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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    綿津見(わだつみ)の激突③

 (ようや)御出座(おでま)しか。その証左として、海面に幾つかの盛り上がりが見られる。魚人共の斥候、もしくは尖兵といったところであろう。彼奴(きゃつ)等は段々と陸地に近付き、遂には砂地を踏んだ。

(あ、あれが魚人か……意外と普通なんだな)

 上陸したのは男性が四人、女性が一人の合計五人。無論、外見は人間であるが、全員が魚人の筈である。(いず)れも簡素な水着姿だ。奴等にはダイビングスーツやフィン(足鰭(ひれ))、酸素ボンベなんぞ無用であるからな。(むし)ろ、動きを阻害する邪魔物にしかならん。

 それ故に、男性は戦闘に従事する者に特有の鍛え上げられた肉体をしておる事が一目見て分かる。女性は肌の露出が少ないので不明であるが、此処(ここ)()るという事は男性達と同等の能力を持つという事であろう。それにしても良い体の持ち主である。自明の事だが、女性の話だ。

 彼女の肢体も気になるが、それ以上に素顔を晒しておる事が不思議でならん。隠さずとも良いのであろうか。もしや、目撃者は皆殺しにすると暗に示しておるのかね。何せ、銛や三叉槍等で武装しておる。銃器は見受けられんが、単純に入手できんかったのか、或いは人間相手にその様な物は不要という自信の表れか。まあ、士にしてもスコットにしても、銃器で攻撃されたところで多少目障りなだけで大した脅威でもないが。

 二人は、自然と五人の前に立ちはだかる形になった。彼・彼女等は、此方(こちら)を認識すると同時に立ち止まる。双方、即座に戦闘へ突入とはならず、まずは睨み合いと牽制から始まる。

「こんな夜更けに明かりも点けず何の御用ですか?」

 口火を切ったのはスコットだ。

「……ただの海水浴だ」

 五人の内の一人、中央に立つ男性が答弁をした。容姿から推察するに三十代。彼がリーダー格と見て良さそうだ。彼の言い草は、武装しておる時点で嘘である事が明白であるが、今は良い。取り敢えず、翻訳イヤリングが正常に機能しておる事の確証は得られた。(あわ)せて、これがテレパシーとは異なる原理で作用しておる事も判明した。

「そちらこそ、こんな夜中に何用ですかな?」

 今度は向こうから詰問された。スコットは先刻の意趣返しとばかりに、白々しく『散歩です』と言い張った。

「散歩だと言うのならば、このまま通り過ぎてくれないかね?」

「そういうワケにはいかないということは、アナタたちも分かっているのでしょう?」

 スコットの言葉を聞くや否や、リーダーの後ろに立つ一際大柄な魚人が、彼の耳元で物申す。囁き声であったが、我等の聴力では問題なく拾える。

「隊長、こんなヤツらに構ってる暇はありませんぜ?」

 その申し出には、『隊長』と呼ばれた男に代わり、その横に居った紅一点の彼女が答える。

「バカかアンタは。この子たち、どう考えても私らのこと待ち構えてたでしょうが」

 実際は、此処(ここ)へ来たのは彼等と殆ど同時刻であったがな。

「ハァ?! だから何だよ!?」

 大男が女性に食って掛かるが、彼女が何か言う前に“隊長”がボソリと代弁する。

「我々の正体と目的を知っている。そうでなくとも、少なからず予想は出来ているということだ」

「チッ! なら蹴散らしゃイイだけだろうが!」

 更にいきり立つ大男。彼は堪らず一歩を踏み出すが、二歩目は踏み出し損ねた。女性に足を引っ掛けられて転倒し、顔面から砂地に突っ込んだからだ。

「ブッ、ブフゥッ!? なっ、何しやがんだ! このクソアマッ!!」

 顔を上げ、口の中に入った砂を吐き出しながら大男は悪態を()いた。悪口を言われた女性が、すかさずキツイ口調で反論混じりに注意する。

「アンタ本っ当にバカね。この子たちは私らの姿を見て怯えるどころか驚いてすらいないのよ? つまり、正体と目的がバレてるだけじゃなくて私らと対等以上に渡り合える自信もあるってことよ」

