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異世界デリバリー ~カツサンドからはじまる異世界無双~  作者: とんぽーろ


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「マーク、タックのお店を手伝う」

 マークが朝の中央広場にあるポストに投函された注文書の回収から帰ってきた。


 いつもながら、眉一つ動かないクールな感じの好青年の雰囲気を醸しだしていた。


  「あら、マーク、おはよう!」と厨房で開店準備をしていたメリンダから挨拶した。


  「おはようございます。メリンダ様。本日も中央広場のポストには沢山の注文書が投函されておりました。」と丁寧に主人に報告するマーク。


  「マーク、あんたに頼みがあるのよ。今度、タックの世界に行ってタックの店を手伝ってくれない?うちの亭主も“冒険者としてのクエスト”の仕事で忙しいみたいだから。」と、常日頃、文句も言わず、隙間風が入る一階の食堂を閉店後少し片付けたあと寝泊まりしてもらいながら警備と店の手伝いをしてもらっているマークのことを気遣ったメリンダの一言だった。


  「あのね、タックがこれから来る寒い季節のために部屋を暖める魔法機をもってきてくれたそうよ。」と店内に運び込まれた石油ストーブを指差して教えた。


  この石油ストーブは電気を一切使わず、マッチの火でつける日本の昭和の時代によくあったレトロな暖房器具で、タックの家の倉庫の中で長い間眠っていた。



  メリンダの店で使う予定の食材や調味料やその他の機材を運び入れたタックはトランシーバーを見て、とっさに思い出す。


  「そうそう、ずっと一番肝心なことを言い忘れていた。あの王族御用達の“魔法球”に似た法器が俺の世界にもあったことを思い出しいくつか持ってきた。」とそばにならべた5セット10台のトランシーバーと電波中継機を指差してその場の皆に説明するタック。


  「今度、また、新商品を王様に献上するついでにこの法器の設置と使用許可を公式に王様に認めてもらおうかと思って。。。」


  初めて見る黒黒とした小型の金属の物体を眺めるタック以外のその場の一同。


  「詳しいことは王様の御前で皆に説明するよ。」と予告した。


 

  「俺の店も再開したいと思っているから、これからしばらくはあまりこのメリンダの店を手伝うことはできない。むこうの店が無事再開できたらまた、これまでのようにこの店に頻繁に顔をださせてもらうから。」と一言断りをいれるタック。


  「じゃ、アレックスについで二人目はマークを連れて行くよ。2、3日マークを借りるよ!」


  「おい、じゃぁ、その3日間、中央広場のポストの注文書の朝の回収は誰がするんだよ?俺か?」と尋ねるアレックス。


  「お願い!」と一言だけ残すタック。


  「お前がいないときに、もし売れ行きが異常に良くて、食材が足りないなどの不足の事態が起こったらどうするんだよ!」と懸念するアレックスとメリンダ。


「その時はコレを使って!」とそばにあったトランシーバーを一つ渡すタック。


  事前にシステム頼んで、特別に現代日本のタックの店の敷地内と異世界のアレックスとメリンダの店の敷地内に限り通信ができるようにしてもらった。


  「どう使うんだ?」と聞くアレックスとメリンダ。


「そちらから話す時は横の黒いボタンの部分を押しながら、逆に俺からの話を聞く時はその黒いボタンを離す。」と簡単に使い方を説明するタック。

 


