32魔力補助
後日、アレンは早速ネネに連絡を取った。
彼女はすぐに快諾してくれ、アレンは胸を撫で下ろした。
二人は街中のレストランへと入り、人目の少ない奥まった席に座った。
「シャラタン先生の講座について聞きたいって話でしたけど……アレンさんは先生に一目置かれているようですし、先生に聞いた方が早いのでは?」
ネネは不思議そうにアレンを見つめた。
確かにアレンは、いつでもシャラタンに会える。
だが、アレンとしては、協力するつもりもないのに情報を聞き出せるとは思っていない。
仮に教えてもらえたとして、きっとたかが知れているだろう。
「第三者視点で色々聞きたかったので……。好きなのを頼んでください。情報提供代として奢ります」
「ありがとうございます! 金欠なのでありがたいです」
ネネは喜んで、安くて量の多い品を指差し「これにしようかな」と呟いた。
アレンはすかさず彼女へと問いかける。
「前にここのステーキが食べたいと言っていませんでしたか? ステーキセットがありますよ」
内容は、ステーキに加え、サラダとスープがついている。そしてパンとライスが選べ、さらには食後にデザートと飲み物が選択できる贅沢セットだ。
ステーキは上等なものが使われており、なかなかランクの低い者たちが簡単に手を出せるような代物ではない。
ネネはメニューにでかでかと載っているステーキセットを見て動揺の色を浮かべた。
「えっ!? い、いやいや、奢りとはいえ流石に……」
そう言いつつも、ネネは写真のステーキに釘付けだった。
アレンは大きく頷き、注文用のタブレットを操作してステーキセットを追加する。
「遠慮はいりません。講座に連れて行ってもらったり、こうしてお話もしてくださるのですから」
「わ、わかりました。わかる範囲ではありますが……知っているものは全てお話しします!」
「ありがとうございます。では、早速――」
ネネは水を一口飲んだあと、背筋を伸ばした。
緊張しているようで、彼女の表情は強張っている。
「これは又聞きなのですが、受講者は魔力が籠っているアイテムを受け取っていると聞きました。ネネさんもお持ちですか?」
「はい、持ってます! ちょっと待ってくださいね」
ネネは大きなカバンを漁り、そこから卵型のアイテムをテーブルの上に置いた。
アレンはネネに確認した後、それを手に取った。
アイテムを触った指先が、わずかだが指先にピリピリとした不快な刺激が走る。
「……少し電気が走っているような感覚がありますね」
「え、そうですか? 私は何も感じませんが……アレンさんは魔力が多いからですかね」
「魔力補助であるなら、そうかもしれませんね。それか、俺の魔力とここに込められている魔力の相性が合わないのかも」
「合う合わないがあるんですか?」
「はい、ありますよ。でもまあ、魔力を直接触る機会などそんなにないので、相性のことを考える必要はないんですけどね」
アレンはポーラーの学校に通っている時に教えてもらったことを思い出す。
とはいえ、ポーラーには必要のない知識のため、簡単な説明に留まっている。合わない理由や拒絶反応がどのようなものかも、アレンは知らない。
「この魔力は誰に付与してもらっているのか聞いていますか?」
「匿名の方です。かなり優秀な人だけど、静かに暮らしたくて、極力人と関わりたくないらしいです」
どうやらその匿名の人物は、シャラタンとしか接触していないようだ。
本当に罪人の魔力消失とシャラタンが無関係であるのなら、シャラタンを尾行すれば会えるだろう。
アレンは尾行用のアイテムを買い揃えようと考えた。
「私、アレンさんが付与しているのかと思っていました」
「回復薬も作ってるし、こういった物体への魔力付与は習得していないので、俺には難しいですね」
「そうなんですね。でも、アレンさんならできちゃう気がして……あ、他の子には私が言っておきますね」
「……もしかして、皆さん俺が付与していると思っていましたか?」
「実を言うと、大半の人は思ってますね。講座見に来てくれましたし」
アレンは見学に行った後、資格があるのに受講するでもなかった。それもあって、自分たちのために力を貸してくれたんだとネネ含め思い込んでいたのだった。
なお、シャラタンはこのことに関してただ微笑むだけで、否定はしていなかった。
アレンはその様子を思い浮かべ、顔を引きつらせた。
「……このアイテムはもう使ってみましたか?」
ネネにアイテムを返しつつ、そう問いかけてみると満面の笑みで頷いた。
「使いました! すごいですよこれ。自己回復ができるようになっただけじゃありません。私、ずっと適性がなくて諦めていた魔法攻撃まで使えるようになったんです……!」
ネネは大事そうにアイテムを撫でた。
歓喜に満ちたその声を聞き、アレンの疑惑は確信に変わった。
魔力不足の人間が、短期間で魔力を多く使う攻撃魔法を使えるようになるなど、通常ではありえない。
あのアイテムは単なる補助具ではない。もっと「外部から何かを継ぎ足している」かのような、歪な力を感じる。
「それは、おめでとうございます。ではもう卒業されたのですか?」
「いえ、今は他の講座を受けています! せっかく魔力補助があるのでシャラタン先生にお願いしました!」
弾む声でそう言い、頬を緩ませる。できることが増え、嬉しいのだと誰が見てもわかるほどだ。
「他の講座もされているのですね。俺なんて一つの講座運営でいっぱいいっぱいなのに……すごい人だなぁ」
シャラタンには他にもクラリスや他のヒーラーの助けがあるとはいえ、身は一つ。アレンは素直にシャラタンの優秀さに感心した。
「お待たせしました。ステーキセットです」
ちょうど会話が途切れた頃合いに、分厚いステーキが運ばれてくる。もちろんスープやサラダも一緒だ。
そんなステーキに釘付けのネネ。アレンは聞きたいことも聞けたので、笑顔で彼女に告げる。
「今日はありがとうございました。今から食べることに集中しましょうか」
「はい! ありがとうございます!!」
ネネはナイフを手に取る間ももどかしいといった様子で、フォークで突き刺した肉の塊に勢いよくかぶりついた。
その純粋な喜びの裏で、アレンの思考は「あのアイテムの魔力は、どこから来たのか」という一点に向かって加速していた。




