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第40話

 お義父様(とうさま)。こちらは、アンドラーシュの言う通りだった。


 その頭には鹿の角を――しかもずい分と立派な雄鹿のそれを――おごった冠をかぶっておった。重すぎるのか、すぐ傾き、ずり落ちそうになるのを、その度ごとにかぶりなおす様は、可愛らしくさえあった。


 結婚に対しては、まるで自分にそれをなす資格はないとばかりに、何も言わなかった。ただ、わしも軍を率いて行きたいとだだをこね出した。すると、


「アホウですか。あなたは。息子の戦功を横取りしようとするなど」


 と、お義母様(かあさま)に怒られて、シュンとなった。


「そのションボリ顔は我への不満なのか」


 と更に追い込みをかけられると、急いで、ぶるぶると首を振る。


 そのせいで、冠が頭からずり落ちてしまい――更には、ひざまずく私たちのところまで転がり落ちて来ると――無残にも鹿の角は、左右もろともポッキリと折れたのだった。


 それを見たお義父様(とうさま)は、もう今にも泣き出しそうな顔になる。その様を見て、あきれ顔となったお義母様(かあさま)は、こうおっしゃった。


「仕方ない。あなたはここにいても何の役にも立たぬお人。戦場ならまだ何とかというところ。息子と共に赴くが良い」


「お二人とも赴いては、国の守りが」


 と私が言いかけたところで――何の遠慮会釈も無く、むしろ、あえてかぶせる如くの声がした。


「我がおる」


 ああ、なるほど、などと私が口にできようはずもない。お義父様(とうさま)と同じに。そう。私もまたぶるぶると首を振り、涙目となったのであった。


 ただお義父様(とうさま)の方は一転、上機嫌。


「公爵とも久しぶりに会いたいしな」


 との言葉を聞く。


「父上、いえ、申し訳ありません。父とお親しいのですか?」


「昔、よく猟に赴いたものよ。その時は弓の腕を競ったものよ」

 上機嫌のままに、

「しかも公爵はずい分美人な奥方をもらわれて、私はそれを盗み見するのが楽しみで楽しみで・・・・・・」


(何か、地雷を踏んだ気がしますわ。

 お義父様(とうさま)


 エヘラ、エヘラとお笑いになるお義父様(とうさま)。でも、すぐそのかたわらには、


(おひょー)


 まなじりを決したお義母様(かあさま)が。そしてそのおっしゃることには、


「下がってよいぞ」


 もちろん、新米の私にそのいきどおりを鎮められるはずもなかった。そして、アンドラーシュもその場の雲行きを感じ取ったらしく、


「せっかく来たのだから、この後、食事でも」


 とあわてふためき、誘うお義父様(とうさま)の言葉を、


「実は公爵令嬢は昨日到着したばかり。少し休ませたく想います」


 と賢明にもお断りになり、私ともども、その場を去るを得たのだった。


 お義父様(とうさま)は再び、ぶるぶると首を振り、涙目となっておったような気がするが。


(お義父様(とうさま)


 まだまだ夫としての修行が足りませぬわ。女には地雷があるもの。妻のそれを知らずして、どうして夫などといえましょう。


 そう、『敵を知り、己を知れば・・・・・・』は妻と夫の間にも言えますのよ。なんて、妻にさえなっておらぬ私が言えることではないけれど。


 でも、どう? 私の奥様言葉。


 何か、ずい分とヘンテコリンな気がする。


 それはさておき、この時の解放感ったらなかったの。それほどに緊張するものなのよ。お義父様(とうさま)・お義母様(かあさま)と会う嫁というのは、と40にして初めて知る私であった。


 んっ。落ち、ちゃんとついたかな?


 いえいえ、私はまだまだ新入り。やはり、最後は大黒柱のお義父様(とうさま)にお任せ。それでは、どうぞ)


「アヒョーン」

 という、何とも形容しがたき声が、大天幕から青空に響き渡っておった。


(きっと、お尻に敷かれたのだと想いますわ。色んな意味でね。それでは、お後がよろしいようで)


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