 マークとタックがいない3日間はアレックス、メリンダとエステラが交替で朝の中央広場のポストまで投函されている注文書を回収することになった。


  アレックスの時と同様にシステムにマークが異世界の扉をくぐり抜けられるように権限を与えてもらった。


  現代日本のタックの店へつながる扉を平然とくぐり抜けるマーク。アレックスの時とは違い、いたって冷静だった。


  「ここがタック様のご自宅ですか!?」と、流石に普段はクールなマークも見たこともない現代日本のタックの家に案内されて驚きを隠せない様子だった。


   (事前に多めに食材をメリンダの店に届けていたから余程の心配はない。)と、トランシーバーを片手に握りしめて考えるタック。


  (さぁ、現代日本での商売を再開しよう!)と決意する。


  手始めに従業員を再雇用しようかと考え、従業員募集のポスターの作成に乗り出す。

 その間、マークには店内のテーブルや床の拭き掃除などを頼んだ。


  従業員募集のポスターのデザインをどうしようかと悩むタック。そばで黙々と店内の掃除を手伝ってくれているマークを横目にみて思いつく。


  「そうだ!マークにポスターのモデルになってもらおう!」と、思いつく。


  急いで2階にあがり、スマホを持って駆け下りてくる。


  「マーク悪いんだが、この四角い法器に向かって掃除しながらでもいいんで少し微笑んでもらえないか?」と提案するタック。


  見たこともない黒くて四角い金属の物体を前に少し驚いた様子のマーク。


  主人の言われるままにポーズを取った。


「パシャ」という撮影音とともに、「もういいよ。」と合図するタック。


(我ながら最高の画像が撮れた!)と感心するタック。


  すぐさま2階へあがり、パソコンを立ち上げイラスト作成ソフトを起動。ポスターの作成に取り掛かった。


  「チリン。」と突然スマホの通知音が入る。


  普段、よく見ている動画投稿サイトの新着情報の通知だった。


  あっという間にマークの画像を取り込み従業員募集のポスターが出来上がった。


 先ほどスマホに入ってきた通知を元に新着情報を再度確認してみる。

 

  動画投稿サイトを開くと、そこには


「町の小さな定食屋で暴れる筋肉男!」、「CGはたまたAIか、定食屋内で暴れている奇妙な格好の男」、「都市伝説 定食屋をさまよう中世ヨーロッパの騎士の幽霊・・」などと不思議な画像や動画の投稿が数件アップされていた。


   店名は伏せられていたが、店の外観の雰囲気から明らかにタックの定食屋だった。

 そして画像から、この“男”とされているのが、前回連れてきたアレックスのことではないかと容易に推測がついた。


  時間があっという間にたちもう夕刻。明日から従業員の募集と、その間とりあえずマークと二人だけで2日間だけ仮営業を再開しようと提案するタック。狭い店内で調理と注文をとるのはタック、客が食べたお皿を下げて洗うのはマークと役割を分担した。


  2日間だけの仮営業とはいえ、長い間休業していたため食材が少なかったので、マークを連れ出し近くの商店街へ買い出しに行こうとするタック。


  「ビリ、ビリ、ビリ、ビリ・・・リ」と、店のドアをくぐり抜け店先に出ようとするマークを光が遮りアレックスの時と同様やはり外に出られなかった。仕方なく一人で買い出しに出かけたタックだった。

 

  沢山の食材を抱え込み、持ちきれなかったものは翌日配達してもらうことにした。


  夕方の6時半を過ぎた頃に、店内での作業に疲れてきたので2階に上がり、以前、王様からオークカツサンドを絶賛された際にいただいた真珠や瑪瑙などの宝飾品とソーニャさんに夜な夜な作ってもらっていた刺繍のハンドメイドなどをフリマサイトやネットオークションサイトに出品するため、スマホで撮影する方法をマークに指導した。


  初めて触る現代日本の法器であるスマホの扱いに最初は少し戸惑うマークだったが、覚えが早いせいかあっという間に扱えるようになった。主人であるタックに言われるままに対象物を手際よく撮影していくマーク。


  ある程度、撮影したらクラウドストレージにアップしてもらい、そのそばでパソコンで出品作業を始めたタック。


  ソーニャさんが作ってくれたハンカチやスカーフなどの女性向けハンドメイド作品は主にフリマサイトへ、王様からいただいた真珠や瑪瑙(めのう)、翡翠(ひすい)といった宝飾品類は希少価値が高いとみなし、日本でも最も人気の高いネットオークションサイトと海外の人気オークションサイトに同時に出品していった。


