第三十三話 激戦の中で
「すげぇ……もう半分以上は倒されているんじゃないか?」
「馬鹿お前。さすがにそれは……ありそう、か?」
ライカとレンが、飛び出してからしばらくして冒険者達は、戦場へと辿り着いた。念のため、別動隊の可能性を考え、十数人ほどを残してきた。
そして、ゴバック達は、辿り着いた戦場を見て、唖然。
すでに、半分以上は倒されているんじゃないかと思うほど、魔物が減っているのだ。
ライカの姿は見えないが、レンの姿ははっきり見える。
黒き炎を操り、獣の如く暴れまわっている。
彼女の戦いを見て、心底味方でよかったと安堵し、武器を構える。
「いくぞ! お前らぁ!! 幼女達だけに任せるなんて大人として恥ずかしいぞぉ!!」
ゴバックが先陣を切り、駆け抜ける。
「やってやらぁ!!」
「ゴバックに続けぇ! 幼女達に負けるなぁ!!」
それに続くように、冒険者達は魔物達へと武器を振り下ろす。
次々に冒険者や傭兵達が戦いへ身を投じる中、一人だけどうしようかと立ち止まっている者が居た。
ミィヤだ。ここまで一緒に来たのはいいが、自分はバックアップ。
自分と同じ役目である者達は、付与スキルを使ったり、遠距離攻撃をしたりと役割を果たしている。
ライカ達と共に行くことで、経験値が入りレベルが上がった。そのおかげで使えるスキルも増えた。今まで水を出すだけの〈ウォーター〉と回復術の〈アクアヒール〉だけだったのが、今では攻撃スキルである〈アクアショック〉に防御スキル〈アクアヴェール〉などを取得し、戦力として十分に貢献できるようになった。
回復術も中級の〈アクアハイヒール〉がある。自分の役目は、主に傷ついた者達の回復だ。
今までだって何度もやってきたことだ。ライカやレンは、まったくと言って怪我を負わなかったため、大抵は偶然出会った負傷者や依頼で回復を必要としていた者達ばかり。
「……」
歯がゆい。ライカとレンが先行してほとんどの魔物を撃退したため、強い魔物はほとんどいない。そのため、冒険者達も危なげなく戦っている。
回復役として、出番がないのでは? だったら、攻撃面で役に……が、体動かない。
ミィヤは、生まれてからこれまで喧嘩、暴力をしたことがない。自分はドワーフであるがゆえに、子供だろうと人間の大人以上の力がある。そのため、一撃が当たっただけでも簡単に骨を折ることができる。
今より小さい頃、試しにどれだけの力があるかと手頃の石に拳を叩きつけてみた。
……石を通り越して地面にクレーターを作るほどの力があると知った瞬間だった。それからだ。自分がその気になれば人など簡単に殺してしまうんだと考え、自分が傷つけられようとも反撃をしなくなったのは。
そんなことをしているため、ミィヤはいつもボロボロで、不幸になってきた。しかし、そんな自分を助けてくれたライカ。
彼女と過ごす日々の中で、この人のためにもっと力になりたい。ただ戦いを見ているだけじゃ、だめなんじゃないかと思い始めた。
何よりも、いつもはライカやレンが側にいてくれたからこそ、安心できた。それが今は……初めて、一人で戦場に立っている。
近くに居ることはわかるが、まるで違う。
「私も」
いつかはこれが当たり前になるかもしれない。
ぎゅっと拳を握り始めるミィヤ。
冒険者が取り逃がした魔物がミィヤへと襲いかからんと向かってくる。
「私も!」
拳を振り上げようとするが……動かない。
なんで? もう覚悟は決めたはずのに……もっと皆の役に立ちたいのに、なんで動かない……! そうこうしている間に、近づいてきている。
いつものようにライカのスキル〈ゴールドサークル〉が動こうとするが。
「ミィヤちゃん!!」
「え?」
それよりも先に、背後から一本の矢が魔物の体に突き刺さる。その後、一人の女性が姿を現し、剣を振り下ろした。
「大丈夫だった? ミィヤちゃん」
「アメルさん?」
「危ないところだったわね」
「ラメサさん?」
助けてくれたのは、女性誘拐事件で知り合った二人の冒険者だった。
「す、すみません。ここは戦場なのに……皆が戦っているのに……私」
結局全然変われていない。また自分はいつもと同じく護られるだけの存在になるだけ……。
自分の情けなさに落ち込んでいると、ラメサが苦笑しながら頭を撫でる。
「確かに、この状況で躊躇うのはいけないことね」
「……」
「けど、それはまだあなたが子供だから仕方のないことなのよ」
「そ、そんな! そんなの理由には」
「ミィヤちゃんは、今までこういう戦場に出るどころか、人を傷つけたこともないんでしょ?」
アメルの言葉にミィヤは、硬直する。話していないはずなのに、当てられてしまったからだ。それだけ、自分は……。
「無理に変わろうとしなくていいのよ。できないことをしないで」
と、弓矢を引きラメサは冒険者の背後をから襲いかかろうとした《ウルフ》を射ぬく。
「ずっとは無理だと思うけど、それは先の話。今は、自分ができることだけを全力でやるの!」
刃に炎を纏わせ、駆けていくアメル。
「今できることを」
ぐっと拳を握り締め、再び戦場を見るとリーグが魔物に襲われそうになっていた。
「〈アクアヴェール〉!!」
「うわぁ!?」
しかし、咄嗟の防御スキルで護ることができた。そこへ、アメルが水の障壁で止まっていた《ロックビースト》へと切りかかる。
「ありがとう! ミィヤちゃん! ナイスフォローだよ!」
「は、はい!」
「ほら、リーグ。あなたは魔法使いなんだからもっと安全なところまで下がる」
「ご、ごめん。それと、ミィヤちゃん。助かったよ」
役に立てた。スキルを発動できた。
感激していると、ラメサがとある冒険者を指差す。どうやら相当深い傷を負ってしまったようだ。
これは出番だ、とミィヤは走り出す。
「ぐっ!?」
「大丈夫ですか? 今、回復をしますね。……〈アクアハイヒール〉!」
相当深かった傷だったが、ミィヤの〈アクアハイヒール〉により一瞬で傷は塞がる。
「おぉ! すげぇ! もうだめだって思ってたのに! あ、ありがとうよ!」
「い、いえ」
今は、まだこうすることでしか役に立てないかもしれない。けど、いつかは自分も戦うことで役に立てる日が来るまで。
決意を新たに負傷者がいないかと立ち上がった刹那。
見知った顔ぶれが視界に入る。
「ほら! ユーラ! しっかりする!!」
「わ、わかってるわよ!」
「私が護りますから、その間に」
あの三人だ。最近はほとんど見なくなってしまった美少女パーティーの面々が、戦場に来ていた。彼女達はランクBの冒険者だ。
彼女達が居れば、戦況も大分楽に。
「おわあ!?」
「な、なんだあ!?」
それは突然の衝撃と大量の砂煙だった。
近くにいた冒険者達は、いや魔物達も、あまりの衝撃の大きさに吹き飛ばされてしまう。
「な、なんだ?」
「何かが落ちてきたみたいだけど……」
ミィヤの近くに居たリーグとアメルが足を止め目を凝らす。すると、砂煙が晴れ、姿を現したのは。
「ら、ライカさん!?」
先行していたはずのライカの後ろ姿。
そして、見知らぬ男の姿だった。




