じパーティーメンバーの弓使いの女に好意を抱いているようだな」
「はあっ!? ななな何言ってんだ!?」
明らかに図星だという反応に、周りの冒険者達はほう……と、声を漏らす。そういえば、誘拐事件の時も、ゴバックさんはいち早くラメサさんのことを助けたって聞いたな。
更に、洞窟の時はラメサさんを身を挺して護ろうという感じだった。
「隠すことはない。これは真実なのだからな! ……ほう」
ゴバックさんの次は……え?
サディアが標的にした人達を見て僕は目を見開く。そこには、僕達が居た時はいなかったはずのカトレア、ユーラ、マリアンの三人の姿があった。
「そこの三人は実に面白い!」
「あれ? あそこに居るのってカトレア達だよな?」
「ああ。やっばりハーバの危機に居ても立ってもいられなかったんだろうな」
三人の様子から見て、サディアの能力が本物だということを知り逃げ出そうとしていたのだろう。
だが、それをタイミングよく魔物達に邪魔をされた。
「や、止めなさい!!」
知られてはならないと、ユーラが〈フレアランス〉を放つが、簡単に素手で弾かれてしまう。
そして、サディアは彼女達がずっと隠してきた真実を……喋った。
「そこに居る三人は、純粋な少年を荷物持ちとして酷使した挙げ句! 飽きたという身勝手な理由で、ダンジョンの奥深くに置き去りにしたようだぞ!! これは驚きだ!!」
大声で、より多くの者達に聞こえるように、サディアは叫ぶ。
静寂に包まれた戦場で、否定するようにマリアンが前に出る。
「嘘です!! 皆さん! 信じないでください! 相手は魔族です!! これは、私達を動揺させ、戦意を喪失させる作戦なんです!!」
「くっくっくっ。確かに俺は魔族だが、さっきも言っただろ? 俺は真実のサディア! 俺は真実しか言わん!!」
「うるさい! 黙れ!!」
怒りを剣に込めて、カトレアが切りかかる。が、さっと軽く手を振っただけで簡単に吹き飛ばされてしまう。
「ならば、こういうのはどうだ? その可哀想な少年……ラルク、と言うのだろ?」
「な、なんで」
サディアは、知らないはずだ。それなのに、三人にダンジョンへ置いていかれた少年の名を知っている。これには、三人も聞いていた者達も唖然。
「だから言っただろ? 俺は相手の秘めているものを見れると。可哀想に……外見だけはいいグズ女どもに誘われて、大喜びしていたのだな。自分がただの暇潰しに選ばれただけだというのを知らずに」
「ち、ちが」
「皆! 信じないで!!」
サディアが喋る度、三人が必死に叫ぶ度に、僕は不思議と頭が冷静になっていく。
怒り? 憎しみ? そんな感情は一切湧かず、ただただ感覚が冴えていく。
「それだけではない!! どうやらその三人は……《ゴブリン》どもに初めてを捧げたみたいだぞ! 男ども!!」
「は? え? 初めてって……」
「そういえば、あの事件以来、三人の様子がおかしくなったような……」
「あ、ああ。特にユーラちゃんなんてずっと家に引きこもって居たよな?」
今まで積み重ねてきたものが崩れていく。隠してきたものが、暴かれていく。もう……だめだ。
三人は、がっくりとその場に座り込み、頭を抱え。
「いやああああ!!!」
叫ぶ。それを見たサディアは、高揚したように顔を歪める。
「いい! いいぞ!! その絶望の叫びが聞きたかったんだ!! あぁ……滾る! 滾るぞ!!!」
刹那。
左目の青き炎が大きくなる。
「では、そこのクズどもを殺された少年のために殺してやろう。貴様らも、それでいいであろう?」
と、青き炎を巨大な球体として生み出しながら、話を聞いていた者達に問いかける。
「ではな」
答えを聞く前に、絶望して動けなくなっている三人へと青き炎が放たれる。
誰も反応できなかった。衝撃が大き過ぎたんだ。だから、信じていいのか? 嘘だと否定していいのか? と頭の整理が出来ないでいる。
けど、僕は。
「させない」
「む?」
僕だけは、動けた。三人の前に移動し、青き炎を縦に切り裂く。二つに分かれた青き炎は、魔物達を襲った。
「ライカよ。そんなクズどもを助けると言うのか? 聞いていただろ? そこの三人は、魔族である俺も驚くほどのことをやっていたのだぞ? もしかすれば、まだまだとんでもないことを隠している可能性が大いにある」
「……」
ちらっと、背後の三人を見る。なぜ助けてくれたの? とでも言っているような表情で僕を見ていた。
しかし、なにも言わずサディアへ視線を戻す。
「確かに、この三人はひどいことをしたのかもね」
「かも、ではなく。したのだ」
ああ、知ってる。当然だ。そのひどい目に遭ったのが、僕なんだから。じゃあ、なんで助けた?