  一通り、ネットへの出品作業が終わり、腹も空いてきたのでデリバリーをアレックスの時と同様に頼むことにした。


  何が好きか尋ねたところ、細めのあまり辛くない軽いものが好物だと答えたマーク。


  「今夜は麺類にしよう!」とスマホのフードデリバリーアプリをみながら、「天ぷらそば」と「きつねうどん」に決めた。


  お店が近かったためか15分足らずで、デリバリーのバイクが到着する音が外から聞こえてきた。チャイムが鳴り、2つの商品を手にしたタック。


  マークと一階の食堂のテーブルで食べることに。


  厚揚げがのった“きつねうどん”を一膳の箸を添えてマークに渡すタック。


 一本の木の棒をじっと不思議にみつめるマーク。


(しまった!異世界の人、箸を観るのが初めてだったんだ。)と気づくタック。


  異世界では食事をするとき、王族や貴族といった高貴な身分の人たちは金属製のナイフやフォークとスプーンを、城下の一般の平民たちは木製のスプーンやフォークと狩猟などで使われる小型のナイフかまたは素手での手づかみが普通のスタイルだった。


  「こうやって使うんだ。」と、自分の箸を2つに割り、器用に天ぷらそばをすくい上げ、口に運ぶタック。


  見よう見真似でタックの作法を学ぶ真剣な眼差しのマーク。最初は箸の握り方がおぼつかなく、白く太めのうどんの麺を箸で持ち上げることができなかったが、手を添えて箸の握り方を改善してくれるタックのお陰でまたたく間に箸の扱いをマスターした。


  音を立てることなく、静かにすするマークの顔を正面からまじまじと見つめるタック。


  「どうだマーク、味の方は。」と聞いてみる。


  「この上にのっている茶色い袋みたいな“揚げ”ですか、結構甘くて美味しいです。かまぼこやねぎとやらもなかなかいいですね。熱い汁に浸かったこんな太く白くて柔らかいもの、生まれて初めて食べます。これまた誠に美味しいです。」と、正直に語るマークに喜びがたまらないタック。


  「マーク。ここだけの話、お前にいいものを授けよう。」と、懐にしまっておいたメリンダたちから回収した手鏡を取り出し、マークに手渡した。


  「これは、メリンダやエステラ、ソーニャさんたちにはくれぐれもみせるなよ。みつかるなよ。」と再三しつこく忠告した。


  「これは何ですか?」と尋ねるマーク。


  「これは手鏡で、普段は女性が主に身だしなみなどを自身を確認するために使う道具だが、マークは城下の若い町娘たちにもとても人気があるようで、アレックスとメリンダたちのお店の良い宣伝となってくれて助かっている。でも、店の女性従業員たち皆に渡すとなると評判を呼び、余計な邪魔が今後はいらんともかぎらんでね。」と説明するタックに、


  「左様ですか。」と淡々と応じるマーク。懐に大事にしまった。


  「さて、飯も食ったし、風呂でも入るか!」と、マークを風呂場に案内するタック。


  脱衣場に案内し、風呂の設備の使い方、タオルと着替えの場所を指さしてしめした。


  ささっとタックの前で着ていた服を脱ぎ始めるマーク。長身でスラリとした体躯に白くきれいな肌。まるで少女漫画にでてきそうな“王子様”のような容貌に、思わず見とれてしまいそうになるタック。


  (エステラやソーニャさんのような“美女”ならわかるが、相手は“男”だぞ!BLの世界に俺も入りそうだ!)と、思わずその手でマークの背中にそっと触りたくなる自分自身に気づき、ふと、我にかえるタック。


  風呂場の扉をさっとしめた。


  しばらくして、マークが風呂から上がってきた。まだ十分に乾ききっていない髪をタオルで拭きながら登場する姿がなんともセクシーで、ドラマの若手のイケメン俳優を眼の前でみているのかと思えるほどうっかり見惚れてしまった。


