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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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第18話:脱獄デーモン

「奴が逃げたのか!? 何故?! 如何(どう)やって?!」

 ブルースの発言を聞き、我は更に詰め寄った。語気もつい荒くなる。

「分からん。まぁ、とりあえず座れ。そして落ち着いて我輩の話を聴け」

 彼処(あそこ)では能力は使えぬ筈。仮に使えたとしても、十重二十重(とえはたえ)に設けられたセキュリティが脱獄を困難たらしめておる。誰かが外部から手引きしたか、或いは設備の隙間を縫って能力を行使したか。

「まあ、奴の特性を考慮すれば、それほど難しいことではないのかもしれんな」

「糞っ!! だから早々に死刑に処せとあれ程……っ!」

 いや、この際、手段なんぞ問題ではない。一刻も早く奴を逮捕、もとい捕獲せねば。

(なぁオイ、なんの話してんだ? 誰か逃げたのか?)

 今まで放ったらかしにしておった士が、疎外された事に我慢ならず会話に割り込んできた。

(ああ、魔界のとある刑務所から凶悪犯が逃げ出したのだ)

(その割には随分アッサリしてんな。んで、俺らがムリヤリ連れて来られたことと、それがどう関係するんだ?)

其奴(そやつ)は我が逮捕したのだ)

(あ? だから?)

 察しの悪い奴だな。これだけ情報を与えてまだ分からんか。

(自分で言うのもなんだが、逃亡中の凶悪犯を一度は捕まえた功績がある。その経験を活かして協力して欲しいのであろうよ)

(あー、そういう事か)

 彼等の口から何が切り出されるか予想し、それを士に話すと此奴(こやつ)はやっとこさ理解した。そしてその後、まるで見計らったかの様なタイミングでブルースが言った。

「でだな、お前さんたちを喚んだのは他でもない。奴がこの辺りに逃げたという情報が入った」

「協力しろと?」

「ああ。適任だと思うが」

 ほらな。我の言った通りであろう。

(あぁ、そうだな。ってかその前に、ここがどこだか訊いてくれ)

 そういえば現在地すら把握しておらんかったな。スコットの弁では東京らしいが。

「ココは……えーっと、何と言うのであったかな?」

 思い出せぬブルースの代わりに、スコットが説明した。

「日本東京都八王子市です。ちなみにこの裏には高尾山があります」

「あ、あー、そうそう。八王子であったな。高尾山は今どうでも良い」

 ブルースはそう言うが、逃走犯が身を隠す場所としては候補に挙げておくべきだ。そう考えぬ訳でもなかったが、潜伏先に山は選ばぬであろうな。奴の性格を鑑みれば。

彼奴(あやつ)、昔から山は好まぬからな。潜んでおるとすれば街中であると思うが」

 それは奴に対するブルースと我の共通認識。また、人混みに紛れられる事もその一因であるな。ただ、切羽詰まれば自然と足が向くかも知れん。安易に除外すべきではない。

「む、待てよ。ならば最近、(ちまた)で騒がれておる仮面の集団も……?」

「うむ。十中八九、奴の仕業だな」

 やはり、あの時に連想した事は的外れではなかったか。それに、スコット達が此処(ここ)のところ姿を見せんかった理由も判明した。奴が人間界に逃げ込んだ為、その捜査に当たっておったのだな。

(チッ、なんで日本に逃げて来るんだよ! 他にもっと高跳びしやすい国あんだろ!)

