↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
83/194

第28話:寝る子と進行と食いしん坊

 臨海学校にやって来た日の夕餉(ゆうげ)は、皆(主に男子)が大好きな焼肉。これはクラスの区別なく、生徒全員が混ざり合って行われた。場所は昼間もその前も遊んだ浜辺だ。

「おいツカサ、肉ばかり食べていないで野菜もちゃんと食べろ」

 網の前に陣取った士は、ロースが己の好みの焼き加減になる瞬間を今か今かと待っておった。そんな時に、スコットから母親の如き小言が飛んだ。

「はぁ?! 家でメシ食ってんじゃねぇんだぞ?! せっかくのバーベキューで野菜なんか食うワケねぇだろ。肉だ肉! 俺は肉と米が食いてぇんだよ!」

 ところが、育ち盛りの男子高校生である士はその言葉を無視。先述のロースだけではなく、隣のタン(舌)やレバー(肝臓)、肋骨周辺の肉である外バラや肩バラ等も、ホカホカの白い御飯と一緒に頬張る。宣言通り、玉葱や南瓜、ピーマン等には目もくれぬ。その様態を見て、同じく育ち盛りの男子高校生である筈のスコットが再び口を開く。

「そうか……オマエがそう言うのなら仕方がないな」

「おっ、分かってくれたか」

「口で言っても分からないのなら実力行使あるのみ」

 スコットはそう物申すと、士の皿に沢山の野菜を乗せた。山盛りである。

「うおぉいっ!? 人の皿に勝手に入れてんじゃねぇよっ!!」

 当然、その行為に憤慨する士。他方、スコットはというと、素知らぬ風を装ってハチノス(第二胃)を取っておった。その作業と同時に彼はこう宣(のたま)う。

「こうでもしないとオマエは野菜を食べないだろう?」

「俺は食いたくないっつってんだよ!! 何してくれてんだ!」

 士は激怒して反論するが、当のスコットはハチノスを口に運んで咀嚼(そしゃく)し始めた為、無言。口の中に物を入れたまま喋ってはならぬ故に。

「チッ……クソ」

 スコットの所業に悪態を吐(つ)く士であったが、一度皿の上に乗せた物を網の上に戻す訳にもいかぬ。捨てたり、他人に押し付けたりするのは論外。なので、我慢して全部食す事にした。

「次やったらブン殴るからな」

「安心しろ。もうしない」

「あークソッ、イイ気分が台無しだよ」

 そう愚痴を零(こぼ)しつつ、人参や茄子を嫌々ながらも噛み砕く士。それに触発されたのか、隣に座っておるクリントが文句を垂れる。

「ハァァ……何が悲しくてバーベキューでお茶なんか飲まなきゃいけねぇんだよ。普通ビールだろビール。ソレかせめてコーラかサイダー出せっての」

「いやいや、炭酸はともかくビールはいくらなんでもダメだろ」

 彼の不平に、士が至極まともな意見を返した。しかし、クリントの発言は、強(あなが)ち未成年にあるまじき主張とは言い切れぬ。何故ならば魔界では、少なくとも三人の出身国では彼等は成年に達しておるからである。

「だが、郷に入っては郷に従えと、この国の言葉にもある。飲むな」

「分かってるって。言ってみただけだ。俺が飲んだら皆もマネするだろうしな」

 何のかんのと言ったが、彼等は日本の法律に従う事にした様子。すると、今度はバッキーが思いもよらぬ形で不満がる。

「ハァ、二人はイイよねぇ、ボクも早く飲んでみたいなぁ~」

「あ? お前は飲んだことねぇの?」

「当たり前じゃん。だってボク未成年だもん」

「は? あー、魔界にも早生まれってヤツはあるんだな」

 士はそう納得したが、脇に居(お)るスコットが即座に否定。そして追加の説明をする。

「違う。単にソイツがまだ十四歳、学年で言えば中学二年生なだけだ」

「えっ!? マジで!?」

 驚きの事実が判明した。バッキーは年下であった。それも二学年も。尚、国にもよるが、魔界では一般的に十五歳で成人とされる。その為、先程の此奴(こやつ)の推察は何れにせよ誤りだ。