……体が勝手に動いていたんだ。
「じゃあ、したと仮定しよう。……本来なら、罰を受けるべき行為だ。でも、それは今じゃない」
「ほう?」
「彼女達には、正しい判断のうえで、罰を受けてもらう。それまでは……死なせるわけにはいかない」
この三人は、一人の人間を殺そうとした。けど、結果的には死んでいない。馬鹿だと、それでいいのかと言われるかもしれない。
言われるかもしれないけど……これが僕の選択。
例え、自分を殺そうとした相手だったとしても。
「僕が居る限り、これ以上誰も死なせない!!」
「面白いことを言う奴だ。なら! 貴様の過去も暴いてやろう!!」
構うものか。例え、僕がラルクだってばれてもいい。いずれは、自分から言うつもりだったことだ。
「……馬鹿な」
ん? なんだ? サディアの様子が。
「なぜ見えない!? こんなこと、今までなかったぞ!? 過去がない? いや隠し事がない? いや違う! そんなはずは!」
どういうわけかは、知らないけど……今がチャンスだ。
「くっ!?」
背後をとったつもりだったが、まだ完全には隙を作ってはくれないようだ。
腹を少し切っただけ。血が抜けたせいもあり、サディアはすぐ気持ちを切り替え、魔力を高める。
「本当に面白い奴だ!!」
一瞬で溜めた魔力を分散。
まるで雨のような攻撃だ。これは僕だけを狙った攻撃じゃない。
「護れるものなら護ってみせるがいい!!」
「言われなくても!! 〈ゴールドサークル・シェル〉!!」
くん! と、ミィヤの護衛としてつけていた金の玉達を動かし、横に並べる。
すると、障壁のようものを展開し、降り注いだ攻撃から皆を護った。
「攻撃だけではなく、防御もできるとは……」
「言ったでしょ? 誰も死なせないって!」
「ぐっ!?」
サディアはかなり強い。おそらく俊敏はSなはず。じゃないと、僕のスピードに対応するなんてありえない。それに加えて、魔族特有のスキルを駆使しているんだろう。
「貴様! いつの間に武器を変えた!」
攻撃範囲が変わったことで、サディアが叫ぶ。
「変えてないよ! 伸びただけ!」
と、僕は長剣を振るう。
「伸びる剣とは……どこまで俺を楽しませるのだ!!」
やはり、今までの敵とは比べ物にならないぐらい強い。けど、押しているのは僕のほうだ。サディアもかなり余裕がなくなっているのがわかるほど、顔を歪めている。
隙を伺って、周りにも攻撃をしているけど、その尽くを〈ゴールドサークル・シェル〉で防いでいる。
「攻撃をしながら、防御をするとは器用なものだ! ならば……この攻撃はどうだ!! 〈カラミティバースト〉!!!」
僕からの攻撃を回避し、空へと飛び上がり禍々しいエネルギーの塊を作り出す。
「こいつは、そう簡単に防ぐことはできんぞ!!」
「だったら」
今までの防御壁を展開していた玉達を手元に持ってくる。
「まさか、その玉で攻撃するとでも?」
「半分当たってるけど、少し違う。僕はただ攻撃を防いでいただけじゃないってことを教えてあげるよ!」
今まで〈ゴールドサークル・シェル〉で攻撃を防いでいたのではなく、吸収して溜めていたのだ。
その二つの玉を剣に装着することで発動するユニークスキル。
刀身の真ん中に溝が表れ、そこに溜め込んだエネルギーが一気にチャージされる。
「解放!!」
刹那。
チャージされた爆発的なエネルギーが溢れ出る!
「その膨大なエネルギーは……! くっ! 落ちろぉ!!!」
さすがのサディアも、これから解き放たれる力に恐れをなして〈カラミティバースト〉を飛ばしてくる。
「白き一撃を! 〈ホワイトアウト・ブレイカー〉っ!!!」
禍々しいエネルギーに、純白のエネルギーがぶつかる。
サディアも自慢の一撃だったはずだ。圧倒まではいかないが、押し負けるとは思っていなかっただろう。
でも。
「なにぃっ!?」
「いっけえっ!!!」
圧倒的なエネルギーに〈カラミティバースト〉は押し負ける。そして、そのまま禍々しいエネルギーを浄化し……サディアを飲み込んだ。
「はあ……はあ……はあ……ふう」
エネルギーを解放したことにより、長剣からナイフに戻っている。
サディアは、どうやらマナとなって四散してしまったようだ。
もしものために、余力は残しておいたけど……必要なかったみたいだね。
「主様ぁ!!」
「ライカさーん!!」
そして、魔物のほうも片付いたみたいだ。レンやミィヤが、こっちに駆け寄ってくるのが見える。
他の人達も皆無事のようでよかった……そんな光景を見た僕は。
「終わったよ! 皆!!」
がらにもなくぐっと拳を天へと突き上げながら、皆のところへ歩き出した。
最後のほうは、勢いとノリで書ききった感がありました。
そして、書ききったところで、私は思いました。
なんだ、この話? と。
そう思うところは、皆さんのご想像にお任せします。おそらく、ほとんどの人達が同じところを想像すると、思います。