 こんな夜分に武装した五人組が海から出現すれば、大抵の者は驚倒なり戦慄なりする。ところが、士とスコットは斯様(かよう)な連中と相対しても平然としておる。一人を除き、彼女達は二人のその異様な態度を警戒しておるのだ。用心深い。いっその事、この大男の様に間髪入れずに実力行使に出てくれれば手っ取り早く終息したものを。

「どうやら君たちは普通の人間ではなさそうだ。何者だ?」

 二人の事を不審に思った隊長が、単刀直入に尋ねた。安易に事を構えるのは得策ではないと考えたのであろう。一旦、対話に持ち込む算段の様子。

(どっ、どうすんだよ?! こっちの素性を明かしてもイイのか?!)

 この質問の正答を自力で導き出せぬ士は、思わず隣に()るスコットに目を()った。すると彼は、此方(こちら)に目配せをした後、彼方(あちら)に向き直ってこう言った。

「たしかに、アナタ方のお察しの通り我々は人間ではありません」

 士の葛藤も虚しく、スコットは自分達の身元を実にアッサリと暴露。

「おい、そんなサラッとバラして大丈夫なのか?」

 間を置かずそう耳打ちすると、彼は『問題ない』と返した。かなり自信満々に言い切った為、士は彼に任せるべきだと判断。無闇矢鱈(むやみやたら)に出しゃばらぬ事にした。

「人間ではないとしたら何なのだ?」

 魚人の隊長が訊いてきた。それに対し、スコットは『超能力者とミュータントです』と返答。悪魔である事、またはその関係者である事は伏せる心算(つもり)の模様。その方が、我々にとって都合が良いと直感したのであろう。我等としても異存はない。ただ、今回はその選択が裏目に出るかも知れぬ。

「ちょ、ちょー能力? みゅ、ミュータ……?」

 スコットが発した単語を聞き、大男は首を傾げた。他の四人も彼と似た様な反応を見せる。如何(どう)やら、超能力者やミュータントは連中にとって理解が及ばぬ存在らしい。

「ダアァァッ! んなモンどうせ人間と大差ねぇだろ! 隊長! やっちまいやしょうよ! オレらならこんなヤツら一捻りですぜ?!」

 聞き慣れぬ言葉の所為(せい)で悩まされた大男が、苛々した語調でリーダー格の男に進言する。しかし、隊長と呼ばれた男は未だ熟考しておるらしく、唸るばかりで何も言わぬ。そんな彼の代行者として、魚人の女が指令を下す。

「ハァ、全く……アンタたち、ちょっとこのバカ押さえてて」

 彼女の指令に、これまで一言も喋っておらぬ二人の男が黙ったまま従い、大男の身柄を押さえた。当然ながら、この処置に憤慨した彼は暴れる。だが、魚人の女に鋭い目付きで見据えられた為、歯軋りしつつも大人しくなった。この()り取りで、五人の力関係が垣間見えたな。察するに、この中で彼女の地位は隊長に次ぐ様だ。それは兎も角、当面の間は談話の余地がありそうで何よりである。

「ソレで、どうしますか? 我々としても余計な争いは避けたいので早く退()いて欲しいのですが」

 スコットの提案を、隊長は首を横に振って拒否する。

「いいや、そういう訳にもいかん。悪いが、君らにはここで死んでもらう」

 腹を決めた隊長は、背負っておった武器を手に取って構えた。彼我の戦力の分析を終え、自分達が有利であると見定めた様だ。部下達も彼に(なら)い、それぞれ得物を握っていく。勿論、この男も例外ではない。無口な二人から解放された大男が、意気揚々と巨大な三叉槍を振り回す。

