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超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
七罪の影編

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55/55

Episode50:監査局執行部隊

地下九階。


白き塔最深部。


警報音が鳴り響く。


赤色灯が回転し、保管庫の壁を血のような色に染め上げていた。


第七分室を包囲するのは、白い装甲を纏った監査局執行部隊。


無数の銃口。


逃げ場はない。


先頭の仮面兵が一歩前へ出る。


「対象確認」


「危険度A認定」


「排除開始」


次の瞬間。


銃火が地下空間を埋め尽くした。


轟音。


閃光。


雨のような因子弾。


床が砕け、壁が抉られる。


「散開!」


ロックの叫びと同時に全員が動く。


シャル――いや、ストレガが結界を展開する。


青白い障壁が銃撃を受け止める。


だが。


「重い……!」


障壁に亀裂が走る。


通常弾ではない。


対プラスミド兵装。


能力干渉型特殊弾頭。


モルトが即座に分析する。


「能力阻害効果があります!」


「長時間は防げません!」


リリスが横へ飛ぶ。


二丁拳銃を抜き放つ。


「なら先に潰す!」


連射。


正確無比な弾丸が仮面兵の頭部を撃ち抜く。


仮面が砕け散る。


だが。


リリスの動きが止まった。


「……は?」


露出した顔。


それはまだ幼さの残る少年だった。


十代半ば。


無表情。


感情の消えた瞳。


首筋には黒い制御刻印。


洗脳。


人格固定。


因子制御。


被験体。


「排除」


少年は機械のように銃を構え直した。


ロックの表情が険しくなる。


モルトが低く呟く。


「アルコーンと同じです」


「子供を兵器化している」


カルマの隻眼に怒りが宿る。


「……腐ってやがる」


アルコーンだけではない。


警察も同じだった。


守るべき子供を利用している。


その時だった。


執行部隊が一斉に突撃する。


白い群れ。


銃撃と白兵戦を同時に仕掛けてくる。


「来るぞ!」


ロックが前へ出ようとした瞬間。


低い声が響いた。


「下がれ」


カルマだった。


誰よりも静かな声。


だが。


誰よりも重い声。


ロックが振り返る。


カルマは煙草を床へ落とした。


靴で踏み潰す。


そして。


一歩前へ出た。


「ガキ共を相手に、お前らを汚させる気はない」


執行部隊が迫る。


銃撃。


斬撃。


因子兵装。


その全てに向かって。


カルマは右手を掲げた。


「《浮斥》」


瞬間。


世界が軋んだ。


轟音。


地下空間全体が震える。


執行部隊の身体が一斉に浮き上がった。


床から。


壁から。


天井へ。


まるで見えない巨人に握り潰されるように。


「なっ……!?」


リリスが息を呑む。


数十人。


それを一度に。


カルマは片手で持ち上げていた。


仮面兵たちがもがく。


撃つ。


だが照準が定まらない。


重力方向そのものが狂っている。


「所長……」


モルトが目を見開く。


カルマは無言だった。


静かに拳を握る。


その瞬間。


執行部隊全員が床へ叩きつけられた。


轟ッ!!


地下九階が揺れる。


コンクリートが砕ける。


装甲がひしゃげる。


悲鳴が響く。


だが。


死なない。


絶妙な制御。


殺していない。


無力化だけ。


「俺を誰だと思っている」


カルマが呟く。


「第七分室所長だ」


再び立ち上がろうとする執行部隊。


だが。


カルマの視線が向いた瞬間。


重力が落ちる。


膝が砕けるように沈む。


誰一人立ち上がれない。


圧倒。


完全な力量差。


リリスが呆然と呟く。


「……化け物じゃないですか」


カルマは聞いていない。


視線は通路の奥へ向いていた。


重い足音。


ゆっくりと。


規則正しく。


執行部隊が左右へ割れる。


道を作る。


赤い警報灯の中から現れたのは、一人の男だった。


黒い軍服。


銀縁眼鏡。


整えられた白髪。


穏やかな笑み。


副局長。


アーノルド=グレイ。


「久しぶりですね」


穏やかな声。


「カルマ」


カルマの表情が険しくなる。


「ようやく出てきたか」


アーノルドは倒れ伏す執行部隊を見渡した。


「相変わらずですね」


「その力は」


「都市最強のままだ」


カルマは鼻で笑う。


「世辞を言う性格じゃなかったはずだ」


二人の間に漂う空気。


それは敵同士のものではない。


もっと古い。


もっと深い。


かつて同じ場所に立っていた者同士の空気だった。


アーノルドの視線がストレガへ向く。


その瞳だけが僅かに柔らかくなった。


「おかえりなさい」


優しく。


父親のように。


「ストレガ」


ストレガの顔から血の気が引く。


「君は本来、ここへ戻る運命だった」


「アルコーンの器として」


「そして我々の希望として」


ロックが前へ出る。


だが。


カルマが腕を伸ばし制した。


「まだだ」


低い声。


アーノルドは笑う。


今度はロックへ視線を向けた。


「なるほど」


「君がロック・フォレスターですか」


黒い紋様。


収束現象。


第二段階。


研究者が新しい標本を見るような目。


アーノルドは満足そうに頷いた。


「実に興味深い」


ロックの本能が警鐘を鳴らす。


危険。


この男は危険だ。


イグナとも違う。


セラフィムとも違う。


もっと深い場所で腐っている。


そんな感覚。


アーノルドは静かに両手を広げた。


「歓迎します」


「第七分室」


穏やかな笑み。


その裏に潜む狂気。


「真実の入口へ」


その瞬間だった。


ゴゴゴゴゴゴ……


地下全体が揺れた。


誰もが足を止める。


震源はさらに下。


地下九階より深く。


存在しないはずの地下。


カルマの隻眼が細くなる。


ロックの黒い紋様が脈打つ。


モルトの顔色が変わる。


「……下に何かいる」


アーノルドだけが笑っていた。


まるで。


その揺れを待っていたかのように。


「目覚めましたか」


静かな声。


恍惚すら混じる声。


その一言に。


第七分室全員の背筋が凍った。


そして。


地下九階の床に一本の亀裂が走る。


まるで。


地下最深部から何かが這い上がろうとしているかのように。

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