「で? なんでなんだ? 頭がイイから飛び級したとか?」

 士は改めてバッキーに問うた。それに対して彼はすぐに回答する。

「結果的にはそうなったけど、理由は別にあるよ」

「ふ~ん、こいつらと離れるのが寂しかったからとか?」

「ハッ! コイツがそんなこと言うタマかよ!!」

 士が何の気なしに発した推論を、クリントは鼻で嗤った。彼の言わんとする事は大方理解できる。彼の言い分を受け、バッキーは怒るかと思いきやあっけらかんとこう告げた。

「その癪に障る言い草には悪いけど、実はツカサの言ってることはそれほど的外れってワケでもないんだよ」

「えっ!? マジで!?」

 バッキーの慮外の物言いに、表情を一変させて吃驚(びっくり)するクリント。意外にも、士の推理は的を射ておったらしい。

「なんだよオマエー、寂しかったんならそう言えよなー」

 照れ臭いのか、クリントはニヤニヤと厭(いや)らしい笑みを浮かべながらバッキーを小突く。その傍に居(お)るスコットもやや想定外の事であった様で、僅かながら動揺を隠せておらぬ。

「そうだったのか?」

「うん、二人以外に親しいヒトも居なかったからね」

 繁殖力が弱い事も手伝って、上級悪魔は数が非常に少ない。同性かつ同世代ともなると、それはより顕著になる。

 聞くところによれば、彼等と近しい年代の者は王侯貴族内には誰も居らぬという。翻って、下級や中級悪魔にならばそういった者達も沢山存在するが、両者が私的に交流する事は稀だ。人間界でも富裕層と貧困層、支配者と被支配者との間に越えられぬ壁があったのと同様、住む世界が違うのである。

 現在、魔界の各国の教育システムは人間界の国々とそう変わらぬ。ただ、彼等の様な雲上人ともなれば些(いささ)か異なる部分もある。子女を下々の者達と共に修学させる家もあれば、独自に家庭教師を雇う所もあるのだ。そして、三人は後者であったらしい。

 幾許(いくばく)かの相違があるとすれば、彼等は同じ指導者の下で机を並べた仲であるという点だ。生れてこの方、家族よりも過ごした期間が長い間柄である。離れたくないと思っても何等おかしくはない。

(へぇ、そうだったのか)

 士が感慨に耽っておると、後方からバッキーを呼ぶ声が聞こえた。声色から、先程の彼を囲んでおった女子生徒の一人であると推定する。

「すぐ行くからちょっと待っててー」

 彼女に誘われて、バッキーは即座に付いて行った。彼が席を立ってから暫(しばら)くして、スコットがゆっくりと口を開いた。

「……意外だったな。アイツがあんなことを言うなんて」

「ああ。てっきり、あんま乗り気じゃないままコッチに来たモンだと」

 その後、クリントが同じ様な調子でそう続けた。

「ま、心配しすぎだったみてぇだけどな」

「そんなことはあいつの暮らしっぷりを見てりゃ分かる」

「それはイイが、ゲームばかりしているのは不健全だ。まぁ、やるべきことはやっているから特に何も言うつもりはないが」

 バッキーの話題が一段落したので、三人は食事を再開した。士は相変わらず野菜を食べず、肉と白米ばかり食しておる。スコットも、約束通り何も言ってこぬ。クリントと並んで、フワ(肺)やマメ(腎臓)、ミノ(第一胃)の味を楽しんでおる。

「お前らってさぁ、ハラワタが好きなの?」

 その有様を見た士は、思わず二人に問い掛けた。咀嚼中の物を慌てず飲み込んで、スコットが返答する。

「ああ。オレの周りの者たちはみんな好きだったぞ」

 それだけ言うと、彼は御茶を流し込み、もう一度マメを網の上に置いてそれを観察し始めた。以降、彼は一時的に押し黙ったままとなる。クリントに至っては、最初から会話をする気もない模様。士も彼等に倣(なら)い、初めて食す眼前のコブクロ(子宮)に集中しようとした。