「待ってましたぜ隊長ぉっ!! ハッ! 若い身空で死ぬなんてテメェらも運がねぇな!!」

「運がない? ソレはむしろコチラのセリフだ。この国の長い海岸線上で、たまたまオレたちが居る所にやって来たのだからな」

 大男の台詞(せりふ)に、スコットが挑発も織り交ぜて言い返した。彼に負けじと、士も精一杯の虚勢を張って言い放つ。

「ああ、最悪だ。俺らがここに来んのなんて一生に一回あるかないかだからな。あんたら、相当運に見放されてるな」

「フフ、我々のどちらが真に運がないか。それはこれから分かることだ」

 二人の(げん)を受け、隊長が微笑んだ。己の思惑通り事が運んだとでも言いたげである。

「準備は整った」

 彼の強い口調で為された宣言を合図として、人影と(おぼ)しきモノが次々と海面に浮上して来る。それを見て、士は驚きの声を上げる。

「おっ、オイ……! アレってまさか……っ!?」

「ああ、魚人たちだ。ソレもかなりの数が居る。どうやら、これまでの会話はタダの時間稼ぎだったみたいだな」

 そう言っておる間にも、陸へ上がろうとしておる魚人の数は増加中だ。ところが、この非常の事態に陥って尚、スコットは平静と余裕を保っておる。その根拠が次の言葉で窺い知れた。

「もっとも、ソレはお互い様だがな」

「は? そりゃどういう……」

 士が自身の疑問をスコットに伝え切る前に、何かが遠方から目にも止まらぬ速さで飛来した。それを視認した瞬間、海が在る方向で凄まじい閃光と轟音が発生。目を凝らして見れば、すぐにそれが稲光であると理解した。

「は……?! かっ、雷……!?」

 何かが飛んで来た方角に視線を移すと、その原因が目に入った。クリントだ。大きな弓を携えて、棟の屋根の上に立っておる。彼が矢に雷の力を付与して、海へ目掛けて射たのだ。

 再度、士は首を海の方へ向ける。すると其処(そこ)には、今正(まさ)に上陸しようとしておった無数の魚人が海上にプカプカと浮かんでおった。まず間違いなく、感電して気絶したと考えられる。しかし、被害を免れた者も沢山居り、彼等は動けぬ様になった仲間達に構わず進軍を続けようとしておった。

 当然、それを見過ごすクリントではない。肉眼で確認せずとも、彼が次の矢を(つが)えておると感じた。追撃がくると勘が告げる。それは彼も同様であったらしい。

「マズイ……ッッ!! お前たちっ!! それ以上来てはならんっ!!」

 此処(ここ)から宿舎までは、それなりとは言えぬ位の距離がある。我等でもボンヤリと見える程度である。とてもではないが、魚人の視力では狙撃手の姿なんぞ捕捉できぬ。それにも(かかわ)らず、更なる危機を察知した隊長が後方の同胞達に大声で停止を呼び掛けた。だが、残念ながらそれは間に合わなんだ。クリントの放った特殊な矢が次々と海面を貫き、周囲に強烈な電撃を撒き散らしておるからである。

(アレ……俺が喰らったヤツより威力あるんじゃねぇか?)

 (ほとばし)る雷光と轟く雷鳴を(じか)に感じ、士は身震いをする。

 水は空気よりも強い抵抗力がある。加えて、深い場所では高い水圧も掛かる。その中で自由に動き回る為に、魚人は総じて人間と比べて遥かに強靭な肉体を持つ。しかしながら、如何(いか)に鍛え抜かれた者共と(いえど)も、この猛攻には耐え切れず段々とその数を減らしていく。誰も(うめ)き声すら上げる事なく行動不能になる(さま)が酷く不気味だが、恐らくそういう訓練を施されておると考えて良いな。

「さて、アナタ方の仲間はこの通り全員倒れました。ソレで……どうなさいますか? 全滅覚悟で我々と戦いますか?」

 起きておる魚人が最初の五人だけになると、スコットが彼等にそう訊いた。彼の口振りからは、内容とは裏腹に『早く降参してくれ』という願望が感じ取れる。

「……いいや、捨て鉢になるにはまだ早い」

 得物を持ち直して語る隊長からは、絶望や諦念等の感情は見受けられん。まだ何か、この逆境を打破できる程の切り札があるというのか。

(味方は全滅したハズなのにまだ勝ち目があると信じてる。俺たちと直接戦っても切り抜けられる実力があるから? こっちの戦力も把握しきれてないのに?)