 士は悪態を()く。全く以てその通りだ。だが、奴がこの国を逃亡先に選んだ事で、再び牢獄に()ち込める確率が上がる。何せ、我々が潜んでおったのであるからな。他国へ逃げ出された場合よりも、迅速な対応が可能となる。

(出来てるか? それ。現状、かなりヤバイ状況だろ)

余所(よそ)の国へ逃走されるよりは幾分かマシ、としか言っておらんぞ)

 奴がその気になれば、今の平穏を一瞬で惨劇に変えられる。仮面の者共を一斉に暴徒へと変貌させ、街や人々に血の雨を降らせられる。士はそう指摘しておるのだ。

(そうならぬ様に、ブルース等が必死で捜索しておる)

 何時(いつ)の間にか、この場から立ち去っておったクリントとバッキーがその証左である。彼奴(あやつ)の自国の部下達も、何百と動員しておるであろう。

(ふ~ん。まぁとりあえず、あいつらが学校を休んだワケと、そいつが危険なヤツだってことは分かった)

 もう一つ、早々にその身柄を確保せねばならん事も理解できた様だ。

「ではアモン様、コチラを」

 そう言ってスコットが差し出した物はイヤリング。それを見るや否や、ブルースがゆっくりとジェスチャーで仕舞う様に指示する。

「スコット君、彼らにそれは必要ない。というか無意味だ」

 スコットが我等に渡そうとしたイヤリングは、仲間内でテレパシーが可能となる代物である。これで、リアルタイムかつ複数人の間で相互に連絡を取れる。士も以前、彼等が実際に使用する場面を視認しておる。

 加えて、メンタルバリアに関しても既知だ。これは元々、我の脳及び魂に施された障壁で、テレパシーやその他の精神干渉を遮断してしまう。それが士にも継承、というより我と共有しておる。故に、あのイヤリングを装着しても無駄なのだ。

「そうですか」

 前述の解説をブルースから聴いて納得し、スコットはそれをポケットに入れ直した。

「常日頃から便利だと思っていたが、こういう時は不便だな」

「文句なら先代のルシファー様に言ってくれ」

(おそ)れ多いから無理」

 まあ、どの様なモノにもメリットとデメリットがあるという事だ。

「ブルースよ、まだ奴の居所が掴めんのであれば、ルシファー様にお願いしては如何(どう)だ?」

 あの御方の能力を用いれば、奴の潜伏場所を突き止める事なんぞ造作もない。しかし、相手は魔王。優しい御方ではあるが、そう簡単に動いては下さらんであろう。

「いいや、それは出来ない」

 なので、ブルースの返答も容易に想像できた。その理由以外は。

「というより、真っ先に御力を借りに赴いたのだが、どうやら奴は今、テレパシーを遮断しているようなのだ」

「ルシファー様でも探知できんかったのか?」

「ああ」

 由々しき事だ。あの方の能力で探れぬとなると、手段は限られる。否、ルシファー様の力が凄過ぎるだけか。それにしても、一体どの様な方法でシャットアウトしたのか、とんと見当も付かぬ。ただ、奴の能力を思い出してみると、不可能という訳でもなさそうである。

「幸い、ここら辺に居ることは分かっている。我々の魔術と道具、それと人間達が創ったシステムも利用させてもらってな」

 前者は、指定した存在を探し当てる事に向く。漏れ出た魔力を辿って行く方法が主流だ。ただし、それは奴も承知の上である。脱獄中の身であるとはいえ、此方(こちら)の世界に来られる位だ。何等かの対策は講じておろう。腐っても上級悪魔であるし。

 後者は情報収集には打って付けだが、悪戯やガセネタが沢山含まれておる為、有益なモノとの取捨選択が難しい。

 ただ今回は、日本のテレビで報道される位に明白な証拠が挙がっておる。追加事項として、奴が此方(こちら)へ来る際に使用したと思われるゲートの最新設定が日本であった事。以上の事由から、必然的に特定された隠伏場所がこの辺り一帯なのだ。子供でも分かる理屈である。問題は此処(ここ)から先が絞れぬという事だ。

(いやいやその前に、なんで八王子って分かったんだ? ニュースじゃ関東一円に出没するってことしか言ってなかったぞ?)