「君らはモツが好物なのか? じゃあコレも食べてくれよ」

 そんな三人の所に、先の遣り取りを聞いておったらしい見知らぬ生徒が、大きな御盆を持ってやって来た。其処(そこ)に乗っておる物は全て内臓肉である。如何(どう)やら、豪勢に用意したのは良かったが、誰も食べたがらぬらしい。今時の若者には、ホルモンはあまり人気がない様だ。ただ、全部が全部不評な訳ではない。横隔膜にあるアウトサイドスカートという腹側の肋骨に接する部分、所謂(いわゆる)ハラミは順調に減っておるそうな。

「マジで?! イイの!?」

「皆は食べないのか?」

 現代日本の高校生達とは対照的に、悪魔の貴族二人は好意的な反応を示した。クリントが山積みになった臓物系の肉を見た驚愕と歓喜の声を上げる。スコットも一応の確認はしたが、既に盆の上の物に目が釘付けになっておる。今し方の心遣いが、ただの建前である事が容易に見て取れる程の強烈な視線だ。

「ああ。一頭まるごとの方が安かったから買ったらしいけど、誰も手をつけなくて困ってたんだ。君らが食べてくれるんなら捨てずに済むし、願ったり叶ったりだよ」

 卸業者を通さぬ事や保存性の低さ故に、内臓肉は安価で供給される。気前の良いオマケやサービスなのか、上手く言い包(くる)められて売り付けられただけなのかは定かではない。幸運にも、この二人の様に喜ぶ者も居ったから良かったが。

(牛一頭まるごと買ったのかよっ!? スゲェな! この学校!)

 食材購入の真実を知って驚倒する士。だが、一つ気掛かりな事がある。内臓肉を食べられるという事は、他の部分の熟成はあまり進んでおらぬのではないかと愚考する。

(んなモン冷凍しときゃイイだけだろ。味は多少落ちるかもしんねぇけど、どうせ俺らには違いなんて分かんねぇよ)

 そんな如何(どう)でも良い事に気を取られておる我等を余所(よそ)に、スコットとクリントは貰った内臓肉を目の前にして小躍りする。

「おおっ!! 見ろよスコット! ヤンだぜ! ヤン!!」

「ああ。コッチはシビレだな」

 新たな臓物を前にして、俄然興奮する二人。正直、士はこの雰囲気に付いていけておらぬ。尚、ヤンとはセンマイ(第三胃)とギアラ(第四胃)を繋ぐ部分の事を指す。また、シビレとは膵臓の事である。

「ツカサ、オマエも食うだろ? な?」

 確かめるというよりは、決め付ける様な口調でクリントが訊いてくる。

「あ、ああ」

 半ば勢いに流されるまま、肯定の返事をした士。別段断る道理もない為、何の問題もないが。

「でもこんだけの量、三人だけで食い切れるか?」

 盆の上の物を改めて視認し、士は本音を漏らした。普段であれば一人でも完食できる量であるが、今までも散々飲み食いした分、少しばかり自信がない。だが、それを打ち消すかの如く、クリントが平然とした様子で宣(のたま)う。

「大丈夫だろ。オレもスコットもまだまだ胃に空きがあるし、オマエだってまだ入るだろ?」

「そりゃまぁ、多少はな」

「ま、いざとなったらバッキーも食うだろうからアイツんトコにも持って行きゃイイ」

 彼はそう言って斜め後ろを見遣る。その方向には、女子生徒達と楽しげに食卓を囲むバッキーの姿があった。

「……やっぱオレらだけで食うぞ」

 若干の沈黙の後、クリントはそう呟いた。『一切れたりともやらん』とでも言いたげな空気を纏っておる。大幅に機嫌を害した事が、声音で簡単に見抜けた。その心情は士も充分に共感できた。

「それは大いに歓迎するが、野菜もしっかり摂るんだぞ」

 すると其処(そこ)に、スコットが横から釘を刺してきた。

「分かってるっての。てか、そう言うオマエこそちゃんと食ってんだろうな?」

「当たり前だ。と言っても、焼いた物ではなくサラダが中心だがな」

「まぁ、なんでもイイさ。んなことより早く焼いちまおうぜ」

 大量の内臓肉を盆の上から網の上へと移し替えていくクリント。それを見て、士はふと思った。

(そういや、光と健児さんもホルモン好きだったな。あとオジさんも)