 或いは、他にも伏兵が何処(どこ)かに潜んでおるか。

(でも、さすがに海にはもう居ないだろ。あの雷撃を受けて無事で居られるとは思えない。となると既に陸に上がってるか……)

 其処(そこ)まで推論を重ねた士は、一つの帰結に至った。その思考が、意図せず口に出てしまう。

「まさかもう中に忍び込んでるんじゃ……っ!?」

 焦燥感に駆られ、士は宿舎に向かって走り出そうとする。ところが、それを引き留める者が居った。スコットである。

「待て。その必要はない」

「はぁっ?! なんでそんなこと言い切れるんだよっ?!」

「オマエの考えていることはだいたい見当が付いている。そしてソレが正解である確率は高い」

「だったら尚更……!!」

「でもオマエが行く必要はない」

 激昂する士を、スコットは厳しくも優しく(なだ)める。彼もまた、何者かが建物内に闖入(ちんにゅう)したと睨んでおる様であるが、それでも救援や阻止は不要だと言う。

「何のためにバッキーを残してきたと思っている」

 その論拠がこれだ。ただ、それを聞いても尚、士には付けておきたい難癖があった。

「はぁ?! あいつまだ寝てんだろうが! オマエが『起こさなくてイイ』って言うから!」

「そうだ。でも問題ない」

「何が問題ないんだ!?」

「アイツが眠っているから、何も心配いらない」

「お前、何言って……」

 スコットには、何か我々の(あずか)り知らぬ理由による確信があると見える。なので、その所以(ゆえん)を尋ねようとした士であったが、その前に魚人の隊長が口を開く。

「君たちにどんな力や策があるのかは知らんが、敵の前でよくもまぁそんなに隙を見せられるな」

「そう思うのなら、なぜ攻めて来ないのですか?」

 彼の物言いに、スコットがそう問い返した。すると、隊長が後頭部を(さす)りながらこう呟く。

「その隙を突いても返り討ちにされそうなのでな」

「そうですか。なかなかの慧眼の持ち主のようですね」

「アァン!? テメェ上からモノ言ってんじゃねぇぞコラァッ!!」

 スコットの褒め言葉に、自分が言われた訳でもないのに大男が敏感に反応して声を荒げる。容貌や言動によらず上司想いなのであろうか。

「我々との差がご理解いただけたのなら、このまま大人しく捕まってくれますか?」

 そんな彼を無視して、スコットが隊長にそう訊いた。しかし、連中はこの言葉に従う気はなさそうである。

「いいや、さっきも言ったが諦めるにはまだ早い」

「フム、そうですか。ですが……アナタ方の希望は(つい)えたようですよ?」

「何……っ!?」

 スコットの話を聞き、此処(ここ)へ来て初めて隊長の形相が急変した。他の者達も動揺しておる。

「いま仲間から連絡が入りました。宿舎内に侵入した不届き者を始末したと。ちなみに、全部で八人いたそうです」

「チッ、クソ……全員やられたか」

 今度は沈痛な面持ちで(こぼ)す彼。四人の部下も、悲哀の感情が漂わせておる。

(いや、こっちを油断させるための演技じゃねぇの? ホントはまだ中に誰か居るかも)

 だが、疑り深い士は、それは我々を(あざむ)く為の虚言ではないかと(いぶか)しんだ。我も、これが此奴(こやつ)の下衆の勘繰りであるとは断定できぬ。

「テメェらよくも……っ!! 隊長っ!! あいつらの仇を討ちやしょう!!」

 悲観する事を()め、大男が我々への怒りを(あら)わにして隊長に意見する。しかしながら、彼の返答は否定であった。

「ダメだ」

「そんな……っ! 何でですかっ!?」

「このまま目の前の二人と戦闘に入れば彼らの二の舞だ。そんな愚は犯せない」

 隊長は、士とスコットの二人と矛を交える事を忌避しておるが、この男は少し違う模様。

「そんなこと……っ、やってみなけりゃ分かんねぇでしょうがっ!!」

「ちょっとアンタ!! バカなマネはよしな!!」

「うるせぇっ!!」

 仲間を殺されて頭に血が(のぼ)った大男は、隊長の命令を放棄。呼び止める女性の声を振り切り、三叉槍を突き出しながら士に向かって駆け出した。空いておった間合いが一呼吸の間に詰められる速度であるが、我と融合した此奴(こやつ)であれば(かわ)す事は然程難しくもない。たとえ足場が砂地であっても、その場で跳躍したり半身になって逸らしたりすれば問題なく逃れられる。