 士の疑問を代行してブルースに()つけると、『仮面集団の目撃情報が最も多かったから』という答えが返ってきた。

(なんだその大雑把な理由。不確かにも程があんだろ)

 奴は昔から大勢の護衛を“持って行く”為、この推測は一概に間違いとは言えぬ。しかし、彼奴(きゃつ)此方(こちら)の思考がそういう風に向く事を見抜いておる筈。その為、(わざ)と違う所に囮として大量に配置する、という作戦である可能性も捨て難い。

(あ? なんだ? 前々から知ってるヤツなのか?)

 我の話し振りから、士はその結論に至った様だ。

(んん? ああ。幼馴染だ)

(またかよ)

(まだ二人目であろうが)

(まぁ、そうだけど、極端だな。お前の幼馴染)

 幼い頃から、ブルースと奴は正反対であったからな。まさか、此処(ここ)まで違ってくるとは夢にも思わんかったが。

(ってことは、お互いの手の内が割れてるってワケか。やりにくいな)

 予想した事柄が相互に潰されていく訳であるから、面倒な事この上ない。

(だが、このまま放置しておくなんぞ論外。絶対に捕まえねばならん)

 落胆するのはまだ早い。有利な点もある。我とブルースの手並みは知られておるが、士やスコット達の能力・体質までは知らぬ筈。ただ、後者は下手をすれば調べられておるかも知れんし、家名が分かればどの様な手段を()るのかある程度は推理できる。油断は禁物だ。

 しかし、前者はまず調査不可能、かつ発覚したところで如何(どう)にもならん。更に、前者にしてもスコットの“眼”は先例がなく、他の二人の技能も同様に対処が難しい。勝機は十二分にある。

(なぁ、ひと探しなら光も連れて来りゃ良かったんじゃねぇか?)

 士はふと思い付いた事を提案した。名案ではあるが、現況を考慮するとなると少々惜しいな。

(彼女のゴーレムは確かに有効だが、事情は何と説明するのだ?)

(悪魔だってことを話さなきゃ良いだけだろ。俺は悪魔化しなけりゃ問題ないし、スコット達にしても超能力者なんだって言や納得すんだろ)

(馬鹿か貴様。浅薄か貴様。悪魔化せざるを得ぬ程の苦境に追い込まれたら如何(どう)するのだ)

(え? 相手、そんなに強いのか?)

 彼奴(きゃつ)の身体機能そのモノは、人間や中級悪魔よりも高い。しかし、直接的な戦闘能力は上級悪魔でも低い方だ。ただ、上級悪魔らしく固有の能力を持つ。それを補って余りある位に。

(仮面が関係してんのか?)

(うむ)

 人格、という表現が正しいのかは分からんが、中身には難のある奴ではあった。そのお陰で、長い間監獄で静養する羽目になったのだ。

 ただその代わり、他の者にはない特殊な能力があった。奴は自作の仮面に、身体機能の向上を始め、様々な効力を付与する事ができたのである。これは奴の家系にも他家にもない、非常に珍しい能力であった。スコットの“眼”と同じ様なモノだ。

 また恐らく、以前、彼等が被っておった仮面も彼奴(きゃつ)(こしら)えた物であろう。魔界に住む者達にとって、奴が作製した仮面を所持する事は一種のステータスになっておるのでな。犯罪者として知られる様になってからも尚、その認識は変わらぬ。

(てか、凶悪な犯罪者が作ったモンなのに欲しがるヤツ居んの?)

()るのだよ、それが。王族すら所有しておるよ)

 それ程までに優れた代物なのだ。中には定価以上の値段が付いておる希少品もある。数が多い廉価品等は、不良共の箔付けにも用いられるな。

(でもさぁ、魔界の刑務所に入ってからは作ってねぇんだろ?)

(当たり前だ)

 ただ、それまでにかなりの数を世に出したからな。全容を把握しておる者なんぞ一人も()らんと思うぞ。

(じゃあ、脱獄もそれを利用したんじゃねぇか?)

 我の話を聴いて、士が突拍子もない事を言い出した。だが、サラッと聞き流せぬ事項でもある。一応、耳に入れておこう。

(と言うと?)