 同時に、士の脳裏に在りし日が思い浮かぶ。昔、まだ美輝達の父親が行方不明になる前、二人が同じ小学校に通っておった時分の事である。当時、石森家と光家は家族ぐるみの付き合いをしておった、その一環としてキャンプに行った時、本日と同じく夕飯は焼肉パーティーであった。その時、先述の三人は主に臓物系の肉を好んで食しておった事を想起したのだ。

(う~ん、でも今はそんなに好きじゃないみたいなんだよなぁ)

 十数度、美輝の事を盗み見しておった士であるが、彼女がそれ等を口に入れた瞬間は目撃しておらぬ。他の肉や白飯も控え、専(もっぱ)ら野菜を摂取しておる。

(年頃だから止めたのかな?)

 年若い娘が内臓肉を好物としておるとなると、偏見ながら少々幻滅してしまう。それを気にしておるのかも知れん。同性・異性を問わず、周囲に同級生達が居(お)るのであるから尚更だ。

(それとも健康のことを考えてんのか?)

 ホルモンにはコラーゲンが含まれておる為、一般的に美容に良いと信じられておる。ただし、有効か否か、その真偽の程は未だ不確実である。また、ビタミンAやB群、鉄分を主な栄養素としておるものの、消化が悪くカロリーも高い上に、痛風の原因となるプリン体を多く含む。以上の事由により、健やかな身体を維持するという観点から摂食を抑えておると考えるのが妥当だ。野菜を多めに摂り、肉や米の食事量を最小限に止(とど)めておる事もその一端か。

(光んトコに持って行っても食べそうにないな。俺らだけで食うか)

 諸々の事情を考慮した士は、内臓肉を美輝に勧める案を自ら却下した。

「ふむ……」

 融通して貰った臓物肉を頂いておる最中、スコットが唐突に思慮を巡らせ始めた。

「どうした?」

 タレには飽きてきたので、荒塩を振り掛けたハツ(心臓)を口に詰め込みながら士が尋ねた。そうしたらスコットは、同意を要求する様な語調で問い返す。

「いや、何か物足りないような気がしないか?」

「物足りないぃ? いや全然。贅沢なヤツだなぁ。これ以上、何が欲しいってんだよ」

「フン、そんな物、決まっているだろう。肉も野菜も穀物もあるとなれば、次は魚介類。シーフードだ」

 如何(どう)やらスコットは、魚や海老や貝等が食べたいらしい。ところが、士はその所論に対して猛烈に反駁する。

「えーっ?! 魚ぁ?! そんなモン要らねぇわ! 下手したら野菜より要らねぇわ!」

 かなり嫌な様子。魚介の美味さを知るにはまだ若過ぎたか。

「よく、歳とったら肉を食うのが辛くなるって言うだろ。だから今の内にたらふく食っとくんだ。魚なんかジジイになっても食えんだよ」

 これが、士が魚ではなく肉を優先する所以(ゆえん)である。だが、このスコットはこの所見を真っ向から否定する。

「オマエは何を言っているんだ? オマエは歳を取らないハズだろうが」

「あっ……そうだった」

 己の体質の事を再認識させられ、士は魚介類を腹に入れずに済む言い訳が出来ぬ様になってしまった。栄養や健康等を鑑みれば、海の幸を摂食する事は必須。とはいえ、此奴(こやつ)は肉体の不調とは無縁の為、別に無理をして摂る必要もない。なので、特に注意すべき事はない。正味、我もあまり好んで食べぬ故に。だからといって、全く食べぬ訳にはいかぬが。

「ココに来る前にクロダイとハモと、あとカジキマグロを取り寄せていてな。ちょうど家に帰ったら届く手筈になっているからオマエにも御馳走してやろう」

「あ、ハハ……ありがと」

 スコットから有難くも御節介な申し出をされ、応答に困った士は生返事をした。

「そういえば、以前オマエに貰った“ワサビ”という物もまだ使っていなかったな。たしか、“サシミ”とやらに合うのだろう?」

「あ、ああ。……あれ? お前、刺身食ったことなかったっけ?」

「ない。存在は知っているがな。肉眼で見たこともない」

 風白の別荘に御邪魔した時、その機会はあった。しかし都合上により、彼等三人は遅れて訪問したので、結局は食べ損ねてしまったのだ。

(あー、そうだったな)