「よし来いっ!!」

 ところが、士はその選択肢の何方(どちら)も採らんかった。両腕を魔人化させ、身を(てい)して彼の突撃を受け止める覚悟を決めた。自身の痛みを回避する事よりも、まずは大男の勢いを止める事を優先したのである。

「ウラアアァァッッ!!」

 大男は勇猛さを感じさせる気合と共に、士の腹部に照準を合わせて三叉槍による渾身の突きを繰り出した。

「フンッ!!」

 それを真っ向から迎え撃つべく、士は腹の前に両手を固定。彼奴(きゃつ)の三叉槍を真正面から捉え、拍子を見計らってお気に入りの寝間着に傷が付く前に捕えた。ただ、此処(ここ)までは上手くいったものの、大男の膂力は見た目通り凄まじく、後ろに下がる事を余儀なくされた。その時に踏ん張った証が、砂上に線としてクッキリと残る。

(でも抑え込めないってほどじゃねぇな)

 腕力の強さは我等に軍配が上がった。その拘束を振り払おうと大男は足掻くが、士が有らん限りの力を籠めておる為、三叉槍は一寸たりとも動かぬ。

「フッ……ッ! グッ……!! はっ、離せ人間っ!!」

「うるせぇっ!! こんな危ねぇモンはこうしてやる!」

 危険な凶器を破壊する為、士は両手に更なる力を入れる。金属製である故、三叉槍の強度は高かったが、我等の剛健な握力によって呆気なく壊れた。

「なっ……っ!?」

 自慢の武器が使い物にならなくなり、大男の顔が驚愕の色に染まる。士はその虚を突き、奴の腹を蹴り付けた。

「グッ……ッ!?」

 何の抵抗もなく、奴の巨体は後方に吹き飛んだ。波打ち際まで転がり、砂に(まみ)れた上に海水が掛かった。直様(すぐさま)、仲間の女性が文句を吐き捨てながらも駆け寄る。

「あーもう! だから言ったでしょうが!」

 てっきり(うやうや)しく介抱するかと思いきや、彼女は大男の首根っこを鷲掴みにして持ち上げた。体格差を物ともせぬ豪快さである。そして、そのまま説教に突入した。正直、聞いておれん。

「コレは……交戦の意思ありと見てよろしいですか?」

 そんな二人を脇目で確認しつつ、スコットは隊長を問い詰めた。

「い、いや待ってくれ! 我々にそのつもりはない!」

 それに対して、彼は慌てて弁解する。だが、やはりまだ信じ切れぬ士が重ねて問い(ただ)す。

「本当に? まだ他にもあるんじゃないんですか? 隠し玉が」

「そ、それなら良かったのだがな。残念ながら、もう手は尽きた」

 そう主張する隊長。我々としても、この言葉が真実であって欲しいが、安易に信用する訳にもいかぬ。だからといって武力衝突も推奨できん。はてさて如何(どう)したものかと思慮を巡らせておると、士がこう提案した。

「とりあえず、このままでは安心できないので縛ってもイイですか? ていうか縛ろう。スコット、縄か何か持ってる?」

 一先(ひとま)ず、五人を縛り上げておく事にした。スコットもこの要求を了承し、虚空から太くて丈夫そうな縄と鎖を取り出す。すると摩訶不思議な事に、何十本もあるそれ等は、まるで自我があるかの如く勝手に動き始めた。そして案の定、自動で魚人達の身体に絡み付いていく。

 一様に悔恨の表情を顔面に貼り付けながらも、誰一人として抗う事なく縛に就いた。最早、無駄であると悟ったと思われる。(もっと)も、少しでも不審な素振りを見せておれば、クリントの矢で射抜かれたであろうが。言うまでもなく、海面で気絶中の者共も取り押さえられた。捕縛の手間をこうも省けるとは、世の中も随分と便利になったものだ。

 (しばら)くして、一人残らず緊縛が完了。刃傷沙汰を免れられて、士は心の底から安堵した。

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