(被ったヤツが脱獄の手引きをするような術をあらかじめ施しといたんだ。意思を奪うとか、体を操るとか。んで、それを世間にバラ撒いた)

(まあ、不可能ではなかろうが、幾らなんでも飛躍し過ぎでは? それではまるで、捕まって収容される事が分かっておったみたいではないか)

(最初っからそういう為に作ったんじゃなくて、元は別の目的で作ったのかも)

 そして、不運にもそれを被った何処(どこ)の誰とも知らん其奴(そやつ)が脱走の手助けをした、と。仮にそれが正解であったとして、そう上手く事が運ぶかね。仮面は、小さく作れば問題なさそうだが。

(それこそ運が良かったんだろうさ)

 偶々(たまたま)、凶悪犯が収容された場所に出入りできる者がそれを被り、誰にも不審に思われる事なく()って退けた。その者を引き寄せた奴の運は並大抵ではないな。

「む? どうした?」

 我々が彼是(あれこれ)と思案を巡らせておると、眼前の巨漢のイヤリングに連絡が入った。(しば)しの沈黙の後、重々しく口を開くブルース。

「分かった。すぐに向かう」

「何かあったのか?」

「ああ。例の仮面を着けた連中が街で暴れ始めた」

此処(ここ)へきて急にか?! 今までは大人しかったというのに!」

 だが、悪い知らせはそれで終わりではなかった。東京を囲む幾つかの県でも、同規模の被害が拡がっておるとの報告も(もたら)されたのだ。

「流石に痺れを切らしたのだろう。むしろ、よく今まで我慢できた」

 まあ、奴の性格を知っておれば、その考えに至るのも無理はないが。

「今、地元の警察と協力して住民たちの避難誘導とヤツらの掃討を行っている」

 その中でも此処(ここ)、八王子の動員数が最多だ。敵も味方も。

「では、自分もツカサとアモン様と一緒に援護へ向かいます」

 彼と同じ情報を得ておるスコットが、扉の前まで歩きながら言った。

「うむ、そうしてくれ」

 ブルースが放った肯定の直後、彼は建物の外へ。我もそれに追従。士からも反対は無し。それと同時に、我等は肉体の主導権を元に戻した。

(俺に返して良いのか?)

(雑魚相手に我が出るまでもない。あの仮面共は貴様で充分だ。ただ、奴が目の前に現れたら再度代わってくれ)

(そうか、分かった。……そうだ。沢渡さんたちに電話の一本ぐらい入れといた方が良いんじゃねぇか? 悪魔とかその辺のことは隠して)

(それはならん。悪魔が犯した失態は、悪魔の手で着けねばならぬからだ)

 それに、貴様が連絡せずとも動いておると思うぞ。仮面の輩達を排除すべく。

(う~ん、それもそうか。ってお前、仮面のヤツらが何モンか知ってんの?)

 アレ等は死体だ。下級もしくは中級悪魔の。それに専用の仮面を被せて支配下に置き、斥候・索敵・伝令、身辺警護や戦闘等に()てておるのだ。奴が昔から使う常套(じょうとう)手段である。(かつ)ては人間を素体に用いる事もあったが、ある時を境にパッタリと止めてしまった。見向きもせん。皆は運動能力や感知範囲、強度面を考慮しての事であろうと、共通の認識を(いだ)いておった。数は揃え易いが、やはり性能の差は歴然であるからな。それに、魔界で人間の(むくろ)は調達し難い。

(じゃあ、こっちに来てる今なら……)

 物量で()してくるかも知れんな。約一週間で我々が得られた情報から、奴が此方(こちら)へ入って来たのが最近であるのは確実。だが、先述程度の品質ならば、短時間でも結構な数を用意できる。それも、一定のパフォーマンスを発揮する物を。

(なるほど。確かにお前の言う通りだ、なっ!)

 士は本能でそう感じ取りつつ、奴の下僕の一体を殴り付ける。建物の外に一歩踏み出した途端、ソレは襲い掛かって来たのだ。

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