  (いかん、いかん何をしているんだ俺は!)と何度も自身に問いかけるタック。


  「タック様、お風呂ありがとうございました。あんなに温かく気持ち良いお湯で“湯浴み”できたのは生まれて初めてです。」と大変満足している様子のマーク。


  「テレビでも観るか?」とテレビにチャンネルを向け電源を入れるタック。


  昔のトレンディードラマが再放送されていた。


 (昔こんなドラマみたな・・)と少し昔を懐かしむアラフォーのタック。


 突然、黒い板に映像が映り、中で若い男女がデートしているシーン。当然、アレックスの時のみたいに驚くのだろうと考えていたタックだったが、


「タック様、これは演劇か何かですか!?どうしてこの若い男女は人前で手をつないでいるのですか?」等と少し眉を上げたぐらいで淡々と質問するマーク。


 アレックスから事前に聞かされていたためか、アレックスほど驚かなかった。


 当時の美男美女の俳優たちが繰り広げる恋愛劇をただただジッと見つめるマーク。


 テレビに映るイケメン俳優よりも、それをタックの食堂のテーブルの席に軽く腰掛け、肘をつきながら呆然とテレビを見ているマークの姿の方がよっぽどイケメンだとタックには思えた。


 夜も更けて、「そろそろ寝ようか。」と誘うタックに「はい。」と素直に従うマーク。


 2階に上がり、二つの床を用意したタック。電気を消して眠りにつく二人。

 アレックスの時と違い、タックの隣でイビキも一切かかず、寝返りも打たず静かに眠るマークの横顔。カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされるその顔がいつにもまして❝美しく❞見えたタック。


 (相手は❝男❞だぞ!何考えているんだ俺は!)と無理に布団にもぐりこむアラフォーのタック。今夜はとても熟睡できそうにないと覚悟した。




 月明かりが消え、窓のカーテン全体を明るく照らす朝日で起きたタック。隣を見ると、きれいに折りたたまれた布団がすでにあった。階段を降りて、洗面所に顔を洗いに行こうとするタック。


「おはようございます!タック様。」食堂の方から声が聞こえてきた。


 見ると、食堂の客用のテーブルの拭き掃除や各テーブルの上に各種の調味料をセットしたりお客に出す予定のグラスをならべたりマークの姿があった。


「おはよう、マーク。早いな。」と感心するタックに対し、


「今日から仮営業としてこのお店が再開されるのですね。」とタック以上に張り切っている様子のマーク。


「顔はもう洗った?朝ごはんにしようか?」と提案するタック。


 自分が本日から積極的に動き回って調理する厨房の真ん中に立ち、フライパンで目玉焼きを焼き始めるタック。昨夜、炊飯器に2合ほど事前に研いだ米を入れ、タイマーで炊飯予約していたご飯が炊きあがっていた。昨日、一人で商店街に買い出しに行った際についでに買っていた味噌で味噌汁も作ってあげた。


 ご飯、味噌汁、目玉焼き、海苔そして昨日同じく買っていた❝納豆❞を揃えてマークをもてなした。


 ❝納豆❞はその見た目から現代世界で外国人だけでなく、主に西日本に住む人の間でも苦手な人が多い。異世界人であるマークはどうなのかと、少し❝イタズラ❞心でマークの反応を見ることにした。


 納豆のパックを開け、本体を覆っているビニールを剥ぎ取り、昨日教えた2本の箸で食べようとするが粘り気のある大豆を上手くつかむことができなかった。


 マークが最初納豆のパックを開けて本体の納豆を初めて見たとき、そのネバネバとした粘り気に少し引き気味の表情を見せたように思えたが、すぐ慣れたようで、


「タック様、この豆は如何にして食べればよいのでしょうか?」と質問するマーク。


 まだ、昨日、❝お箸デビュー❞をしたばかりのマークでは難しいだろうと思いやり、小さな金属製のティースプーンを代わりに渡して、


「こうするのだ!」と自分の分の納豆をグルグルとかき混ぜ始めたタック。それまで納豆に❝うっすら❞とまとっていた糸が次第に白みを帯びてきた。


「ここで最後に備え付けの液体の❝タレ❞をかけて食べる。」と手本を見せながら教えた。


 タックの動作をじっと観察し、納豆を混ぜて食べるマーク。


「これは結構美味ですね。」と一言嬉しそうに語った。


 朝ごはんも終わり、さぁ午前の開店をそろそろはじめようかと意気込むタックとマークの2人だった。


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