 彼等が生まれ育った国もしくは地方では、生魚を食す文化や習慣は無かったという。それ故、刺身も山葵(わさび)も物珍しいどころか未知の存在なのだ。取り分け、山葵は想像すら付かぬ代物であろう。因(ちな)みに、魔界でも沿岸部を中心とした国や地域、或いは島では鮮魚を食べる所もある。

(にしても、魚かぁ……。まだその良さが分かる年じゃないんだよぁ)

 士が生意気な憂慮に浸(ひた)っておると、別の机で食事中であった天道が此方(こちら)へ接近。『気分が優れないから先に部屋へ戻る』という旨を伝えに来た。担任教師には既に報告したとも言われた。そう話した彼は、心成しか顔色が悪い。

「おぉ、そうか。お大事にな。一人で帰れるか?」

「ああ、大丈夫だ。ありがとう」

 士のなけ無しの気遣いを丁重に断り、天道は他の生徒達よりも一足先に宿舎への帰路に着いた。何度か彼の方へ目を遣ったが、食の進み具合はそれ程であったと記憶しておる。本当に問題ないのであろうか。

(まぁ、海から離れりゃちょっとはマシになんだろ。何かあったら宿舎の人も居るし、あいつだって不調を放置しとくことの怖さは知ってるハズ。なんせ山好きだし)

 天道が離脱してからも滞りなくバーベキューは続いた。それでも終わりは必ず来る。宴も酣(たけなわ)、皆も満腹になり、風呂の刻限も迫っておったのでそろそろ御開きとなった。

「ツカサ、悪いが片付けを任せてもイイか?」

 士が後始末をしようと腰を上げた正にその瞬間、スコットが責務の放棄を告げた。普段の彼ならば、この様な事は間違っても口にせぬ。

「ああ、イイけど、なんで?」

 なので、彼の申し出に疑問を感じた士は、了承しつつもその訳を求めた。

「少し用事が出来た。クリントとバッキーも一緒に行くから、二人の分も頼みたい」

「用事? なんかあったのか?」

 彼の言葉に思わず過敏になる士。これまでの経験から、咄嗟に碌(ろく)な用件ではないであろうと勘繰ったが、結果的にそれは杞憂であった。

「いいや、たいした用ではない。ココに来た時に張った結界の点検と調整だ」

「結界ぃ? そんなモン設置してたのか」

「ああ。万が一に備えてな。オレたちが居ることで何か良くないモノを呼んでしまう可能性もある。そのための措置だ」

(その『オレたち』の中に俺は入ってないだろうな)

 否、寧ろ我の事を指しておると考えられる。加えて、美輝も含んでおるかも知れん。

「何も無ければソレが一番だが、用心するに越したことはない。オリエンテーリングの時みたいな惨状は避けたいからな」

 彼の言う通り、再度あの様な事態には遭いたくない。絶対に御免だ。

「まぁ、結界と言っても、オレたちでも張れるような簡易的なモノだがな。せいぜい侵入者を感知できる程度のモノだ。ソレを何層かに分けて建物と周囲一帯に設けてある」

「怪しいモンが最初からそん中に居たらどうすんだよ」

「ソレについても織り込み済みだ。残念ながら精度は高くないが、ソレもさん……四人なら充分カバーできる」

 スコットの話し振りから察するに、対策はちゃんと練られておる模様。未熟なりに、自分達の力量の埒内(らちない)でも出来得る事を模索しておる。ブルースの教育の賜物(たまもの)であろうか。

「ふーん、そうか。分かった。こっちはイイから行って来てくれ」

 士がそう言うと、スコットは礼を述べて何処(いずこ)かへ立ち去った。クリントとバッキーも彼に追随。共に所用を済ませに行った。

(さて、こっちもさっさと用事を済ませるか)

 士を含む何十人もの生徒達は、バーベキューに必要な物を宿舎の近くに在る物置小屋に運んだ。砂浜に並べられた約二百人分の机や椅子、食器類を始め、食材を焼く為の網とそれを乗せる用に加工・切断されたドラム缶、全部だ。燃え尽きた木炭は、専用の場所へ捨てに行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。