46狂気の連鎖
ミリアはシャラタンとクラリスを一瞥した後、アレンに呆れた表情を向ける。
「あいつらの言葉に耳を傾けちゃ駄目。……まあ、あんたの性格上、話し合いで決着をつけたかったんでしょうけど」
「……悪い。俺はやっぱり、こういうのは苦手なんだ」
大きな力を持っているアレン。だが、その力はいつも弱者を守るために使い、罪人などの制裁に使われることはなかった。
力をひけらかさず、アレンは言葉で宥めてきた。
その姿をミリアは幾度となく見ていた。
「知ってる。だからルール違反をしていたカイルを通報できなかった。何もしない私を咎めなかった」
ミリアは大きく息を吐き、ブレスレットを握りしめた。
「私としては、こいつらは言葉でこの狂った計画を止めるとは思わない。殺すしかないと思うわけ」
「その通りです。私たちは何を言われようと止めるつもりはありません」
シャラタンは赤い宝石をあしらった杖を取り出して、地面へと突き立てた。
すると、魔法陣がアレンとミリアの足元に現れた。咄嗟にアレンは避け、ミリアは足を拘束された。
「ミリア!」
「こんなのっ、自力で抜け出すから! あんたはさっさとあの二人を倒しなさいよ!」
ミリアは覚えたての攻撃魔法を足元の魔法陣へと叩き込むが、構築が安定していないため、陣を破壊するには至らない。
アレンがミリアを助けようと駆け出そうとした瞬間、眩い光がその進路を塞いだ。
「アレン様がこちら側に付かないというのなら、私があなたの力を奪います」
クラリスが冷ややかな視線を向け、容赦なく光魔法を放ってきた。
「クラリスさん……。あなたもやはり、シャラタンの世界を望むのですか?」
「ええ、もちろんです。お父様は、わたくしのために善い世界を作ろうとしてくれている。だから、わたくしは全力でその夢を叶えるのみ」
クラリスは、アレンへと光魔法を放つ。すぐさまアレンはシールドで魔法を防ぎその光魔法を彼女へと弾き返す。
シャラタンはクラリスを守り、アレンへと反撃を繰り出した。
魔法陣を足元へ展開し、さらに上空から岩を降らせる。
アレンは魔法陣を避けた後、シールドを展開して攻撃を弾いた。
(踏み込んで、叩き潰せば終わる。……だけど)
相手が魔物であれば、迷うことはなかった。だが、相手は魔物ではなく血の通った人間――それも、かつては慈善活動に励んでいた者たちだ。
人を殺すことへの躊躇いが、アレンの足を重くする。
『非情になる必要だってあるんだよ!』
ふと、ライルに言われた言葉が脳裏をよぎる。
今こそ、非情になるべきなのか。アレンは震える手で剣の柄を強く握りしめた。
「やるしか、ないのか……」
苦渋の決断を下そうとしたその時――。
「ほんっっとあんたってお人好しよね!」
拘束を脱したミリアが、アレンの隣に降り立った。
「一人が嫌なら、私が一緒に罪を背負ってあげる。……だから、いつまでも迷ってんじゃないわよ!」
ミリアはアレンの背中を力強く叩いた。
その言葉に、アレンは眉を下げたが――やがて、わずかに口元を緩めて頷いた。
「ミリア、見てないうちに頼もしくなったな……」
「そう言うのいいから、さっさと構えて」
ミリアは間髪入れずに火魔法を連射し、シャラタンの注意を逸らす。アレンはその背中に勇気をもらい、小さく微笑んだ。
◇
「痛いっ! 痛い痛い!!」
騒ぐ少年を見ながら、ライルは口元を歪ませた。
「将来有望な強さだったなぁ」
「縛りながら言うと、悪役みたいですね」
「ひどい言われようだ。ま、大人が子供をいじめてるみたいにしか見えないから仕方ないな」
ニルスたちをロープできつく縛りながら、ライルは笑顔でリズを見た。
「傷一つつけられないなんて……」
「A級舐めるなよ。本気を出せばお前ら程度、瞬殺だ」
歯を見せて笑うライルに、ニルスは「ひっ」と小さく悲鳴を上げる。
ライルの隣で肩をすくめたリズは、少年たちとニルスの前でしゃがみ込んだ。
「そこまでして、魔力なしが憎いのですか?」
「奴隷のように扱ってくるあいつらが憎くないわけないだろ。魔力を持たないくせに、傲慢で魔力持ちを道具としてしか見ていない。魔物討伐に失敗すればバカにされ、脅そうものなら通報される。どこに好きになる要素があるんだよ」
苛立った声でそう言った後、少年たちに目配せをした。
その姿を見ていたライルとリズは目を瞬かせた。
「俺たちはもう用済みだ。……先に行くとしよう」
ニルスの言葉に、少年たちは狂ったように大きく頷き、口の中に隠し持っていたものを一斉に噛み砕いた。
直後、バタバタと音を立ててその場に崩れ落ちる少年たち。
リズは驚愕し、慌てて近くにいた少年の口をこじ開けたが、すでに手遅れだった。口腔内には、即効性の猛毒特有の刺激臭が広がっている。
「遅かった……。もう、手遅れです」
「自死、か……。どれだけ魔力なしが憎ければ、ここまでできるんだよ」
ライルは苦い表情で吐き捨て、動かなくなった彼らに背を向けた。
救おうとした手が届かなかった虚しさを振り払うように、彼は剣を強く握り直す。
「……行こう。アレンが一人で抱え込みすぎる前に」
「はい。急ぎましょう」




